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第35話 ダンジョンのアパート

「くっ! 転移の罠か!? ここはどこだ?」


 シュウの叫び声を聞いて、アオも気づいた。自分たちが、どこかに飛ばされてしまったことに!


「が、がう?」

「ちきしょう! アキミを一人残しちまった! あいつ! 戦いには自信がないとか言っていたのに!」


 ここはどこだろうと言いたかったけど、シュウには通じていないようだ。やはり通訳してくれるアキミがいないと意思疎通もままならないらしい。


 アオはきょろきょろとあたりを見回した。ここは4畳半くらいの部屋で、奥につつく扉がある。床や壁はきれいで現代的、まるでどこかの待合室のようだった。


「なんかマンションとかアパートの受付みたいな場所だな。こういう時は助けを待つのがセオリーだが、待っている間にアキミが襲われちまったらたまらない」


 そうつぶやくと、シュウは真剣な目でこちらを見つめてきた。


「いってみるか?」

「がう!」


 アオは即座に返事をした。この場所を探索して出口を見つける。そして一人きりになったアキミと合流するのだ。アオはやるべきことを頭に思い描いた。


「あの扉が開きそうだな。準備はいいか?」

「がう!」


 シュウの問いに、アオは勢いごんで返事をするのだった。



◆◆◆◆



 扉に入ると、そこは廊下のような場所だった。奥まで廊下が続いており、途中途中に扉が左右合わせて10個もある。突き当りにも扉があった。シュウの言う通り、まるでアパートに紛れ込んだような気分になった。


 シュウは手前の扉を点検している。手にハンカチを添えながら慎重にドアノブを探っている。ドアノブを回すと、静かにアオのほうを見た。


「カギは、かかっていない? この部屋から調べてみるか」


 振り替えるシュウに頷きかけた。じっくりと調べたい気持ちはある。だけど今は緊急事態だ。一刻も早くあの塔に戻ってアキミと合流しなければならない。


「がう! がう!」

「お、そうだな。悩んでいる時間がもったいないぜ。よし! 開けるぞ」


 勢い良く扉を開けるシュウ。そこに広がっていたのは・・・。


 まるで、アパートのような一室だった。


 小さな玄関があって、通路の隙間にキッチンらしきものがある。トイレとシャワールームもあって、居間もある。その先は6畳くらいの寝室だ。テレビで見た1DKくらいの部屋がそこにあった。


「なんだ、これ? 1人暮らし用の物件みたいじゃねえか。学生時代を思い出すぜ。ん? ベッドも備え付けなのか? 冷蔵庫までついていやがる。明かりもついているなんてな」


 シュウが電源をポチポチといじりながら話した。スイッチを押すたびに部屋の明かりがついたり消えたりして、電気まで通っているようだ。


 アオとシュウは部屋を探る。もしかしたらヒントがあるかもしれない。でも、何もなかった。洗濯機やクローゼットなどはあるのに、肝心の中身はまるでない。ここで休むことはできそうだが、暮らすとなるといろいろ揃える必要がありそうだ。


「戻るためのヒントになりそうなものはないな。この部屋の探索はこれくらいにして、他の扉も調べてみようか」



◆◆◆◆



 あの後、他の部屋も調べてみた。廊下に面する10個の部屋はすべて最初の部屋と同じ設備が揃っており、本当にアパートの物件巡りをしているような気分になった。4号室と8号室だけ広くて、2LDKくらいの広さがあった。驚いたことに内から鍵もかけられるようになっていて、居住者が安心して暮らせるようになっているらしい。


 そして、突き当りにある一室だった。寝室とは別の部屋のようで、ここだけ雰囲気が他とは違う。今までのような小部屋があるわけではないだろうけど・・・。


「じゃあ、開けるぜ。準備はいいな?」

「がう!」


 そして再度、シュウは扉を開けた。


 その先には、今までのような部屋があるわけではなかった。広い部屋に、長テーブルがいくつも置かれていて、部屋の奥にはホワイトボードのようなものまである。さながら会議室のような部屋に、アオは目を瞬かせた。


 不審に思いながら部屋を探索する。隙間に何かが潜んでいるようなこともなくて、本当に話し合いをするだけの部屋のようだった。椅子の数は10脚以上あるのか。ここは話をするためのミーティング上のような場所らしい。


「アオ! ちょっと来てみろ!」


 部屋の奥を探っていたシュウが呼び止めた。アオが近寄ると、部屋の最奥、四隅の奥に細長い箱が置かれているのに気づいた。その箱は変な模様で装飾されており、まるでゲームの宝箱のようだった。


「あからさまに怪しいよな? でも虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言うし、帰るためのヒントがあるかもしれない」


 シュウは悩んでいるようだ。でもこういうのはアオの出番だ。体力があり、回復力もあるアオのほうが、何かあったときになんとかできると思う。


 シュウを押しのけて宝箱に向かうと抗議の声が上がった。


「アオ! ・・・。ったく、しょうがねえな。アキミがいりゃあ何とかすると思うがな。十分にをつけるんだぞ」

「がう!」


 シュウが後ろで見守る中、宝箱を探る。箱の下にスイッチがあって、これを押せば蓋が開く仕様になっているようだけど・・・。


 いやな予感はあった。だけどこうしていても始まらない、アオは思い切ってスイッチを押すと、勢いよく宝箱の蓋が開いた。そして、次の瞬間、アオの体に何かがまとわりついた。


「くそっ! やっぱり罠か! アオ! 逃げるぞ!」

「が、がう! が、がああああああああああああ!」


 襲い掛かってくる何かを必死で振り払う。どうやら何かの群れに纏わりつかれているようで、振り払っても振り払っても取れない。そればかりか、全身に激しい痛みが襲った。何か、小さなものが取り付くたびに、アオの体に鋭い痛みが走るのだ!


「が、がああああああああああああ!」

「くそっ! アオ! 動けないのか!」


 シュウの言葉が聞こえた瞬間だった。後ろから嫌な気配が漂った。足元から感じるそれは、今までにないくらい強い。うっすらと目を開けると、シュウの足が何か、細くしなやかに変わっていることに気づいた。


 これがシュウのアビリティ! シュウはアビリティを使って逃走を図っているのか!


 胴を抱えられた。そして見る見るうちに風景が変わっていく。アオはすごいスピードで箱から遠ざかっている。


 会議室を抜け、廊下を通り過ぎていく。曲がり角を越えているのにスピードはほどんど変わらない。気づけばアオたちは最初にいた待合室まで移動していた。移動している間に何かの大半を振り払ったようで、痛みは続いていたものの、新たにどこかを食われたということはなさそうだ。


「くそっ! やっぱりここで行き止まりかよ!」


 耳元でシュウの吐き捨てる声が聞こえた。どうやらシュウはアオを抱えてあの場から去ってくれたらしい。


 でも、追跡者はあきらめてはいない。何かの塊がアオたちを追ってきているのが見えた。あれは、虫の大群か? 虫が群れになって、アオたちを襲い掛かってきているというのか!


「こうなったら、使うぞ! って、なんだ?」


 シュウの戸惑うような声が聞こえた。そしてアオも気づく。ここに入ってきた時のように、アオたちに光がまとわりついていることに!


「これはまさか! くそっ! 間に合うか!?」


 シュウの言葉が終わるかどうかというタイミングだった。虫の群れ――赤い蠅だろうか。それはさらにスピードを増したようだが、捕まえられる寸前に光が視界一面に広がって・・・。


 気が付けば、異なる景色が広がっていた。駆け寄ってくる金髪のきれいな少女の姿に、一瞬だけ混乱する。でもすぐに思い至った。地価迷宮のようなこの場所は、アオとシュウが飛ばされたあの袋小路に違いないのだから。


「シュウさん! アオ! 大丈夫!?」


 アキミの声だ。心配そうなその声にこたえることもできず、全身の痛みがぶり返してきた。何かに食われたように血まみれになっているらしい。


「がう・・・」


 何とか返事をしようとしたが、限界だった。消えゆく意識に逆らうことはできない。アオの意識は、否応なしに闇へと溶けていくのだった。

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