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第31話 魔線組の闇1

 それから数時間が過ぎたころだった。


「よ、よし。これで私も!」

「ああ。これでスキルを取って、戦えるようになったんですね」


 死体をつついた2人がほっとしたように息を吐いた。


 最後の2人だった。アオたちは第1階層で魔物を探し、その死体を新人につつかせてポイントを稼がせていたが、これで新人たち全員がスキルポイントを得られたことになる。


「よし。予定通りだな。これで全員がスキルを得られるはずだ。あとは自分でいろいろ試してみるといい。そろそろ戻るぞ」

「あ、ああ! 速く試してえ! このスキルがあれば、俺だって戦えるようになったんだ! 俺が強くなったことを証明できるんだ!」


 あのミナトと呼ばれた少年が意気込んでいる。


 確か、彼はポイントを得て『大剣術』のスキルを得たはずだ。戦えるスキルをゲットしたことは間違いないけど、本当に戦えるのか。戦えるとしても、これが本当に正解なのか。アオは疑問が浮かぶのを隠せなかった。


「スキルがあっても戦えるかは別問題かもしれませんよ」

「何言っていやがる! 俺が戦えなかったのはアビリティが弱かったせいさ! スキルさえあれば冒険できる! 誰よりも早くこの『暴食の塔』を攻略して、俺の存在を全員に認めさせてやる!」


 サトシがたしなめるが、ミナトは取り付く島もない。スキルを得たことで高揚しているようだ。


 サトシは、思わずオミに語り掛けた。


「オミさん。本当にこれでよかったのでしょうか」

「まあ、大量の死者を出すようなスパルタよりはましだろう。スキルを身に着ければ当面は魔物を倒して稼げるようになる。街の経済を回すためにも、ある程度戦える奴を作るのは必須だったからな」

「それに、このままじゃあ正同命会にばっかりでかい顔をさせちゃうからね。あいつら、信仰と引き換えに一般人のスキル取得の手伝いをさせているみたいだし。ま、さすがにアオみたいに経験値をあげるようなことはできないみたいだけどさぁ」


 サトシとオミの会話にアキミが口をはさんできた。


「よし! さっそく俺もスキルで敵を倒す練習をしないと!  やっと、ここでの生活が楽しくなってきた!」

「そ、そうね。うん。私たちはもう役立たずじゃない! 私たちだって、ここで生きていくための一歩を掴んだんだから!」


 こちらの話を聞いているのかいないのか。新たにスキルを取得した新人たちは興奮した様子だった。



◆◆◆◆



 街へと帰る途中でも、話題は取得したスキルのことでもちきりだった。


「早くスキルを試したいぜ。えっと、街にはスキルを試し打ちする場所もあったよな?」

「そうね。そこでスキルを練習し続ければある程度は熟練度が上がるみたい。ま、ある一定以上は実戦で使わないと熟練度にならないようだけど」

「くひひ。これで俺も一人前の探索者さ! 先に取った奴よりも効率よくレベルを上げる方法は分かってんだから、すぐに追いついてやる!」


 特に興奮しているのはミナトら3人だった。どうやってスキルを鍛えようか、追加で手にするスキルはどれが良いかをしきりに話していて、みんな期待しているようだった。


「お前ら! 分かっているのか? スキルを得ただけじゃ、スタートラインに立ったに過ぎない。これからそのスキルを使いこなせるようにする必要があるんだぞ!」

「でも今までスキルを得るなんて夢物語だったからさ! 興奮するなってのが無理ってもんさ!」


 オミの制止すらも聞かず、好き勝手な展望を語る新人たち。その様子を見たオミは「しょうがねえな」と言わんばかりに苦笑していた。


 だが、そんな時だった。入口に近づいた一行に、大声が掛けられた。


「よお! オミ! 例の計画はうまくいったようだな!」

「レンジ! それにヨースケとヤヨイまで! どうしてここにいるんだ」


 待ち構えていたのはレンジだ。レンジが腕を組み、不敵な笑みを浮かべて仁王立ちしていた。その後ろに控えるように、やせた背の高い男と不健康そうな女が佇んでいた。2人の、男のほうを見てシュウがいぶかし気に眉を顰めた。


 オミの口ぶりから知っている探索者のようで、アオも怪訝な顔をしてしまう。


「やるじゃねえか! 全員無事でスキルを取らせるとはな! くくく。さすがにあの人のお気に入りってだけはあるな」

「お前ってやるときはやるよなぁ。一人の怪我人も出さずにスキルを取らせるとはよぉ。あの人は本当に見る目もあるよなぁ」

「ヨースケさん・・・」


 ほめるレンジともう一人の男をサトシが複雑な表情で見ている。オミも苦虫を噛みしめたような顔をしていた。


「ヨースケ。お前がどういう・・・」

「いや俺も不本意だがよぉ。組の方針なんだ。この命令を出したのが東雲さんって言うのも個人的には気に入らねえんだけどよぉ」


 オミとヨースケと言う男が話す傍らで、レンジが力強く叫んでいた。


「よくやったじゃねえか! きっかけは何にしろ、お前たちは見事に力を手にしたんだ! ここで生きていく第一歩を、見事に掴んでみせたんだ!」


 レンジが大声を上げた。新人たちのボルテージは下がり、うつむいて嵐が通り過ぎるのを待っているようだ。


 レンジは構わない。誰も話を聞いていないのは分かるだろうに、そのまま力強く叫び続けた。


「この世は弱肉強食よ! 弱ければすべてを奪われ、強ければすべてを手にできる! この世界に来て、お前たちも痛感したはずだ! そして思っただろう! なぜ自分には優れたアビリティがないか! なぜ自分だけが弱いままなのかとな!」

「! やはりお前は!」


 オミは制止しようとするが、あのヤヨイと言う女が遮った。


「ヤヨイ! どけ!」

「私もこういう面倒なことは嫌なんだけどね。面倒だけど、一応私たちも組に所属しているわけだし」


 大見は舌打ちし、ヤヨイを睨みつけた。ヨースケと言う男はにらみ合う2人を見ることもなく何かに集中している。そしてアオは気づいた。ヨースケという男から、不快な波動が流れているのだ。波動はあたりに充満している。それに影響されたのか、シュウもアキミも黙ったままだった。


「スキルを得たことでお前たちは変わった! 生まれ変わるチャンスを手にしたんだ! だが、スキルを得たからと言っていきなり強くなれるわけじゃない。お前たちも知っているだろう? 強力な力を手にした全員が生き残ったわけじゃないことを。力を手にする前に、命を落とした奴も多いことを!」

「てめえ、やめ・・・!」


 制止しようとするオミに立ちふさがるヤヨイ。絶妙な間合い取りで、オミはつかみかかることもできない。怒りに顔を染め、きつく睨むオミとは対照的に、ヤヨイという女はどこかめんどくさそうだ。


「スタートラインに立ったお前たちには権利がある! そのスキルを育て、強くなって周りを率いる権利がな! お前たちが強くなれるよう、魔線組が、この俺がサポートしてやる! 俺について来れい! お前たちは強さを手にできる! 今まで見下してきた奴らを見返せるだけの強さを手にできるんだ!」

「い、いや、俺たちは・・・」


 新人の一人が思わずと言った感じで反論するが、レンジの強い口調は変わらない。


「おう! 小さな声でぼぞぼそいうんじゃねえよ! お前らはもう昨日までの役立たずじゃねえんだからな! お前らはここで生きるための力を掴んだんだ!」


 はっとしたように顔を上げる新人たち。そんな彼らにレンジはふてぶてしく笑いかけた。


「スキルさえとりゃあ、お前たちはもう一人前だ! お前らは見てきただろう? スキルをとったやつが一生前の探索者として活躍する姿を。それを指をくわえてみていたんじゃないか? 心配すんなよ。お前たちもそうなれる! お前たちの番が来たってことだ!」

「レンジ!」


 レンジは激励の言葉を掛け続けた。


「さあ、学べ! スキルの使い方ってやつを! 他のスキルを取るのもいいだろう。スキルを使えばポイントを得ることだってできる。その手伝いならやってやる! 俺たちが助けてやる! 力を得たい奴はついてこい! 力の使い方を、俺たちが教えてやる!」


 レンジが叫んだ。あまりに強引な勧誘の言葉なのに、普通なら耳に止めるはずのない言葉なのに、新人たちの心が動かされているように感じた。新たな力を得た高揚感か。それとも・・・。


「がう・・・」


 アオは気づいたらヨースケと言う男を睨んでいた。アオの視線に気づいたヨースケはにやりと笑っていた。


「力をつけたい奴は俺についてこい! スキルの使い方を一から教えてやる! お前らは今日から魔線組の一員だ! その力で、今まで馬鹿にしてきた奴らを見返してやろうぜ!」

「お、おおおお!」


 叫んだのはミナト少年だった。あのレンジの言葉に動かされ、強くなるために一緒に行動しようというのか。他にも2人の新人がレンジについていくような気がする。


「くそっ! これじゃあ魔線組の戦力増強に付き合わされたようなもんじゃねえか」


 シュウの悔しがるような声が、いつまでもアオの耳に残ったのだった。

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