第30話 パワーレベリング2
塔の1階層を連れ立って進んだ。なんだか見覚えのある場所を歩いているようで、アオは思わずきょろきょろとしてしまう。
「アオはこのあたりで目覚めたんだよね?」
「が、がう?」
どこかで見た場所だと思ったら、向かっているのはアオが目覚めた卵のような場所らしい。
「がう」
「え? 気づいたらここにいて、すぐに移動したからあんまり覚えていない? ま、あたしも生まれた病院とか知んないからね。小学校のこともうろ覚えだし」
アキミのフォローに救われる思いがした。こういう時はアキミが本当にコミュニケーション能力があることに頷かされるが・・・。
「なんかよ。お前ら、意外とコミュニケーションが取れているんだな。てか、アキミはアオの言ってることが分かんのか?」
「ん~。なんとなくかな。相手の言いたいことを察せるのは前からだけど、最近は特に勘がよくなったっていうか。だんだんとアオが言ってることが具体的に分かるようになったんだよね」
シュウはあいまいな表情を浮かべてしまう。
原理が分からないのは少し不安だったが、アキミがアオの言いたいことを察してくれるのはありがたかった。いちいち文字を書き込まなくても伝えたいことが伝わるのは正直助かるのだ。
「話によると、最近はあそこに魔物が潜むことが多くなるらしくてな。調査した探索者が襲われたことがあったらしい。つまり、オラム稼ぎにはうってつけってことさ」
「あそこ、隠れる場所が多いですからね。魔物を見つける手段がないと結構厳しいかもしれませんけど」
サトシはちらりとアキミを見たが、本人はまるで気にも止めず周りを警戒しているようだった。
そんな話をしている間に突き当りに差し掛かった。外から見えるその場所は、本当に大きな卵のようだった。広場の中心に30メートルほどの割れた卵の殻のような塊があり、おそらくアオはその真ん中で眠っていた。
「前は本当にこの卵しかなかったんですけどね。殻を壊そうにもどんな攻撃も通さなくて、壁や床と同じで破壊不能なオブジェクトか何かと思っていましたよ」
「懐かしがるのはいいけど、いるよ。気合を入れたほうがいいんじゃない?」
感慨深そうに語るサトシに、アキミが注意を促した。
アオもかぎ取っていた。卵があるあの場所に、何か魔物が潜んでいるのだ。
「ほら。出てきなさい。隠れてないでね」
アキミの声が静かに響いた。彼女の全身からピンクの靄のようなものが発言している。それは風の流れによるように、物陰へと吸い込まれていく。
「なんだ? 何かのスキルか?」
「いえ、あれがアキミさんのオリジンですよ」
眼鏡をくいっと上げたサトシを思わず見つめてしまう。そして、物陰にピンクの靄が集まっていく様子を呆然と見つめていた。
次の瞬間だった。
卵の殻の隙間から魔物たちがふらふらと這い出てきた。ゴブリンだ。2体ものゴブリンが、何かに操られるかのように頼りない足取りでこちらに近づいてきたのだ。
「う、うわ・・・。魔物が、本当に現れた」
ミナト少年の足はがくがくと震えている。剣を手に持つ腕も小刻みに揺れていて、正直なところあれでは戦えそうにない。
そうこうしてる間にいくつもの魔物が現れた。勝手に這い出た仲間を止めるつもりだろうか。ゴブリンの数は5体に増えていて、さすがの探索者も簡単には倒せない数に見える。
「があああああああああああああ!」
アオは一吠えすると、ゴブリンに向かって駆け出した! 迎撃の剣を簡単に避けると、返す刀でその首を掻き切っていく。そして襲い掛かるゴブリンに蹴りを入れ、その流れのままに次のゴブリンの頭を殴りつけた。
瞬く間に3体のゴブリンを片付けたアオを、6人の新人たちは茫然と眺めていた。あまりの手際に、言葉を失ったようだ。
「ふふふ。今回はこれくらいでいいか。あんまり欲張りすぎるのもね。私たちに会ったのが運の尽きよ。あなたたち程度でも実験には最適だからね」
いつの間にか、サナがゴブリンの後ろに移動していた。そして右腕をかざすとゴブリンは足元から霜が降りていく。慌てて身をよじるが、ゴブリンの体温が急激に冷えたようで動きが少しずつ鈍くなっていった。
「そらぁ!」
すかさず動いたのはサトシだ。槍を構えてゴブリンに接近し、鋭い一撃で頭を貫いていた。瞬間、サトシの槍が鋭く光っていたのは気のせいではないと思う。
あっという間に残り1匹になったゴブリンはオミと相対していた。オミはタバコを吹き消すと、鋭い目でゴブリンを睨んだ。
「×、×◆●▽!」
破れかぶれになったのか、ゴブリンがオミに突進するが――。
「おらあああああ!」
剣の一撃を簡単に避け、カウンターとばかりに拳を突き付けた。拳は容易くゴブリンの頭を破壊し、その姿を粒子へと変えていった。
ゴブリンたちを瞬く間に屠ったオミ達の連携を、新人たちはあっけにとられたように見つめていた。
「よし。うまくいったようだな。まずはお前とお前と、お前だな。アオが倒した相手をつついてみろ」
「あ、ああ」
オミの言葉に、フラフラと歩いていく新人たち。彼らがゴブリンの死体に触れると、それは粒子となって彼らのスマホに吸い込まれていく。アオにとってはおなじみの光景だが、6人の若者たちには衝撃的な光景だったようだ。
「す、すごい! ポイントとオラムが増えている! 前に会ったときは逃げ出すことしかできなかったのに!」
「これで俺も探索者として! へへっ! これなら、俺だって戦えるように!」
若者たちが喜びの声を上げるが、オミは冷静にタバコをふかしていた。そんな新人たちにテツオが偉そうに声を掛けていた。
「あと何回かこれをやればお前たちもスキルを得られるだろう。ま、こんな幸運はめったにないからせいぜいで感謝するんだな。他の奴らも、最初のスキルを取るまでは手伝ってやる」




