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第28話 フェイルーン

「がああああああ!」


 迫りくるゾンビの爪をスウェーバックで躱すと、お返しとばかりに拳を突き出した。拳はゾンビの顔面を捕らえ、容易く破壊してしまう。

 最初はてこずっていたここの敵も、アオは容易く倒せるようになってきた。


「ぐおっ! くそが!」


 いやな気配がして振り向くと、シュウが短剣出ゴブリンの首を切り裂いたところだった。魔物を屠ったはずのシュウの顔は優れない。悔やむような表情が見て取れた。


「がう?」

「おっ。はは。つい、使っちまった」


 力なくアオに微笑み返した。


 シュウはアビリティやスキルなしで魔物を倒せるようになろうとしているがうまくいっていない。特にスキルはかなり便利なようで、短剣で戦っているとつい使ってしまうようだった。


「駄目だよなぁ。爺さんに教わった技だけで行きたいんだが、つい使っちまう。スキルってやつは確かに効率的なんだよな。確実性もあるからいざというときにな」


 そう言ってシュウはポケットをあさるとスマホの画面を確認した。そして画面を見て溜息を吐いた。


「ああ。やっぱ熟練度が上がってる。短剣術が163%だと。これ、他の奴には喜ばしいことなんだけどな」


 スキルは熟練度が100%を越えなければレベルを上げることができない。熟練度は最初のうちはスキルを使うだけで上がるらしいけど、レベルが高くなると敵に有効打を与えないと上がらないものらしい。


 ぐうううううう。


 2人して悩んでいると、音が鳴った。アオの腹だ。どうやら魔力を使ったことで空腹感が増したらしい。アオは情けない顔で見上げると、シュウは困ったような顔で頬を掻いた。


「あー。そうか。腹減ったよな。それじゃあ、しょうがないか」

「がう・・・」


 問題は他にもあった。食糧問題だ。シュウはかなりの備蓄を持ってきてくれたが、それもかなり少なくなってしまった。アオが予想以上に食べたせいで食糧の減りが予想以上に多いらしいのだ。


 自分がよく食べるせいだと落ち込むアオを、シュウは慌てて慰めた。


「いや! アオが食ったせいじゃないぜ! 俺の見立てが甘かったせいだ! 金ならある! お前を食わせるだけは稼いでるんだ。だから!」

「がう!!」


 シュウの慰めを遮ってアオは吠えた。魔物の気配を感じたのだ。シュウは慌ててナイフを抜いた。


「ちっ! さすが第2階層ってか? 食っちゃベってる暇もないとはな! アオ! 気をつけろよ!」


 言われるまでもなかった。アオは姿勢を低くして側面を睨みつけた。


 足音が聞こえた。おそらくゾンビとの戦いを察知してこちらに奇襲をかけるつもりらしかったが、甘い。攻撃される前に、アオの耳は魔物の足音を聞き取っていた。


 2人は緊張感を感じながらも迎撃態勢を取った。足音は小さい。でも、分かる。敵の数は、おそらく3体。しかも、このばらばらの足音と匂いは・・・。アオはハンドサインでシュウに襲撃者の情報を伝えると、シュウは顔を歪ませた。


「ちくしょう。あいつらかよ。しょうがねえ。アオ。使うぞ」

「がう!」


 シュウが宣言するが、アオは返事を返した。アオもシュウもスキルを使うことには否定的だが、こればかりは仕方がない。近づいてくる敵は一筋縄ではいかないのだから。


「くらいな! 風よ!」


 シュウの言葉とともに生み出されたのは、緑の風だった。シュウの風魔法スキルによって生み出された風の弾は、狙いたがわずアオが示す方向へと突き進んでいく。


 風の弾は魔物に当たるとつむじ風を引き起こす。かなりの突風だったけど、さすがに魔物を倒すには至らない。でも奇襲をかけるのには十分だった。


「ぐおおおおおおお!」

「来たか! この化け物が!」


 魔法をものともせずに駆け寄ってきた魔物に回し蹴りを浴びせた。シュウもナイフで敵を撃退する。でも、3匹目の攻撃を防げる人はいない。シュウに向かって斧を振り下ろそうとするが、アオはぎりぎりで体を滑り込ませることに成功する。


「ぐあああああ!」

「ア、アオ!」


 魔物の攻撃を背中で受け止めたアオ。正直、すごく痛い。衝撃が骨まで響いた感じだった。それでも、魔物の斧はアオの毛皮を切り裂くことはできなかった。打撃はすさまじいものがあったけど、アオの毛皮は魔物の斬撃を防ぐことに成功したのだ。


「ぐおおおおおお!」


 反撃とばかりに拳を振りぬくと魔物は吹き飛んでいく。不完全な一撃だが、アオの拳は敵の鼻面に直撃したのだ。


「く! 貴様!」


 シュウが苦悶の声を漏らした。押されているのだ。さっきの攻撃では仕留められなかったのだろう。魔物の猛攻は、スキルを使っているシュウも苦戦していた。

 

「この!」


 シュウは何とか魔物を蹴り飛ばして距離を取った。魔物はさらに追撃してくるが、直前でぐっと止まる。アオが、シュウと魔物の間に割って入ったのだ。


「ごおおおおおおお!」

「がるるるるるるる!」


 斧を構える魔物と、うなり声を上げるアオ。姿を現した魔物に内心の嫌悪感を隠しながら睨みつけた。


 見れば見るほど異様な魔物だった。


 体格は個体差が大きいらしい。150cmから2メートルを超える長身の敵を見たという話も聞く。アオたちを襲った魔物は170センチから180センチ弱と言ったところか。恐ろしいのはその顔だ。右半分は人間の男のようだが、左半分は獣のように気がふさふさとしている。いうなれば、人間とゴリラのハーフと言ったところか。でも今まであった探索者と比べてもバランスが悪い。人間と獣が中途半端に混じっている様子が何だかおぞましかった。


「片手で斧を操っているのか。左だけゴリラみたいに力が強いようだな! くそっ! ホントわけわかんねえよな! 斧術のスキルを持っているみたいだし! 気をつけろよ!」

「がう!」


 シュウの警告に、アオは一吠えして答えた。


 フェイルーンと呼ばれる不気味な魔物だった。最初にアオを襲った奴は口元だけ人間で、頭の上部が狼のような姿をしている。シュウを襲ったのはまるで半魚人で、体のいたるところにひれのようなものが生えていた。


 この魔物をスキャンした探索者が言うには、ごく低いレベルのスキルを使いこなす恐るべき魔物らしい。アオたちは何度かこの魔物と戦っているが、すべて倒すには至らない。おそらく今回も・・・。


 ぴいいいいいーーーー。


 フェイルーンの一体が口笛を鳴らすと、3体の魔物は統制の取れた動きで下がっていく。アオが殴りつけた1匹を抱えて逃げていく姿は、見事と言ってよかった。


「くそが! あいつら、相変わらずわけわかんねえな! こっちの邪魔ばっかりして! ま、生同盟会の奴らの中にはあいつらを撃退したって話もあるけどよ」

「がう・・・」


 アオも、よく分からなかった。


 フェイルーンたちはアオたちの進路を防ぐように襲い掛かってくる。でも、仲間の命が危ういと踏んだらすぐに逃げていく。こちらを憎々し気に睨んでくるのが何とも気味が悪かった。


 勝てるときはイケイケで押し、仲間に危機が訪れたら瞬時に下がる。狂ったようにこちらを襲ってくる個体もいるようだが、アオたちが遭遇したフェイルーンは、みんな中途半端な感じだった。


 ポイントもオラムも渡さず、嫌がらせのようにこちらの邪魔をするこの魔物は、この階層では最も嫌われ者と言えるだろう。


「アオ。すまん。食糧切れだ。帰りのことを考えると。もう戻らなきゃいけねえ」


 思考を中断するように言ったシュウの言葉に、アオはうなずいた。アオに携帯食料を手渡したシュウは、そのままスマホの画面を再確認した。


「塔の入り口でオミたちが待っているらしい。なんでも俺たちに頼みたいことがあるとかでさ。ま、断ってもいいが、今後のことを考えるとな」


 そう言って、シュウは疲れたように息を吐いたのだった。

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