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第25話 いびつなイフリート

 魔物が駆け寄ってくるが歩く姿はどこかぎこちなく、なんだか動きづらそうだった。


 まるで水の中にいるように進んでくるが、あからさまにユートたちを睨んでいた。魔物は遮る何かの力を一瞬で振りほどき、その後に素早く動き出している気がする。動き出した相手は迅速で、アオはその姿を見てかなりの難敵だと思えたけど・・・。


「甘い!」


 入ってきた魔物のわき腹をユートが薙いでいた。いつの間に動いたのか、いつの間にそこにいたのか。完璧な奇襲だった。ユートは魔物が広場に入ってくると同時に、トカゲのわき腹を簡単に切り裂いた。


「やるねえ。あれ。魔法剣ってスキルだぜ」


 説明してくれたシュウに頷くと、アオはごくりとつばを飲み込んだ。ユートの剣が青く輝いていた。あれは、魔法剣というスキルを使っているということか。固そうなトカゲを切り裂いたのだから、相当な威力が乗っていたと察せられた。


 だけど、まだ魔物の攻撃は終わっていなかった。


「ご、ごあああああ!」

「駄目! 避けて!」


 トカゲはまだ生きていた。すさまじい形相で口を大きく開けると、火炎放射器のように大量の炎を吐き出したのだ! 


 だけどユートはどこまでも冷静だった。嫌な気配がしたと思ったらその姿が瞬時に掻き消える。その残像をトカゲの炎が焼き尽くすが、アオはトカゲの一撃が空を切ったことが読み取れた。


「悪いが、終わりだ」


 横に現れたユートが一瞬にして踏み込んでいく。トカゲに剣を振り下ろすと狙いたがわずトカゲの頭を叩き潰した。


 断末魔を上げる間もなかった。今度こそ、粒子になって消えていくトカゲをアオは呆然と見てしまう。


「う、うそ・・・。もう終わった?」

 

 あっけにとられていたのはアオだけではなかった。助けられた女性も呆然とユートに見とれている。ユートは剣を振って血のりを吹き飛ばすと、女性に向かって微笑みかけた。


「皆さん。お怪我はありませんか?」

「え? え、ええ。こっちは大丈夫よ」


 女性が慌てて言いつくろった。微笑ましいような光景に見えたけど、アオは思わずごくりとつばを飲んでしまう。女性たちが、白く輝く鎧を着ていたのだから。


 あの鎧は数日前に見たものと酷似していた。アオたちを襲った正同命会の聖騎士もどきと同じ鎧だった。


「ま、まあ。あなたたちも見事でしたわ。才なしなのにずいぶんと訓練を積んだようですわね。それだけ戦えるのでしたら、あなたたちにも天ご加護があることもあるかもしれませんわ」

「!!! お前! 助けられたのに上から目線かよ!」


 なんとも失礼な言い方だった。不快になったのはアオだけでなく、ヒーラーをしていたアキラは怒り心頭だし、その手伝いをしていたリクも戸惑っている。アオは仕方がないと思った。ユートのパーティーメンバーは見事に魔物を倒した。さらに女性たちの傷まで癒したのにこういう態度でいばられるなんて、怒りだしても無理はない。


「アキラ。いいんだ。怪我がないようで何よりさ」

「当然です。私たちには天のご加護がありますからね。この程度の敵など、怪我をさせられるはずはないのです」


 女性が虚勢でも張るようにそっぽを向いた。アキラが激高するが、聖騎士もどきの少女は横を視線を反らしたままだった。


「あなたたちがいなくとも、きっと我らが天が私たちを助けてくれたでしょう。ですが、とりあえずは感謝しておきましょうか。余計な行為でしたが、一応は助けになりましたし」

「お前! いい加減に!」


 怒鳴るアキラを無視するかのように聖騎士のような女性はアオを睨んだ。


「魔物を使役するなんて本当に悪趣味ですわね。魔物は私たちをここにいざなった元凶であるのに! あなたたちも! この期に及んでまだ中立に属するなんて本当に信じられない!」

「が、がう?」


 あまりにあんまりだった。この女性はアオを魔物と決めつけ、そればかりかユートたちをも貶めたのだ。


「ぐるるるるるるるる!」


 うなり声を上げたアオにの聖騎士もどきは身構えていたが、金髪の女性だけは胸を張ってアオを睨んできた。


「はっ! やっと本性を現しましたね! やはり魔物は力こそがすべての野蛮な存在よ! 人間の不利をしたって無駄! いずれあなたも滅してあげるわ!」

「や、やめなよ、アカネ! もういいでしょう?」


 暴言を吐いている女性は仲間にまでたしなめられてしまう。仲間の女性は小さく「すみません。本当に助かりました」と言うと、そそくさと広場を後にした。


 その様子をあきれたように見ていたシュウは、ユートに語り掛けた。


「さすがに気まずかったようだな。ま、正同命会らしいっちゃらしいけどよ。最後の女以外はお礼の言葉もないとは。お前たちも奇襲が成功しなけりゃ、さすがにもっと苦戦したんじゃねえか?」

「そうですね。彼女たちは自分が正しいと思い込んでいるようでしね。会に従わない私たちなんて、異端者だと思っているのでしょう。ま、ここまで来られたら大丈夫でしょう。ここから第1階層へのゲートまではすぐですから」


 こともなげに言ったユートは、再びアオに向きなおった。


「シュウさん、アオさん。怪我はないですか?」

「こっちに攻撃が飛んでこなかったから大丈夫さ。それより、随分とスキルの使い方が良くなったじゃねえか。見直したぜ」


 シュウが大口を開けて笑った。ユートたちは照れたような顔をしながらも軽快に返事を返してくれた。


「俺たちはここで稼いでいますからね。レアモンスターだって、事前情報があるから対処できるんですよ。あの頃から、少しは成長したと思います。シュウさんから見てどうでした?」

「お前らのスキルは本当に見事だったぞ。何より連携がいい。お互いの強みと弱みをよく把握していると思うぜ。戦闘に参加した奴も、回復をしたやつらも見事な動きだった。さすがは第2階層で活躍するパーティーだ。俺たちも負けてらんねえよな!」


 そう呼び掛けてくれたシュウに、アオはあいまいに頷くことしかできない。その様子に気づきながらも、ユートはこの階層について説明してくれた。


「この階層に現れるのはゾンビやスケルトンがほどんどです。あと、フェイルーンも結構いるかな? さっきみたいにイフリートが現れるのはまれなんですよ。俺たちがいた時でよかった」

「とんだ洗礼だよな。俺とアオだけだったらやばかったかもだぜ。あれがイフリートの炎か。ゾンビのほうもあれほど素早いとは思わなかった」


 アオもこくこくと頷いた。ゾンビと言ったら緩慢に動くずなのに、人間並みに素早く動いていた。もし何も知らないで相対していたらかなり苦戦したのではないだろうか。


 でも、それ以上に驚いたのはユートたちの戦いだった。ゾンビの足止めをしていた重戦士に、止めを刺した剣士と魔法使い。女性たちを癒したヒーラーもすごかったし、何よりすごかったのはあのトカゲを仕留めた魔法剣だ。ついこの間まで日本で暮らしていたアオと同じくらいの青年があんなふうに戦えるとは思わなかった。


「俺たちはアビリティには恵まれなかったですからね。でも、スキルをうまく使って連携すればあれくらいの魔物は倒せるようになりました」

「へっ。いつの間にか俺より強くなってたからなぁ。スキルを得ようと四苦八苦していたころが嘘のようだぜ」


 きょとんとするアオに、重戦士のエイタが説明してくれた。


「俺のアビリティは土壁って言って、地面から壁を生やすだけの能力なんだ。便利だけど、敵を倒すことはできないだろ? 他の奴らも似たり寄ったりさ。だから、戦えるようにはスキルをゲットする必要があったんだが、これが結構難儀でさ。全員がポイント0からのスタートで、しかもポイントは魔物にダメージを与えないと得られないと来ている」

「パワーレベリングできないなんてクソゲーだと思ったよな! 事実、リクなんていつも愚痴ってたし」

「え。ああ。そうだよな。うん。あのときはきつかった」


 当時のことを思い出したのか、みんなげんなりしたような顔になった。


「当然だけど、街の人たちってさ。戦えない探索者には厳しいんだ。魔線組はアビリティに優れた人かメインだし、正同命会は最初の戦闘でいいところを見せた人しかスカウトしない。無理しないでって言うのは分かる気もするけどさ。俺たちみたいに最初の戦いに失敗した奴は相手にされなかったりするからな」

「特殊技術を持ってるやつは優先されるけどな。それがないやつは厳しい。ま、正同命会は信仰心が篤かったりするとスキルを取るのを手伝ってもらえたりするらしいが、俺たちはあいつらを怪しんでいるからなぁ」


 結構まともに見えた魔線組にもいろいろあるということか。正同命会がやばいのは共通認識のようだけど。


「しょうがないけど嫌になるよな。みんな余裕がない。他人を助けている余裕なんてない。自分のことだけで精いっぱいなのさ。俺たちは運よく自力で道を切り開けたけど、それ以外はな」


 みんな現状に納得していないのか、ため息交じりに話をしている。アオが目覚めるまでにもいろいろあったようだ。アオとしても魔線組や正同命会のことを知れて興味深かった。


「リク。どうかしたか?」

「いや、うん」


 ユートが心配そうに声を掛けていた。リクが何だか浮かない顔をしていることに気づいたようだ。リクは何かをためらっていたようだが、決意したように真面目な顔でユートを見た。


「なあ。スキルって、本当に使ってて大丈夫なものなのかな」

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