第21話 オーガとの激闘
拳を振り上げるアオに、右手のこん棒を地面に引きずるオーガ。つきだした右ストレートと振り上げられ他こん棒が、すさまじい勢いで激突する!
「が、があああああ!」
「げははははははは!」
打ち負けたのはアオだった。こん棒を破壊するはずだった拳は大きく弾かれ、そのまま突き上げられた。腕が思い切り弾き飛ばされ、驚愕の目でオーガを見たが。
左拳を引き絞り、まさにアオを打ち抜こうとするオーガと目が合った。
「がお」
「うがああああああああああああああ!」
オーガの左ストレートが胸に刺さった。肋骨がおられたような感触とともに、アオは勢いよく吹き飛ばされていく。
「がはっ!」
吹き飛ばされ、転がりながら倒れ込みアオ。血を吐き、咳き込みながら顔を上げると、こん棒を振り上げるオーガの姿があった。
「がああああああああああああ!」
振り下ろされたこん棒を横に飛んで何とか躱す。その後の連続攻撃を凌げたのは奇跡に近い。腕で顔を守り、振りまわされるこん棒を必死で躱した。でも死角から飛び出した前蹴りを避けられず、アオはお腹を押さえてうずくまってしまい、その隙に殴りとがされてしまう。
「ア、アオ! くそっ!」
シュウが援護してくれようとしているが、手を出せない。2匹のゴブリンに足止めされてこちらに近づくことができないのだ。
「がははははは!」
再び振り下ろされたこん棒を、転がるように避けた。アオは焦りを強くした。最初の予定では、シュウがゴブリンを足止めしている間にアオがオーガを倒すはずだったのに!
「ちくしょう! こんなに強ええなんて聞いてねえぞ! ユートたちの話だとそれほど強くないはずなのに! すまねえ! 俺の判断ミスだ!」
おそらくシュウは事前に情報収集をしていたのだろう。ゴブリンやウルフを一撃で仕留めたアオなら、オーガにも勝てると踏んだのではないだろうか。
でも、結果は散々だった。フィジカルに優れていた虎男のアオでも、オーガを相手に防戦一方だ。
「が、がう?」
オーガの猛攻を耐えるなかで、気づいた。
オーガの体が、何かオーラのようなものに包まれている。
そうか! あのオーガは魔力で体を強化しているのか!
フィジカルに優れたオーガが、魔力でさらに体を強化している。これが、力の強いはずのアオが打ち負けた理由だ。強化された体なら、いかに頑丈な虎男の皮膚も打ち破れるということになる。
「ちきしょう! 一旦引こう! ボスからは逃げることができるんだ。あのドアのところまで行けば!」
シュウが後ろ向きなことを言うが、アオは集中していた。
オーガは鋼のような肉体を魔力で強化することでさらに強い攻撃を放てるようになった。アオが簡単に打ち負けたのはそれが要因だろう。
でもアオは? アオはどうだろうか。思いっきり力を入れたが、魔力はそのままだ。まだいける! 前にやったみたいに、ミツのように、魔力を腕に集中させれば!
アオは冷静にオーガの拳を振り払うと、
「がああああああああああああああああ!」
力の限り叫んだ。
そして魔力を操作する。全身に流れていた魔力を、右腕に! そして爪を出すと、力の限りオーガを睨んだ。
「があああああああああああ!」
オーガが、こん棒を振り上げた。あれでアオを叩き潰すつもりのようだが・・・。
「がお! がお!」
アオは素早く一歩踏み出すと、振り下ろされるこん棒に向かって腕を思いきり振り上げた!
「ア、アオオオオオ!」
シュウの悲鳴のような叫び声が聞こえたが、アオは確信していた。感触があったのだ。爪で何かを切り裂いた、あの感触が!
「ぎゃああああああああ!」
オーガが顔を押さえて苦しみだす。音を立てて地面に落ちたのは、5つに切り裂かれたこん棒だ。手のひらの先が赤く染まっている。アオの爪のような魔力が、こん棒とオーガの顔を切り裂いたのだ。
「ぎゃああ! ぎゃあ、ぎゃあああああ!」
「がああああああああああああああああ!」
苦しみもだえるオーガの顔に、アオの右ストレートが炸裂した。今度はただ殴りつけるなんてしない。魔力を帯びたその拳は、アオに骨が砕ける感触を伝えてくれた。
オーガの顔を殴り続けるアオ。最初は腕を必死で動かし何とか防ごうとしていたオーガだが、腕を振るうたびに拳が顔を捕らえるようになり、抵抗は少なくなっていく。
やがてオーガの抵抗は止み、殴られるがままになった。動かなくなったオーガを見下ろし、アオはそっと立ち上がる。そして拳を天に掲げると――。
「があああああああああああああ!」
勢いのまま、口を目いっぱい開いて雄たけびを上げていた。
「お、おお! まじかよ!」
感嘆するシュウと、驚くゴブリンたち。2匹は戦いの手を止めてオーガがピクリピクリと震えるのを信じられないような目で見ていた。
「があ! がああああああ!」
アオはゴブリンたちを睨むと、そのまま掃討に移った。逃げる隙など与えない。ゴブリンたちはオーガと比べるとはるかにもろかった。右の拳がゴブリンの顔面を砕き、回し蹴りで残りの一匹を右腕ごと吹き飛ばした。
「ぐおおおおおおおお!」
「やった! やったぞ!」
アオの勝鬨に、シュウの喜びの声が重なるのだった。




