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第20話 第一階層のボス部屋

 2人は順調に攻略を進めていった。


 途中で何度か魔物の襲撃があったが、2人は何とか撃退することに成功する。アオが倒した魔物は相変わらず死体が残ったが、それらはすべてシュウが獲得した。


「これでなんかうまいもんでも買ってくるさ。まあ、ポイントは無駄になっちまうけどな。スマホの強化にでも使うかな」


 宣言通り、シュウは新たなスキルやアビリティの強化にポイントを使う気がないらしい。アビリティもスキルも、ある程度熟練度を上げないとレベルを上げられず、レベルが上がると熟練度もゼロからのスタートになる。急にレベルだけ上げられない仕様になっているらしいが・・・。


「いいんだよ、これで。俺はアビリティやスキルに頼らない。そんな探索者が一人くらいいてもいいだろう?」


 とのこと。


 もったいない気もするが、アオにとってアビリティもスキルも嫌な感じがすると思っているのは確かだった。そのこと自体は安心するけど、何か申し訳ないような気分になる。


 そんなことを考えながら森を進むと、扉が見えてきた。入口と違って天に届くほどの大きさではない。開けた広場に扉だけが存在している。何か異様な雰囲気を感じるのだけど。


「ここが第一階層のドアさ。ここを越えるとボス部屋にワープされる。そんでボスを倒せばこの階層はクリアだ。それ以降、このドアを越えれば自動的に第2階層に転送されるらしいが・・・」


 アオはごくりとつばを飲んだ。シュウもそのことに思い至ったのか、渋い顔をしている。


「そうだな。転移がうまく作動するかはよく分かんねえよな。アオが入口の門で弾かれたのはつい昨日のことだし」

「がう」


 アオは思い出していたのだ。街に行こうとした瞬間、塔の中に引き戻されたことを。あの時のようになるなら、アオはこの階層から動けないということになる。


「が、がう!」

「お。そうだな。なんにせよ試してみるしかないな」


 意を決した。一縷の望みを掛けて、シュウを追い越してドアの中に足を踏み出した。


 ドアの中に入ろうとした瞬間、アオは何かの気配がした。入口の門と同じだ。また吹き飛ばされる気配がして思わずきつく目を閉じてしまう。だけど衝撃はいつまでたっても感じられない。


「が、がう?」


 恐る恐る目を開けるとアオは見たこともない部屋にいた。体育館くらいの広場に祭壇のようなものだけが置かれた部屋。どうやら転移は無事に行われたらしく、アオはほっと一息ついた。


「おお! 無事に転移されたようだな!」


 振り向くと、シュウが部屋に入ってきたところだった。


「入るとき、一瞬アオの前に透明な壁が現れたように見えたんだ。そのまま吹き飛ばされるのかと思ったら、なんか壁が光ってそのままアオが消えちまった。慌てて追ったらこうなってたわけだ」


 シュウはにやりと笑いかけてくれた。


「さて。あの祭壇まで行けばボスモンスターが現れるらしい。俺もここに来るのは初めてだ。さすがに緊張するぜ」


 シュウは全身を震わせると、ゆっくりと息を吐いた。そして真面目な顔でアオを見つめた。


「一応、確認しておこうか。第1階層のボスはオーガだ。話によると第3階層では雑魚敵として徘徊しているそうだが、ここにいる奴らほどは強くないらしい。魔法やスキルは使わないけど、すんげえ馬鹿力らしくてな。殴られれば障壁なんて一瞬でぼろぼろになるとさ」


 アオはごくりとつばを飲んだ。ボスについては道中で聞いていたが、改めて聞くと緊張してしまう。


「他の敵は、こっちのメンバー次第だな。6人までのパーティで挑戦できるんだが、こっちの人数と同じ数のゴブリンが出るんだと。俺たちの場合は2匹のゴブリンと1匹のオーガが出るそうだ」

「が、がう」


 アオの顔はこわばっているだろう。気づいたシュウは、安心させるように微笑んだ。


「そんなに不安そうにするな。なに、大丈夫さ。聞いた話だと、道中の魔物を軽く倒せるようになればここは問題なくクリアできるってさ。前のパーティだと道中の魔物に苦戦していたけどアオと組んでからはそういうこともない。行けるだろ」


 アオは不器用に微笑み返した。


「じゃあ行こうぜ。こんなところ攻略して、次の階層に進むんだ」


 そして2人は、祭壇に向かって歩き出したのだった。



◆◆◆◆



「ぐおおおおおおおおおおおおお!」


 祭壇に近づいた途端だった。前方にいきなり光が立ち上ると、叫び声を上げて大きな影が現れた。


 身長は3メートルを超えるのではないだろうか。長身のアオよりも頭一つ分ほど大きい。隣のゴブリンと比べると大人と子供とも言えないくらいの身長差だ。筋骨隆々の体に、赤銅色の肌。額から2本の歪曲した角が生えていて、鬼のようないかつい顔に、牙が飛び出ている。手には大きな棍棒を持っていて、あれで殴られたらひとたまりもないだろう。


「ちっ! やっぱでけえな! アオ! 準備はいいか?」

「がう!」


 事前の打ち合わせではシュウが2匹のゴブリンを足止めし、その間にアオがオーガを仕留める手はずだったが、実物を見て怖気づきそうになる。でも、実はオーガと戦うことを言ったのはアオ自身だ。シュウも命を張ってゴブリンと戦うのに、こちらが怯えていいはずがない!


「ごあああああああああああああ!」


 アオは思い切り叫んだ。自分を鼓舞するためだが、2匹のゴブリンが怯えるように身を引いた。しかし、オーガは・・・。


「げははははははははははははは!」


 まるで好敵手を見つけたように笑ったのだ!


 アオはオーガめがけて突進した。呼応するように踏み出してくるオーガ。2体の獣は、部屋の真ん中めがけて勢いよく駆け込んでいく。

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