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第19話 アオパーティーの誕生

「形態ってのはここに来てからの姿を刺しているんだ。例えば俺は第3形態。この姿ってのは日本での姿とほぼ同じなんだ。オミやレンジもこの形態なんだぜ。どうやらこの形態が一番多いらしい」


 形態について尋ねた答えがそれだった。シュウはスマホの画面と自分を指さしながら、説明を続けてくれた。


「基本的に、3を中心として数が増えればスキルより、少なくなればアビリティよりと思ってくれていい。第4形態はアキミやサトシだな。なんかスキルの必要ポイントが少なくなるらしいぜ。んで、それをさらに発展させたのが第5世代。なんかのゲームでキャラメイクしたみたいな、不自然に整った奴らがそうらしい。ま、正同命会の聖女みたいに前とあんまり変わんないやつもいるらしいけどな」


 実際にあった人をたとえに出してくれるのでイメージしやすかった。


「逆にアビリティよりなのは第2形態と第1形態だ。第2形態はイゾウの爺さんだな。ほら。頭に角が生えていただろう? あんな具合に体の一部が変化している連中をそう言うんだ。で、それを発展させたのが第1形態。大将やアオさんみたいなのを言う」


 そう説明すると、シュウは上目づかいでアオの様子を伺った。


「第2形態や第1形態は、な。ま、一説だ。一説によると暴走するケースが多いんだ。誰それ構わず襲ったり、危険なアビリティを乱発したりな。大将も日本にいたころは冷静な人に見えたんだぜ? それが、なあ。まあわかってからは暴走はなくなったし、注意すれば大丈夫だろ」


 頭を掻き、慰めるように言ったシュウに、あいまいな笑みを返すことしかできない。


「それよりもけっこう似合ってるじゃねえか。これなら魔物と間違えられることはなくなるんじゃねえか?」

「がう!」


 取り繕うに言ったシュウにあえて元気な言葉を返した。


 シュウに渡された服を着たのだけど、アオは結構気に入っていた。下半身はスパッツタイプの水着みたいで、上半身は袖のない黒のジャケットだ。特に上着は収納ポケットがいくつもあり、スマホのないアオでも物を持ちながら行動できる。


「そいつぁ、前に第1世代の奴か店に頼んだものでな。買い取る前に飽きちまったらしく物だけが残ったんだ。サイズもぴったりのようで安心したぜ。当面はそれで行けそうだな。一応何着か買ってきたぜ」


 そういう事情があったのか。この短期間でアオのサイズの服が用意できたのが不思議だったけど、そういうことなら納得だ。


「まあデザインはあれだが勘弁してくれ。もっと凝ったのが必要なら少し時間がかかるからよ。で、改めて話をしようか」


 そう言うと、シュウは姿勢を正した。


「アオさんはこれからどうするつもりだ? 稼ぐだけなら何とでもできる。まあ協力者は必要だけどな。俺でもいいし、アキミや爺さんでもいい。運がいいことにお前は俺やアイツらと知り合えた。あいつらは気のいい奴らだから、きっと助けてくれるだろう」


 いきなりそんなことを言われておろおろしてしまう。


 アオはここにきて思い至った。シュウにアオに付き合う義理なんてない。助けたことに感謝はしているようだが、それがすべての面倒を見てくれるほどの恩にはならない。


「ああ、すまん。そんな顔をするな。俺としてはアオさんについて来てほしい。と言うか、俺がアオさんについていきたい。塔のてっぺんを目指してな。こっちにもメリットがある話だからよ」


 アオは目を瞬かせた。


 アオは街にも行けないしスマホも壊れている。おそらく第1形態の人間で、しかもアビリティもスキルもないときている。聞けば、シュウも仲間に裏切られたばかりだし、他人を助けるほどの余裕があるタイプではない。


 それなのに、シュウにもメリットがあるなんてどういうことだろうか。


「前にオミとの話を聞いたかもしれねえが、アオさんの特異性さ。アオさんだけは俺たちより半年も後に目覚めた。しかも、オリジンを目覚めさせることもできるという特性もある。ここに転移されて半年も経ったけど、詳しいことは何にも分かっちゃいないんだ。アビリティやスキルの使い方だけがうまくなっては来たがな」

「が、がう?」


 できない尽くしのアオがデメリットばかりと思っていたがそうではないということか。


「今、アオさんが生まれたのは兆しなんじゃないかと思う。変化のな。肯定的なことばっかりじゃない。もしかしたらとんでもないデメリットがあるかもしれねえ。でも、アオさんと一緒に行動すれば分かると思うんだ。俺たちがここに連れてこられた理由ってやつがよ」


 にやりと笑うシュウは。さらに言葉を続けた。


「俺はよ。昔、MMORPGにはまっていたことがあるんだ。いわゆるオンラインゲームってやつだ。楽しかったんだが、いろいろ腹の立つことも多くてな。最強と言われる職業がいつの間にか変わっていたり、スキルの効果が修正されて弱くなったりした。運営のさじ加減一つでゲームの仕様を変えられていたんだ」


 アオはオンラインゲームもスマホのゲームもやったことなかったけど、そういうこともあるらしい。


「俺たちはたぶん、この世界に生きている。死んじまった奴らも多いし、リセットなんてできやしねえ。失敗も成功も、やってきたことはなくならねえんだ。だから、育成方法が間違ってもやり直すことはできない。そうした中で、ゲームをクリアするにはどうしたらいいと思う? 育成方法を絞らず、いろんな方法を試すしかないと俺は思う」


 アオは頷いた。シュウの言わんとしていることが分かる気がした。


「何が最強につながるかは分かんねえ。なら、自分のやり方を試すしかねえ。俺がやろうとしていることもその一つだし、アオさんがやろうとしていることもそうだ。全員がいろいろ試して、正解にたどり着くしかねえ。だから、俺もアオさんも、生きて試して、自分のやり方を追求していくべきだと思うのさ。そう言う意味でも、俺はアオさんについていきたいと思うわけだ」

「がう!」


 アオは元気よく返事をした。


 虎人間になってこっちに転移したことは不幸かもしれない。他の探索者に襲われたのも辛いことだった。けど、幸いなことにシュウに出会えた。アキミにも、オミにもイゾウにも。こんなにいい人たちとも会えたんだ。きっと何とかなるに違いない。


「まあ、俺にオリジンが使えないのはあれだったけどよ。これでも結構期待したんだぜ? アビリティもあれだし、スキルを使うのもなんか怖いし。あれ、なんか嫌な感じがするんだよなぁ。何かの力を借りてるみたいって、爺さんの言葉に心から同意したもんさ。オリジンがあれば避けられると思ったんだけどよぉ」

「が、がう?」


 目に見えて落ち込みだしたシュウを見て、アオはおろおろとしてしまう。


「なんだろな。何かに邪魔されている気がすんだよな。まあ、いいか。あれだな! アオさんはしばらくは俺の相棒ってことで一緒に頑張ってくれるってことだな!」

「がう!」


 勢い良く返事をしたが、アオははっとして慌てて首を振った。そして地面に何かを書き込んでいく。


「え? やっぱいやなの? そうだよな。俺とアオさんは一回り以上は成れているみたいだし。俺と組むよりやりやすいやつがいるよなぁ」


 目に見えて落ち込みだすシュウに、地面に書いた文字を指さして「がう!」と吠えた。


「え? これを読めってか? なんだ? ん? これは」


 地面には歪んだ文字でこう書かれていた。


 アオさん ×

 アオ   〇


 いぶかしげな表情から一転してとびっきりの笑顔になった。


「そうか! そうだよな! 相棒なのに、いつまでもさん付けってのも変だよな! よろしくな! アオ!」

「がう!」


 そう言って元気よく返事をしたのだった。



◆◆◆◆



 2人が組むことが決まり、次の日のことだった。門の手前で休んだアオたちは次の階層を目指して進んでいく。


「この塔は、現在のところ第3階層まで攻略されていて、もう間もなく第4階層にも手が届くって話だ。次の階層に続く広間にはボスっぽい相手がいて、それを倒せば次に進めるんだ。これもゲームみたいだろ?」


 アオはうなずいた。


「階層が上がるごとに魔物は強くなるが、強い魔物が下まで降りてくることはまずない。第1階層はそこまで強い魔物が出ないのが通説なんだ。あのゴブリンレイダーってやつが出てきたのは相当にレアケースになるな」


 やはりゴブリンレイダーが現れたのはイレギュラーな出来事らしい。あんなに強い魔物が現れるならどうしようかとアオは思ったが、どうやらそれもないようだ。


「この階層に出るのは、主にゴブリンとウルフだな。どちらも大したことはない。ま、相手の攻撃は障壁で簡単に防げるし、戦闘経験が低い俺でも十分に対処できるからよ」

「がう?」


 障壁と聞いて、アオは思わす首をかしげてしまう。


「ああ。障壁って耳慣れないだろう? バリアみたいなもんさ。俺たち探索者は障壁っていうバリアで守られている。無意識に展開されるもんだけど、これがあるうちは敵の攻撃を防げるって感じさ」


 アオは納得した。最初に探索者に襲われた際、逃げるために探索者を突き飛ばしたが、その際に何か壁を壊した感触があった。あれはあの男の障壁で、アオはそれを打ち破ってあの男を突き飛ばしたということか。


「この障壁ってのと魔力量ってやつは時間の経過とともに回復されるんだ。なんか調べている奴が言うには、回復するのは魔力だけで、魔力を使って障壁を直してるって話なんだがよ。時間とともにこの2つが回復すると思っていい。ま、この階層に出てくる魔物はまだ使わないから気にするのは早いけどな」


 そういえば、この階層に出てくるゴブリンとは戦ったことがあった。厄介だったけど、目覚めたてのアオでも十分に対処することができた。


 と言うことは、この階層でアオたちが注意すべきは人間なのかもしれない。


「お! アオ! 来たぜ! ゴブリンだ!」

「が、がう!」


 そんな不安に襲われていると、シュウから警句が飛んできた。アオは顔を引き締めてあたりの様子を探り出した。


 新生ともいえるこのパーティ初の戦いだ。アオはうれしくなって、にやりと笑うのを止められなかった。


「▽●×▲! ▽●×▲!」

「はっ! 来るなら来い! 返り討ちにしてやんよ!」


 シュウが笑いながら宣言した。アオも笑いながらこぶしを握り締めた。


 ゴブリンの数は5匹。数は多いけど、これならアオたちでも十分に対処できる! 今まで見たいに戦えば、きっと勝てる気がするのだ。


「▽●×▲!」


 奇声を上げてアオに突撃してきたゴブリンは、3体!


「おおおおおおおおおおお!」


 アオも吠えながら殴りかかった!


 先頭のゴブリンに右ストレートを放つ。拳は狙いたがわずゴブリンの鼻面に直撃した。そして続く左手の爪でその首を掻き切った。ぎょっとした2匹目に素早く近づくと、側頭部めがけて回し蹴りを放った。倒れ行くゴブリン体を見ることもなく、アオは3匹目のゴブリンに相対する。


 ゴブリンと目が合った。ゴブリンはあからさまに怯えたように身をすくませるが、


「がああああああ!」


 容赦なく繰り出した拳が3匹目の鼻面を打ち抜いた!


 流れるような動きだった。アオは一瞬にして3匹のゴブリンを仕留めることに成功したのだ。


「へっ! 俺も負けてらんねえな! 行くぜ!」


 シュウの動きも素早かった。ナイフでゴブリンの胸を突くと、次の一匹の剣を避け、そのまま首を切り裂いた。


 シュウも素早くゴブリンを仕留めてくれてうれしくなる。自分では戦闘力がないようなことを言ってたがとんでもない。例の嫌な気配すらさせず、瞬く間に2匹のゴブリンを仕留めて見せた。


「いやあ。そこそこの相手だけど、何とかなるもんだな」

「がう!」


 勢い良く返事をすると、シュウは照れたように話を続けた。


「実はな。今回の戦いではあえてスキルを使わなかったんだよ。一応爺さんからナイフの使い方は習ってたからな」

「がう?」


 驚いた。アビリティとスキルは探索者にとって生命線だと思っていた。あれがあれば、戦いの経験がない人でも魔物と戦える。それをあえて使わないとは、信じられない思いでシュウを見つめてしまう。


「俺もいろいろ考えたんだよ。だってよ。爺さんに加えてアオだ。俺が信頼する2人がアビリティとスキルはまずいって言ったんだ。何とか使わない方法はないかと思ってさ」


 アオはポカンと口を開けてしまう。


 なんとなく嫌な感じがしただけなのに、それだけでアビリティやスキルを使わないことにするなんて!


「まあ、本当にやばいときは使うと思うけどな。それ以外はなるべく、さ。もちろん、アビリティやスキルを使って強くなるのが正解かもしれん。俺がやろうとしているのは間違いかもしれないし遠回りするだけかもしれねえ。でも、俺は自分の目を信じてみようと思う。そのために、アビリティやスキルのない強さを追求していくのさ」


 シュウの決意は大きい。本気でアビリティやスキルのない強さを追求するつもりだ。アオの気分がその一端を担ったことが分かり、責任を感じてごくりと喉を鳴らしてしまう。


「が、がう」

「ああ。違う違う。俺がこうするのが正しいと思ったんだ。アオが責任を感じる必要はねえ。でもな」


 そう言うと、シュウは目に見えて落ち込みだした。


「オリジンのことを聞いた時はこれだって思ったんだけどなぁ。まさか俺に使えないとは。しかも修練を積むのも難しいと来ている。なんだよ。テンション落ちるよ」

「が、がう?」


 おろおろしてしまうアオに、シュウはすぐに笑顔を見せた。


「すまねえな。やり方はおいおい考えるさ。とりあえずは次の階層を目指そうぜ。話によると、結構稼ぎがいいらしいんだ。俺たちならいけると思う。さあ行こうや」

「がう!」


 やる気を取り戻したシュウに、アオは明るく返事をするのだった。

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