第16話 シュウと元パーティーメンバー
「なるほど。新しいその魔力制御とやらは、威力も低く消費魔力も大きいということですね。一見すると役に立たないように思えますが」
「まあの。しかし、本当に使えるかどうかは鍛えてみねばわかるまい。コロもどうだ」
「そうですね。どうしましょうか」
コロも真剣に考えているようだった。
アオはうなだれていた。確かにせっかく覚えた新しい能力も威力や消費が激しいなら意味はない。これを使おうとするのはアオとイゾウくらいなのかもしれない。アキミも自己満足のために鍛えそうな気がするけど。
そう思ったアオだったが、意を決したように話しかける人物があった。
「アオさん。私もその魔力制御を覚えたいです。オミに許可をとる必要はありますが、その後でお願いしてもいいでしょうか」
「あ、俺もお願いしたい。お手間を掛けますけど」
サナとサトシだった。アオは目を見開いた。魔力操作が役に立たないのは証明されたばかりだ。それなのに、2人は希望するなんてどういう意図があるのかわからない。
「ほう。サナさんも興味がありますか」
「アキミが問題ないと言ってくれましたからね。少なくともアキミは私が今までの人生であった中で一番勘のいい子です。あの子が必要と言ったのなら、これから先に必要になる可能性は高い。それに、アビリティを自分で再現してみるの、なんか面白そうじゃないです? あれを使うと髪がごわごわになっちゃうのよね」
「俺はイゾウ先生ですね。先生はアビリティやスキルを危険視して、アオさんのスキルに関心を示した。それなら、これから先にアオさんの魔力操作が必要な可能性は大きいと思う。習得に時間がかかりそうだから早いうちから取り込んでいくほうがいい気がしますし」
アキミは胸を張り、イゾウはにやりと笑っている。
コロは少し考えこむと、まじめな顔でアオを見つめてきた。
「アオさん。僕にも魔力の使い方を教えてくれますか?」
「アオ、頼めるか?」
苦笑しながら頷くアオは、コロの手を取った。コロには何かとお世話になった。おいしい料理を食べさせてくれたし、眠ったアオに寝床を貸してくれたりした。
「気をつけろよコロよ。何の気なしにやってもらったが、かなり痛いぞ」
「え!? いきなりそんなこと言わないでくださいよ!」
手を引っ込められて、アオは戸惑ってしまう。
「えっと、その・・・。あ、シュウさんはどうしたんですかね?」
「うふふ。時間稼ぎなんてしても無駄なのに。まあ、シュウさんのことが気になるのはあたしも一緒だけどね」
そういえば、コロたちとシュウは顔見知りらしかった。アオもシュウたちのことが気になるのは事実だった。
「そうですね。オミさんがいるから大丈夫だと思いますが、テツオもいるからなぁ。短気を起こさなきゃいいけど」
「そう言えば、お主らもシュウの奴と顔見知りだったの。奴がどうかしたのか」
アキミとサトシが顔を見合わせた。サナもなんだか困ったような顔をしている。
「えっと、怒らないで聞いてね。どうやらシュウさんはパーティーメンバーに裏切られたらしくて」
「さもありなんだな。初めから思うておったのだ。奴の仲間とやらもあの女も信用などできるはずがないと。どこか浮かれたような感じがした。まるで新しいおもちゃを手に入れたようでの。周りの大人の言うことなど、聞く耳を持っておらんようだった」
イゾウにまで言われるとは彼らも相当なのかもしれない。アオも同意だった。一度しか見たことがないが、シュウのパーティーメンバーは軽薄な感じしかしなかった。アオが現れたらシュウを見捨てて逃げたし、何よりシュウを集団で襲おうとした前科もある。あんまりお付き合いしたい相手ではないと、ため息交じりに思い出した。
「さて。シュウのことはこれくらいでいいだろう。さあ、覚悟を決めてアオの施術を受けるがいいぞ」
そう言って、イゾウは悪魔のように笑ったのだった。
◆◆◆◆
ところ変わって街のあるオフィスの一室。街の北側に構えるビルの一室で、シュウが元パーティーメンバーと向き合っていた。
苦い顔でまっすぐに見つめるシュウと20歳半ばくらいの女が一人。彼女から少し離れた場所に4人の男が青ざめた顔をしていた。シュウの後ろにはオミとテツオが控えていた。
「わりいが、俺は抜けさせてもらうぜ。さすがに後ろから撃とうとした相手とは付き合えないからな」
「いきなりとはご挨拶ね。魔線組の連中まで連れてきて。これがあなたのやり方かしら? 冤罪で私たちが悪いって言いふらすつもり?」
シュウの宣言に女は負けじと言い返してきた。
「言いふらすも何も、そこの奴らが俺を闇討ちしようとしたことは事実だろう。自分を殺そうとした奴と組めるはずがねえ」
「証拠、あんのかよ! 俺たちがお前を襲おうとした証拠がよ! まさか何もなしに俺たちの罪を問おうとしたんじゃねえだろうな!」
シュウは溜息を吐くとスマホを取り出した。
「あ? 誰かに連絡するつもりか? これだからおっさんは」
『へっ! こんなところまでのこのことついてきたのが運の尽きさ! 大体おかしかったんだよ! あんたみたいなおっさんが俺たちと組もうなんてな!』
スマホから流れてきた音声に、男たちはあからさまに顔色を悪くした。
「ろ、録音機能だと!? ま、まさかあのときに!」
「念のために録音しておいたが、まさかこんなふうに使うなんて思わなかったよ。まだまだあるぜ。あの時の会話は、全部取っておいたからな」
真顔で言うシュウに4人は絶句していた。
「俺はお前らとは組めねえ。いつ後ろから撃たれるかなんてわかんねえからな。ウスハはどうする? こっちに来るなら何とかしようか。お前が言いだして塔に行くことになったが、お前がこれに関与している証拠はないんだからな」
シュウはそう言うと、
『ウスハのやつもこの件に一枚も二枚も噛んでる!』
再びスマホを操作した。
「まあ、これはあくまでゼンのやつが言っているだけで、お前がやったという証拠にはならない。でもな。お前がゼンたちと一緒に出掛けるように言ったのは確かだろ? ご丁寧に俺の荷物を最小限にするなんて小細工をしたうえでな」
シュウは問い詰めるが、女――ウスハは顔を歪ませながら睨みつけてきた。
「録音までするなんて、本当にとんでもない人ね。そういうところが気に入らなかったのよ。私たちとアンタは絶対に合わなかった」
「この! そのデータをよこしやがれ!」
男の一人がシュウに飛び掛かるが、前に出たテツオに吹き飛ばされる。まるで瞬間移動したような動きだった。テツオはすまし顔で剣を抜き、倒れた男の顔に顔に突き付けた。
「ひ、ひぃ! や、やめろ! やめて」
「何言ってんだ? お前らがやろうとしたことのほうがよっぽどひでぇじゃねえか。お前らは、3人で寄ってたかって一人を殺そうとしたんだからよ」
怯える男を見てテツオはあきれたように溜息を吐いた。
「テツオ。ありがとな。だが、もういい。俺はここを抜ける。俺なしでやれると思うならやってみるといい。じゃあな」
シュウが言うと、テツオは納得しない顔ながらもおとなしく剣を収めた。
その場を去っていくシュウたち。その背中に、ウスハの叫ぶような声がぶつけられた。
「何を言ってもかわらないくせに! あなた、私たちを馬鹿な奴らだって思ってるんでしょう? 若い馬鹿が、馬鹿な真似をしたって! でもね。私たちにだって言い分はある! あなたの言うとおりにするなんてまっぴらよ!」
「俺が気に入らなければ言えばよかったんだ。お前が邪魔だから抜けろってな。そしたら、まあしょうがないから抜けただろうさ。でも、お前らは俺を闇討ちすることを選択した。やるのは簡単かもしれない。だが、それを見た他の奴はどう思うかな? そこまで考えたことがお前にはあるのか?」
ウスハが叫ぶ声を背中で聞きながら、シュウたちはその場を立ち去るのだった。