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第15話 新たな力

「うがあばしゃばぞがぁ!」


 アオは飛び起きた。


 あの黒い少女を罵ったつもりだが、気が付いたら全く違うところに飛ばされていたのだ。


「ああ。起きたのですね。その、大丈夫ですか?」


 コロが優しく話しかけてくれた。どうやらアオは、食事の席で眠ってしまったようだった。


「が、がう!」

「いいんですよ。僕の毛布で申し訳ありませんが、よく眠れましたか? 他の人のはサイズが合わなかったようで」


 恐縮して何度も頭を下げるアオを、コロは優しく宥めてくれた。


「疲れていたんでしょうね。シュウさんと会う前もいろいろあったんでしょう? いきなり眠られてしまったのには驚きましたが」

「限界まで体を使っていたのだろうな。あまり気にするでないぞ。夢見はそれほど良くなかったようだしな」


 サナとイゾウも慰めてくれた。食事の後片付けも終わっているようで、なんだか申し訳ない。


「僕らは一度街に戻ろうかと思っているんです。物資も補充したいですし、友人たちの顔も見たいですからね」

「ああ。あたしたちはもう少しここに留まるつもりなんだ。シュウさんが話したいことがあるって。あっちの用を済ませたら合流したいって言ってた」


 これからの予定を話してくれたコロとアキミだったが、アオはそれどころではなかった。彼らが、周りのすべての人間が、なにかオーラのようなものに包まれているのだ。


 きょろきょろとみんなの顔を見回して、最後に自分の手を眺めた。アオも同じだった。腕が青いオーラのようなものに包まれている。しかも、アオを包む魔力の量が他の人よりあきらかに多い。一番多いイゾウの倍くらいあった。


「が、がう! がう!」

「どうしたの? 寝ぼけてる? 爆睡してたみたいだしね。いびきとかかいてたし。寝袋で寝たのも久しぶりだったんじゃない?」


 身振り手振りで必死に話すが、まるで通じない。アキミは気を使ってくれていたが、見当違いな慰めをされてアオは焦りを強くした。今はなぜか、アキミに話が通じない。


「が、がう・・・」


 こうなったら、実際に見てもらうしかない。できるかどうかは分からないけど、もしかしたらこのオーラのような力を使うことができるかもしれない。


 アオは全身に力を込めた。流れていた魔力が膨れ上がっていくのが分かる。他の人たちは怪訝な顔をしていたが、イゾウだけは目つきを鋭くた。警戒したようだ。


 アオはきょろきょろとあたりを見回した。ちょっと離れたところに大きな岩があった。自動車くらいのサイズがある大きな岩だ。


「がう! がう!」

「へ? なに? あそこになんかあんの?」


 やっぱり話が通じない。アオはとりあえずやってみることにした。


 足に意識を集中させた。オーラのようなものが足に集まっていく。みんな怪訝な顔でアオを見ている。


「えっと・・・。何かあるのかしら?」


 サナが頬に手を当てて聞いてきた。やはりこれだけでは何をやっているかはわからないかもしれない。でも、こうやって魔力を使えば・・・・。


「がう!」

「うわぁ!」


 驚くアキミをすり抜けて、岩の塊まで瞬時に移動する。みんな目を見開いてアオを見つめている。イゾウだけが顔をこわばらせたのが見えた。


「へ? いつのまに!」

「瞬間・・・移動ですか? まさかそれがアオさんのアビリティ?」


 やはりこれだけでは何をやっているのかわからないようだった。次に、アオは上半身に魔力を巡らせた。そしてそのまま、岩に手を掛けた。


「アオさん・・・。なにを・・・」

「があああああああああああああ」


 叫ぶとともに岩を持ち上げようとするアオ。最初はびくともしなかったが、徐々に動き出し、やがては両手で持ち上げられていく。


「お、おおおお! すごいすごい!」

「この岩、車くらいの大きさがありますよね! それを持ち上げるなんて! すごいじゃないか!」


 アキミとサトシに褒められた。まんざらでもなかったが、でも言いたいことは違う。


「があっ!」


 手を離すと、岩は地響きを鳴らしながら落ちていく。地面に落ちた岩を見ながら、周りを見ると、アオを称賛するみんなのこえがきこえだした。


「す、すごいですね。これが、アオさんの力ですか。虎に生まれ変わったのは伊達ではないということか。第一形態は基本能力がすさまじいとは言いますが」

「いや、そうではない。虎に生まれ変わったとはいえこの重さの岩を持ち上げるなど尋常ではない。お前のアビリティか? いやしかし、アビリティを使った気配などなかった」

「スキルとも違う? スキルに岩を持ち上げられるようなものはなかったと思うし」


 イゾウとアキミにはアオがこれをした意味が少しは伝わったようだった。


「がう! がう!」


 そしてアオは、さっきの夢のことを伝えるのだった。



◆◆◆◆



「奇妙な話ですね。夢で魔力の使い方を教えてもらうなんて。2人の少女のことも気になりますし」


 コロが話す声を聞きながらアオはぐったりとしていた。身振り手振りで、時には地面に文字を書きながら説明したけど、みんなが納得してくれるまでにはかなりの時間を要した。


「ねえ! アオの夢が本当なら、私たちも、その魔力ってやつが使えるってことだよね!」

「待ってください! さすがに怪しいですよ! スキルやアビリティとは関係ない技術かもしれないんですし!」


 興奮するアキミを、サトシが必死で引き留めていた。


「でもスキルやアビリティだってわかんないのは一緒だよね? 原理も何もわかったもんじゃないし」

「少なくともスキルやアビリティで事故を起こしたという報告は届いていません! アオさんの技を覚えると何があるかはわからないんですよ!」


 2人は大声で言い争っている。


 アオの魔力操作に興味津々のアキミと、それに懸念を見せたサトシ。確かに、アオとしても魔力操作を教えるにはちょっと疑念がある。本当に安全かどうかはまだ分からないのだ。


「それならば、どれ。ワシに試してみい。お前の魔力操作というヤツに興味があるからの」

「せ、先生!」


 提案してくれたのはイゾウだった。


「お主が先ほど使った魔力操作というヤツには嫌な気配はなかった。アビリティやスキルとは違っての。お主自身の力が別の形で発現したという感じがした。あれならば、ワシも使ってみる気になったわ」


 アビリティとスキルに嫌な感じがするのは、アオにもなんとなく分かる。レンジの手の形を変えたのはおそらくアビリティだろう。形が変わったのにもぞっとしたけど、同時にわいてきた気配がなんか嫌だった。スキルと言うのはアオを襲った探索者やシュウが武器を使う際に発言していたものだろう。アキミや聖女の回復もそうだ。アビリティほどではないけど、あれにも嫌な気配がした。まるで何か得体のしれない力を使っているような、そんな気がしたのだ。


 どちらも自分で使う気は起きないだろうと、アオは思ったものだ。魔法はちょっとだけ使ってみたいけど。


「さあほれ。ワシはどうすればいいのだ? 何かしたほうがいいのか? それとも何か道具が必要かの?」

「が、がう・・・」


 なんかノリノリだった。クールなイメージがあったイゾウが、今はまるで少年のように、わくわくした目でアオに詰め寄ってくる。


「ああ! ずるいずるい! あたしが一番にアオに教えてもらうはずだったのに!」

「ふん! 早い者勝ちよ! お主は指をくわえて見ているがよい!」


 そして2人はああだこうだと騒ぎだした。


「せ、先生・・・。相変わらずですね。興味を持つと一直線と言うか」

「何を言う! コロよ! こんなチャンス、めったにないのだぞ! 自分の新しい可能性が知れるなど、こんな機会は2度もないだろうて!」


 そう言うと、イゾウは再びアオに詰め寄った。


「さあ、どうすればいいのだ? さあ! さあ!」

「が、がう・・・」


 勢いに押され、アオはしぶしぶとイゾウの手を握った。確かあの時、あの少女はアオの手を取って魔力を流したはず・・・。


 アオはごくりとつばを飲むと、思い切ってイゾウに魔力を流した。


「おわっ! なんかビビッと来た!」

「せ、先生! 大丈夫ですか!?」


 コロがおろおろしていたが、イゾウは満面の笑顔だ。


「ふむ。少し見えるようになったの。この、ワシらに流れておるのが魔力か。おお! 動かせた! これを体の一部に流せば・・・」


 イゾウの姿が一瞬で掻き消えた。慌ててあたりを探ると、数メートル先に体勢を崩したイゾウが震える体を抑え込んでいた。


 一瞬の出来事だった。あまりの素早さにアオは目を丸くしたが、コロの意見は違うようだった。


「先生。素晴らしい瞬歩ですが、いつもと同じような」

「何を言う! いつもよりずっと素早く動けたではないか! いいぞ! これはいい! 鍛えがいがあるわい!」


 イゾウは大喜びだ。確かにイゾウの魔力が動いた気がする。動いた魔力量なんかはわずかだけど、先ほどまでとの違いはアオの目から見ても明らかだった。

 

「おお! これはいいな! おう! おう!」

「せ、先生・・・」


 はしゃぎまわるイゾウを見て、コロがあっけにとられていた。そんな彼らを、アキミが歯ぎしりせんばかりに睨んでいた。


「これはいいのう! いいのう! うん?」


 何度目かの移動をした時、イゾウがよろけだした。そのまま膝をついてしゃがみこむ。イゾウは顔をしかめて自分の姿を見回している。


「大丈夫ですか? 何か、体に不調でもあるのですか?」

「いや、これは」


 イゾウは懐から何かを取り出した。スマホだ。そのままスマホを操作すると、画面を確認した。


「先生? なにが?」

「ほれ」


 そう言うと、コロに画面を見せていた。コロは目を凝らすと、驚いた様子で目を見開いた。


「魔力量が、ゼロになってる!」

「そうだ。ワシが膝をついたのは魔力切れというヤツだな。実に興味深い出来事だ。この魔力というやつは放っておけば回復するのだろう? そしてこれを繰り返せば増えていくと。この世界の不思議というヤツだな」


 そうか。イゾウは魔力を使いすぎてしまったのか。アオは納得したが、アキミはあきれたように鼻を鳴らした。


「4回、だよね。イゾウさんが魔力を使ったのは。あたしのスキルでも4回連続程度じゃ魔力切れにならないよ。鍛え方が甘いんじゃない」

「確かにワシは、これまで魔力を使ってはこんかった。アビリティもスキルも気味が悪かったからの。それがすぐに魔力切れになった要因かもしれん」


 あっさりと認めたイゾウに、アキミは毒気を抜かれたようだった。彼女は咳払いすると、すぐにとびっきりの笑顔をアオに向けてきた。


「じゃあ次はあたしね! あたしも魔力操作を覚えたい!」

「アキミさん!」


 サトシは止めるが、アキミは引く気がなさそうだ。


「いいじゃん! サトシだってイゾウさんに槍技を教わってたし、なんか新しい槍ももらったみたいじゃん! それと同じでしょ? 危険はなさそうだし、どうせ誰かが試すんだからやってみてもいいでしょ? だったらあたしがやる! このままイゾウさんに先をこされたままなのはたまんないもん!」

「サトシ。こうなったらアキミは引かないわ。この子の言う通り、きっと誰かが試すんだから、やらせてみてもいいんじゃない?」


 サナがあきらめたように言うと、サトシも溜息を吐いた。その様子を、アキミがいたずらが成功したように笑っていた。


「さあ、アオ! あたしも魔力が使えるようにして!」

「が、がう」


 差し出されたアキミの手を、アオはおっかなびっくりでつかんだ。性格はあれだけどモデルのようなアキミの手を握って、思わず顔を赤くしてしまう。


「さあ! さあ! さあ!」


 急かされて、慌てたように魔力を通したアオ。アキミは大げさに体を震わせた。緊張のあまり、使った魔力が大きかったかと不安になったが。


「きた・・・。きたーーーー!」


 飛び上がったアキミが、内側から多くの魔力を出しているのを見てほっと息を吐いた。どうやらアキミも無事に魔力操作を覚えたらしい。


「よし! さっそく実験だ! スキルの使い方は覚えているから、あれをこうすれば、あたしの魔力を放出できるはず」

「待ってアキミ! 待ちなさい!」


 興奮するアキミを慌てて止めたサナだった。


「いきなり使おうとするなんて危ないじゃない! 少しは落ち着きなさい!」

「でも! スキルと同じように使えば魔法を撃てると思うんだ。ほら! あそこになら試し打ちをしてもいいでしょう?」


 そう言ってアキミが指さした先には、手ごろなサイズの木が生えていた。あれを狙って魔力を試してみるらしい。


 サナはサトシに目を向けると、彼はあきらめたように首を振った。どうやらあの2人はいつもアキミに振り回されているらしい。


「よし! 行くよ! スキルと同じように使えば!」


 アキミはボールを投げるように振りかぶって、魔力の塊を投げた。魔力の弾は放物線を描いて、狙った木のそばを通り過ぎて地面に落下した。


 アキミの魔力は外れてしまった。そればかりか、地面に落ちた魔力の塊は雪玉のようにはじけて消えてしまう。


「はっはっは! 残念、外れだ! もっと狙いを高めねば当たらんぞ」

「たまたまだから! たまたま外しただけだから!」


 アキミは言い訳のように言ったが。正直あの攻撃がそこまで役に立つとは思えない。たとえ腕力がもっとあったとしても、あの魔力の玉ではウルフにすらダメージを与えられないのではないだろうか。


「威力に期待できそうにありませんね。消費はどうですか?」

「えっと、確認してみるね」


 アキミはいそいそとスマホの画面を確認した。次の瞬間、アキミの顔がものすごく暗くなった。


「なに、これ。魔力が、すんごく減っちゃってる。確か、休憩したあとだから全快しているはずだよね? あきらかにスキルの何倍も減ってるんだけど!」

「!! もう一度! もう一度試してください!」


 興奮したように言うサトシに頷くと、アキミはもう一度魔力の玉を放った。さっきのようなひょろひょろ玉で、またしても的を外してしまう。そして消費魔力は・・・。


「駄目だ。さっきとおんなじ・・・。むしろ、今回のほうがたくさん消費しているみたい。もう半分ちょっとしか魔力がない」

「これは・・・」


 そう言うと、サトシはサナと顔を見合わせた。アオも、申し訳なさそうな顔でアキミを見つめてしまう。


「通常、アビリティで得られた能力は、スキルで覚えた魔法よりも威力が上で、消費魔力も低い傾向があるんです。アビリティのほうがスキルよりも強いことがほとんどだ。でも、アオさんの言う魔力操作は、アビリティはおろか、スキルにも敵わないということですね」

「な、なにさ! たまたまかもしんないじゃん! たまたまよ! いつか私も。みんなが驚くような魔力を扱ってみせるんだから!」


 負け惜しみのように言うアキミを、誰もが生暖かい目で見つめたのだった。

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