第149話 天族の台頭
正同命会の拠点にある隠れ家を、コロたちは息を顰めながら進んでいた。倉庫のようなこの部屋には食料品や雑貨などが所狭しと置かれている。
「ここってこんなふうになっているんだ」
「こんなとこまで入ったことなくてさー。こんなところにいろいろ置いてあったんだね。こんなに食料があるなんて。てかお酒ってなんに使うの? うわっ! これ高いやつだよね? 出されたことなんてないんだけど」
ケイとアシェリが声を潜めながら話している。アジトから少し離れたこの場所は、正同命会で活動していた彼女たちも知らない場所だった。食料品や雑貨が部屋いっぱいに置かれている。
この倉庫のような部屋は、フィルムスが事前に調べておいてくれなければ、決して来ることはなかっただろう。
「ふぇっふぇっふぇ! さすがワタクシ! 長らく活動した会員ですらも知らない場所を突き止めるとは!」
「いやそうなんだけどよ。ったく、自分で言うかね」
あきれ顔になったシュウだった。
そして6人と1匹は声を潜めながら進んでいく。途中発見そうになるが、アキミのオリジンによって身を隠すことでやり過ごした。ゲンイチロウの襲撃によって混乱しているせいか、一行は見つからずに進むことができているが・・・。
「!! なんだ?」
「バイオリンの、音?」
突如として響いてきた音に誰もが顔をしかめてしまう。
「きれいな旋律だけど?」
『!! みんな!! 耳を塞ぎなさい! シュウさんは創造を!』
エスタリスの警告に、反射的に耳を塞いでしまう。シュウは慌ててカラスを作り出したが――。
「な、なに?」
「うそっ!!」
他のメンバーは、一足遅かった。
その場にいる面々の背中から触手のようなものが生えてきた。アキミからはピンクの、コロからは黄土色の、そしてケイからは銀色の太い触手がすさまじい勢いで生えだしたのだ。緑の触手が生えてきたフジノは泣きそうだった。
何も起こっていないのはアシェリとシュウで、2人は仲間たちに駆け寄っていった。
「ごおおおおおおおおおお!」
すさまじい怒号に振り向くと、顔を真っ赤にしたコロが手を握り締めて叫んでいた。コロの背にも黄土色の触手が生えかけていたが、怒号とともにぴたりと止まっていた。
「た、大将?」
「みなさん! 意識を保ってください! オリジンを使う要領で、全身に魔力を! 自分を強くイメージして! そうすれば、これを防げる!」
真っ先に反応したのはケイだった。目を閉じて集中した彼女は触手の侵攻が止まったようだった。体の震えもない。真面目な顔であたりを見回す彼女は、地下へと続く階段で目を止めた。
「このバイオリンの音のせいですか? 下から、聞こえてくる? 皆さん! 速く!」
「いたぞ! こんなところまで来ていたのか!」
ついに見つかってしまった。コロの怒号により、正同命会の信者たちが掛けよて来たのだ。悔し気に唇を引き結ぶアキミは、集まってきた信者たちを見て絶句してしまう。
彼らの背には色とりどりの翼が生えていたのだ。そしてその顔はなんだか日本人らしくない。異様に彫が深いように思えた。
「あ、あんたたち、なに、それ?」
「見つけたぞ。ケルベロスの手先どもが!」
言うや否や、右手を突き出してくる信者。そして魔法人から炎を出そうとするが・・・。炎がすさまじい勢いで爆発してしまう。すかさず近寄ったコロが、大剣を振り回して吹き飛ばしていく。
「フジノさん!!」
「え、ええ! そ、そうか! 私の力なら!」
フジノが慌てて作り出したのは、数枚の花弁。それは大気中に漂い、信者たちの鼻筋を覆っていく。においを嗅いでしまった彼らたちは、そのまま意識を失っていった。
アルラウネの力を拡大させることで、眠りを誘う花びらを作り出したのだ。
「さすがコロさん。フジノちゃんも見事ね。でもなんで? あいつらは、なんなの? あいつら、スキルが失敗したような?」
「これは、おそらく・・・。急ぎましょう。音は地下からなっている。一刻も早くこれを止めないと」
頷き合った面々は、地下への侵入を急ぐのだった。
◆◆◆◆
地下室へと入ったシュウの目に入ったのは地下牢の前で佇む3人の男たちだった。
「生川、法源」
パメラが思わずその名を口にした。
牢の前で顔を歪ませていたのは、正同命会の教主、生川法源に他ならなかった。その後ろには2人の男たち。一人は狂ったようにバイオリンを弾きならしていて、ケイは再び触手がうごめいているのを感じていた。
「アゲハちゃん! くっ! その音を止めなさい!」
「ああ。確かにもういいな。これだけ使えば同胞たちはすぐに主導権を握りだすだろうし。あとのことは、おいおいやればいい」
小太りの男がバイオリンを弾く手を止めた。音は止まったが変化は続いている。平然を装うケイとコロはともかく、その他の3人は苦しそうだった。
「これは、魔道具ですね? 私たちの中の天族を活性化させる」
「さすがは聖女。説明して差し上げようと思ったのに。おっと。動かないでくださいね。あなたたちが動くよりも私がこの少女を仕留めるほうが速い」
スーツの男が、アゲハの首に剣を当てた。アゲハは頭を抱えてうずくまって震えているだけだった。
「アゲハ!!」
「無駄ですよ。彼女は至近でアニモの音を聞きすぎた。いかに最強のオリジン使いとはいえ、あの子が出てくるのを防げないでしょう」
アゲハの命が握られ、フジノは悔しさに唇をかみしめた。
『アニモ、ね。私たちの力を活性化させるための魔道具。そんなものまで持ち込んでいたとは』
「お? くっ。ふふふ。あなた、エスタリスですか? なんですかその醜い姿は! ふふふ。軍人の鑑とまで称されたあなたが、なんてざまだ」
小太りの男が、ハトのエスタリスを指さして笑いだした。
「これは、愉快だ! くふふふ! 所詮はアーテルに与した愚物! そんな姿になってまで生に縋り付くとは! あなたはケルベロスに下ったんですよね? この期に及んで命を惜しむとはね!」
「口を閉じなさい! あなたごときがエス子を馬鹿にするな! 付き合っていれば分かるわよ! この子は誰よりも優しくて仲間思いよ! 自分の命を命を惜しんだわけじゃないのよ!」
アシェリが踏み出そうとするが、スーツの男に牽制されて足を止めてしまう。
「はっはっは! これは傑作だ! 雷鳴のエスタリスが。無魔の世界の動物になってしまうとはね! いいでしょう! 見せてあげます!」
彼らは変貌していく。背中から生える触手の色は、白。それは見る見るうちに伸び、やがて翼へと変わっていった。彼に呼応するように、生川法源とスーツの男も変わり始めた。背から生えた白い触手が翼となり、体つきも精悍なものになっていく。
天族になった3人は、驚き戸惑うコロたちに宣言した。
「うふふふふ! やはりこの姿はいいな! ははっ! どうだ! これが真に顕現したということだ! 獣にしかなれないお前とは違うのだよ!」
「あんたたち! やっぱり天族が化けてたんだね!」
『上官殿!!!』
フィルムスの叫び声に、エスタリスも気づいた。一行の後ろから、誰かが近づいてきているのだ。
「こ、この足音は!!」
「ふう。何かあるかと思ったらやっぱりか。ケルベロスの配下が、こんなところまで来ているとはね」
階段から降りてくる影に、素早く距離を取った。
緑の髪を逆立てて三白眼の鋭い目でコロを睨みながらゆっくりと歩いてきた。
「四正天の、ネプトゥ・・・。くそっ。そういやこいつはこっちにいたんだったな」
シュウが吐き捨てるのと同時だった。男はすぐに姿を変えていく。人間だったはずのネプトゥは、あっという間に天族の姿へと変わっていった。




