第145話 サトシとテツオ
「くそっ! やってやる!」
サトシの制止する声も届かない。テツオはクジョウに斬りかかるが、簡単に避けられ、お返しとばかりの蹴りによろめいてしまう。
「テツオ!」
「おっと秀才くん。お前の相手は俺たちだ」
「くひひひ! 誰も気にせずお前を殴れるのはすかっとするな! 爽快ってやつだ!」
「う、うん。その、サトシくん、ごめんね?」
テツオの援護に向かおうとしたサトシだったが、防戦一方になってしまう。3人の獣人に襲われて手も足もでないのだ。
「ほら! ほらほら! 防具もつけずに飛び出しやがって! 戦場じゃあ、強いもんが勝つ!」
「お前ごときが俺たち3人を止められるわけないだろう! 弱肉強食の摂理ってやつさ!」
「サ、サトシ君。わ、悪いけど」
3人が猛攻を続けてきた。3人は第1形態だけあって、フィジカルは相当に優れている。単純な力やスピードは第4形態であるサトシを大きく上回っていた。
「知ってんぞ! お前、ろくにアビリティを使えねえんだろ!! 体を乗っ取られるとか言うデマを真に受けてよ! はは! 死ねよ! 獅子の力を舐めんな!」
レオはサトシめがけて大剣を思いっきり降りぬいた。彼のアビリティ派剛腕。文字通り腕力を強化する能力だ。勝利を確信したレオの顔は、しかしすぐに驚愕に染まる。
「な、なんだと!?」
サトシの細腕が、レオの大剣を受け止めたのだ。剛腕で押しつぶすはずの一撃が、サトシの腕を破壊することすらできなかった。
「はあ? レオ! 手を抜くな! 俺が!」
「え、ええ? こ、これなら!!」
分裂したようなヒョウの斧と突進力を生かしたナリのこん棒――アビリティを使った攻撃も、サトシには通じない。虚構を見抜いて本体の一撃を交わし、サイの突進を簡単に避けてしまっていた。
「くそ!! ちょこまかと避けやがって! 俺たちの攻撃がみえてるってか? しかも、固え! 当たった一撃が効かねえのはどういう理屈だ!」
「なるほど。それが君のオリジンというヤツか。そのYシャツが君を守り、動きを補助しているんだね」
クジョウはさすがだった。テツオの猛攻を簡単に避けながら、サトシの力を分析してみせた。
「ああ!! この真面目ちゃんが!! そんなだからぼっちなんだよ! ちょっと攻略が順調だからって知った口を! こんなのまぐれにきまっているだろう!」
「まぐれではないよ。おそらく彼のYシャツはオリジンという能力で作り出した物だろう。魔力の流れが、明らかに違う。大剣の一撃を防ぐ効果もあるのだね。素晴らしい。そこのライオンくんは、力だけは魔線組でも随一なのにね」
言うと同時に、クジョウは後ろに飛びずさる。その瞬間にそれまでクジョウが居た場所を氷の柱が貫いた。
「やるね。確かにこれは個人戦ではない。油断大敵と言ったところか」
「あなたもさすがね。あの塔を一人で攻略しているだけはある。もっとも、後ろの彼は避けられなかったみたいだけど」
「い、いつのまに・・・。あれ? 彼って?」
突如として現れた氷の柱にあっけに取られていたテツオは、やっと理解する。サナが、戦いの合間を縫って援護してくれたのだ。
「ナリ! くそっ! てめえが!!」
「あ、兄貴・・・。う、動けない。さむい。い、意識が・・・」
声が聞こえ。テツオはまたもや驚かされる。クジョウが躱した氷はナリに直撃し、サイの体を凍り付かせたのだ。ナリは動こうともがくが氷はびくりともしない。獣人のパワーをもってしてもびくともしない氷はさすがは魔族が作ったものということか。
「くそが!! あばずれごときが調子に乗りやがって!」
「おっと。行かせないよ。これはチームプレイなんだ。後衛に攻撃が通させるわけがない」
サナに向かおうとするヒョウの前にサトシが一瞬にして立ちふさがる。そして槍の一撃で動こうとするレオを牽制してみせた。
「この!! メガネが! 邪魔なんだよ!!」
「お前たちはサナさんには近づけない。俺は確かにサナさんほどの力はないが、お前たちを足止めすることくらいはできる」
頭に血が上ったレオは大剣を振り回し続けるが、サトシは槍と腕でそのすべてをいなし続けた。
「くそっ! なんでだ! なんで、斬れない! 俺の力が通じないってか!!」
「俺にはそれだけしか取り柄がないからね。君の力でも、俺のオリジンは破れないことが分かった。何せこれには俺の魔物の力が籠っているからね。ガーゴイルの固さは折り紙付きということさ」
自嘲気味につぶやくサトシ。たまに体をかすめる大剣にも傷ついた様子はない。ガーゴイルの防御力を込めたそのYシャツは、アビリティを使って強化したレオの一撃を見事に受け流している。
「くそっ! くそくそ! 俺の力が通じないとでもいうのか! ふざけんな!!」
「はっ! 時代遅れのパワーなんぞそんなもんよ!! だが安心しろ! 俺たちには、これがあるんだからな!!」
サトシの顔色が変わった。ヒョウが懐から抜いたその武器を目にしたのだ。ヒョウはリボルバーの標準をサトシの胸に固定していた。
「お前! どこでそれを!!」
「悪魔を仕留めた武器と同等との触れ込みだ!! お前がいくら堅かろうとも、至近距離でこれが防げるか!!」
慌てて避けようとしたサトシの眼前でヒョウの姿がぶれた。一瞬にして3体に増え、それぞれの手がリボルバーを構えている。サトシはその様に一瞬だけ戸惑ってしまう。
「くっ!お前!!」
「ひゃっはあああああ!! お前、戸惑ったな! 死にやがれ!!」
叫んで、引き金を引く。銃声は一つで放たれた弾も一発。しかし弾丸は吸い込まれるようにサトシの胸を貫いた。
「おい、サトシ! てめえ!!」
「はっはっは!! 高い金を払った価値はあるじゃねえか!! オリジンだか何だか知らねえが、これに貫けないほどではなかったんだよ! コウモリ野郎!! お前も同じところに送ってやるよ!!」
ヒョウは、そのまま標準をテツオに向ける。引き金を引かんと歪んだ笑みを浮かべるが――。
「俺の状態を確認すらしないとはね。なめているのはどっちだ」
「なっ!! お前!!!」
ヒョウが反撃する間もなかった。一瞬にして飛び出したサトシは、槍を振るい続ける。薙ぎ、払いを連続して放ってヒョウの体勢を崩していく。
「くそっ! 仕留められなかったのか? だが!」
ヒョウがまた、ぶれたように分裂していく。再び3体に分かれてサトシを幻惑する。
「お前・・・」
「ははっ! このまま押し切ってやるよ!」
ヒョウは勢いよく斧を振り、サトシを狙う。レオも嗤いながら攻撃していった。サトシは何とかそれらを避けるが、その目に映ったのは3体のヒョウが同時にリボルバーを引き抜く姿だった。
「おわりだ!」
「落ち着け。実際に3人になったわけじゃない。本体は一つだ。なら――」
サトシの目は、ただ本体のみを見つめていた。
「お、お前! なぜ!」
「ああ。そういうことか。あの子との模擬戦が役に立ってるんだな。お前、あの子より相当に遅いから、どれが本体かなんてバレバレなんだ」
にこりともせず、スムーズな動きで本体の懐に潜り込む。そして体をひねると――。
「一閃」
鋭い突きを、ヒョウに放った。オリジンによって突き出された穂先は本体のリボルバーを捕らえ、ヒョウの肩ごと貫いていく。
「が、があああああ! いてえ! いてえよ!」
反射的に右腕を押さえるヒョウ。リボルバーを取り落としたのすらも認識もできず、血に染まる腕を押さえながら、サトシを睨むことしかできない。
「お、お前!!」
「敵を目の前に油断しすぎだ」
サトシは止まらない。そのまま連続攻撃を繰り出し、一撃ごとにヒョウを追いつめていく。そして払いがヒョウのガードを吹き飛ばすと、石突で獣の顎をしたたかに打ちつけた。
「!!!!」
「これで、もう終わりだ」
打った瞬間に流れた電流がスタンガンのような効果を上げたのだろう。白目をむいて膝をつくヒョウを見ることなく、サトシはあっけに取られた様子のレオに槍を向ける。
「獣人隊は、残りはお前だけだな」
「ば、バカな!! ヒョウの銃はお前を貫いたはずだろ!! なんでお前はぴんぴんしてんだ!!」
サトシは一瞬だけはっとすると、苦笑しながら自分の胸をまさぐった。そして取り出したのは、一台のスマホだった。スマホはひびだらけで、その中心には銃弾が埋まっている。
「ば、ばかな・・・。スマホが盾になって、銃弾を防いだってか!?」
「あいつ・・・。こういうべたなのは嫌いだって言ってたんだけどな。でも、おかげで助かった。さあ! 次はお前だ! お前がどれほどのものか、見せてもらうぞ!」
泣きそうになりながらも、それでも槍を構えてくるサトシに、レオはあからさまにたじろいだのだった。




