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第143話 作戦開始

「み、ミナトさん。良いんですか? 上がいろいろ言ってくるようですが」

「うっせえんだよ! お前は黙って俺に付いて来ればいいんだ!」


 心配そうに声をかける仲間を、ミナトは怒鳴りつけた。


 レンジの一件以降、ミナトの評価は下がってしまった。あの戦いでパーティーメンバーのほとんどを失い、唯一戻ってきたマコトもなんだかよそよそしくなった。厳しく問い詰めて連中の拠点の入り口を吐かせたものの、それ以降はミナトに近づきもしない。


 そしてミナト自身も・・・。


「今日は塔に行くんでしたよね? 第1階層を・・・」

「ああ!! そう言っただろ! 俺はもっと、これの使い方を試さなきゃいけねえんだからな!」


 ミナトは、あの戦い以降スキルを使うのをやめている。怖くなったのだ。レンジがファイアドレイクに変わったのを見て、自分も変化してしまうかもしれないことにようやく思い至った。


 アイカの言葉が頭に浮かんでしまう。あれはもしかしたら、レンジのようになるミナトを心配してのものだったのかもしれないと思ってしまったのだ。


「くそっ! 俺はまだやれる! スキルが使えなくなってもこの大剣があれば雷だって!」

「み、ミナトさん! あれ!」


 仲間の指さすほうを見て目を見開いた。そこに、お尋ね者のはずの真原源一郎が大手を振って歩いていたのだ。寒くもないのに毛皮のコートを纏っいるのがなぜか気に障った。


「な、なんで真原さんが!?」

「あいつはお尋ね者だぞ! さん付けなんかすんじゃねえ! ちきしょう! やるぞ!」


 素早くゲンイチロウの前に躍り出た。素早く黒いオーラを放つ大剣を抜き、ゲンイチロウを睨んだ。


「なんだ? おめえ、もうスキルは使わねえのか?」

「だ、だまれよ! お尋ね者のくせに!」


 笑い交じりに言うゲンイチロウをミナトは必死で威嚇していた。


 しかし、その時・・・。


タアーーーーーン!


 一発の銃声が鳴り響いた。ゲンイチロウの胸が煙を吹きだす姿に、ミナトは喜色を上げていた。


「み、ミナトさん! やりました!」

「は、はっ! ど、どうだ! 調子に乗って出てくるから!」


 喜んで報告してくる仲間に、喝采を上げたミナトだった。ゲンイチロウは眉をしかめ、そっと毛皮のコートを振った。すると銃弾がポロリと落ちてきた。


 奇襲の銃弾は、ゲンイチロウに傷一つ付けられなかった。


「狙うなら、ここだろ? ここ。自信があるなら頭を狙わないとなぁ」

『くふふふ。仮に頭を狙われても、ワシが簡単に防いで見せたがの』


 いきなり声が響いてミナトたちは驚いた。何もない空間から低く重々しい声が突如として流れたのだ。ミナトにはその声はゲンイチロウの胸のあたりから響いたように思えた。


「な、なんだよ! そのコート! 妙なものを使いやがって! 迷宮でなんか見つけたってのか?」

「そんなわけ分かんねえもん使うかよ。これは俺のオリジンだよ。『魔装』ってんだ。オリジンで俺の中の魔物が宿れるようなコートを作り出したんだ」


 自信満々に言うゲンイチロウに、ヨースケが笑い声を上げた。


「さすがは親父だよな! オリジンの新しいやり方を見つけちまうんだから!」

「簡単にばらしてどうすんだよ。親父らしいっちゃあ親父らしいが」 


 オミまでもが額を押さえている。魔線組の元幹部、ヨースケとオミの出現にミナトは顔色をなくした。


「お、お前ら! そろいもそろってこんなところに! くっ! 増援を呼んでくる! お前らは、こいつらの足止めを!」

「ミ、ミナトさん? 待ってください!」


 ゲンイチロウさえ求める間もなかった。ミナトは彼に見合わぬ素早さで去っていった。残された彼のパーティーメンバーはポカンとした顔で後ろ姿を見送ってしまう。


「くくくく。お前ら、見捨てられたなぁ。あれ、逃げたんだぜ。増援を呼ぶならお前を行かせればいいのによぉ。確かお前、足は速かったよな?」

「それは! くっ!」


 歯を食いしばった男の首筋を、何かが過った。そして倒れ込む男の仲間たち。一人は何かに怯えるような顔で目を向いて、もう一人は顎を打ち抜かれ、最後の一人はおろおろとしているうちにみぞおちを打たれ、倒れ込んでいく。


「おうテツオ! お前も絶好調じゃねえか!」

「うす! この『魔装』ってやつ! やっぱり使えますね! へへ、あれにこんな使い方があるなんて!」

『・・・・コノ・・・、・・・テイド・・・。ワレラニカカレバ、カンタン・・・』


 敵をあっという間に気絶させたテツオだった。彼はオリジンで革ジャンを作り出し、それに魔物を憑依させることに成功している。リーパーの力を使った隠蔽技術で、ミナトの仲間をあっという間に無力化したのだ。 


「なんとも情けねえやな。親父たちのオリジンが強えとはいえ、相手は第3階層を探索中なんだろ? それにしちゃあ弱くねえか?」

「スキル頼りが、それを使えなくなったならこんなもんだろう。さてっと。俺たちは俺たちの仕事をしようか。ケルベロスや小代のには世話になったからな」


 ゲンイチロウは正同命会のアジトのほうを睨むと、そのまま道の先に向きなおった。


「さあ、行こうぜ! 俺たちのアジトを取り戻すんだ! 爺さんたちも頼むぜ? 突き合わせて悪いがよ」

「まあ、乗り掛かった舟というヤツよ。少々派手に行こうか。コロたちを援護するためにもな」


 ゲンイチロウの言葉にイゾウが苦笑している。その後ろにはユートら5人が頷き合っている。イゾウたち5人が護衛することで確実にゲンイチロウたちを成功させるつもりらしい。


「リク?」

「いや、アゲハちゃんを助けるメンバーはみんなすごいんですけど、うちのフィルムスがね。大丈夫かな。余計なこと言っちゃわないかな?」

「あの子なら大丈夫だろ? ちょっとおしゃべりだけど仕事だけはちゃんとする子だし。アゲハちゃんを見つけたのも彼女だったろう?」


 ユートが慰めるが、それでもリクの不安は消えなかった。



◆◆◆◆



 戦いが始まった。


 街の中で、ゲンイチロウたちが魔線組のオフィスへと押し入ったのだ。


「うし! 俺たちも行くか! 魔線組がもめている間に、アゲハ嬢ちゃんを救おうぜ」

「そだね。うん。ちょっと心配だけど、その分ちゃんとしないと。ね! ケイ先生!」


 シュウとアキミの言葉に、ケイがわずかに微笑んだ。


『ふぇっふぇっふぇ。ワタクシにお任せいただければすぐにアゲハ嬢までご案内しますぞ! ワタクシにお任せいただきたいですぞ!』

『フィルムス! 騒がない! あなた、ちょっとしゃべりすぎなのよ!』


 相変わらずのフィルムスを、エスタリスが窘めた。


「マルスが塔に向かったのは確認しています。メイとソウマも、ウララだって塔にいることは証明済みです。トゥルスとウェヌスのパーティーの子たちも出撃したよう。塔の中でなにかをさせたいみたいだけど、詳しくは分からないわ」

「事前に仕入れた情報があればすぐに案内できるわ。私たちはここに何度も来ているからね!」


 潜入する部隊はコロをリーダーに、シュウとアキミと元聖女のケイとアシェリ、そしてフジノだった。この6人が、フィルムスの案内の元、正同命会の離れに忍び込む。


「本当はアオ本人が来たかったのだろうけどよ。代わりと言っちゃあなんだが、俺たちがしっかりしないとな」

「そだね。あたしもオミさんたちの同行を断ってまでこっちに来たんだから。うん。がんばらないと」

「正同命会のオフィスは私たちにお任せください。きたことないばしょもあるけど、どこに何があるかは分かるから」


 意気込むシュウたちに頷きかけると、コロが決意を込めて力強く宣言した。


「それじゃあ、決めてしまいましょう。今夜でアゲハちゃんを助けるんです。フジノさんも独断専行はダメですよ! 僕について来てください」

「は、はい!」


 コロの言葉にフジノが頷くと、全員が音を忍ばせて動き出すのだった。

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