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第14話 アゲハと黒い少女

「ふっ。これはどうだ?」

「あああ! それはフライドポテト! そんな! そんな素敵なお菓子まであるなんて! 自由に動けるだけでなく食事制限もないなんてサイコーじゃない!」


 姦しい声が聞こえてきた。頭を振りながら眼をひらくと、あの黒い少女と白い少女が話し合っていた。なぜか自慢げな黒い少女を、もう一人の少女が感動したように見上げている。異様に肌の色が白い少女だった。その手には包みとハンバーガーがあって、歯形がついていた。


「こっちに来て約半年! 炊き出しに頼ってなんとかお腹を満たしていたのに! せっかく転生したのにまたあの偉そうな爺に会うなんて! それになんなの、あの子! こんなことしていないで働けなんて! 働いたら負けなのに! 私は働くつもりなんてないのに!」

「ここに来れば食事は思いのままだぞ。ほれ。お前ならまたここに来ることも可能だろう?」


 黒い少女が袋を渡すと、もう一人が乱暴な手つきで袋を開けた。そしてフライドポテトを一気に食べ始めた。彼女は感動したようで、涙を流しながら何度もうなずいている。


 アオは塔の入り口で食事をしていたはずだった。話をしながら和やかに話をしていた。それが、気が付いたらここに来ていた。もしかしたら、アオは話の途中で寝てしまったのかもしれない。


「やばい! 目上の人に失礼なことを! 魔法のこととか形態のこととか、聞きたいことがたくさんあったのに!」

「今回はさすがにダメかと思ったが、何とかなったな。ふっ。私の運も捨てたものではないということか」


 黒い少女は相変わらず一人で納得している。あわてて周りをきょろきょろすると、もう一人の少女と目が合った。


「!! 上げないよ!? これは私のもの! そりゃあ、ちょっとコレジャナイ感はあるけど、それでも久しぶりのお菓子なんだから! これまではお菓子なんてめったに食べられなかったんだからね!」

「いや、要らないけど・・・。てか、誰?」


 体を起こしながら聞いてみた。やはりしゃべれるのはいいなと思いながら、いぶかしげな眼で少女を睨んだ。


 見たことのない女の子だった。銀色の髪で年のころは10代前半くらい。耳の上と背中にコウモリのような羽が生えている。まるで悪魔のコスプレをしているようだ。顔立ちはすさまじく整っていて、雑誌に出てくる子役モデルのようだった。


「ここではまだその体なのだな」


 ぼろきれを纏った少女に言われたとき、気づいた。アオはまた、あの小石浜に仰向けで寝ていたのだ。


「その体って・・・。あれ? 俺、人間の姿に戻ってる!」

「さて。生き残る術を見つけたようで何よりだ。余分なものを食ってくれる虫も見つかったことだしな。食っちゃ寝ばかりしている怠け者なのは玉に瑕だが、才能だけはある」


 黒い少女が言っていることは全然わからない。どうしてここにいるのか、そしてどうして人間の姿に戻っているのか。もう一人の少女はなんなのか。


 でもあの黒い少女に聞いても教えてくれるはずはなかった。


「これは私のものだから! お兄さんが何を言ってもあげないから!」

「いやいらないから。お腹いっぱい食べるといいよ。なんでここにそんなものがあるのか知らないけど」


 アオは言ったが、コスプレ少女は警戒したようにフライドポテトを食べ続けている。取られると思っているのか、かなり急いでほおばっていた。


「えっと・・・。俺は小代有央。アオって呼ばれているんだけど、君は?」

「まさかの自己紹介! あなたに名乗る名は・・・、っていいか。私はアゲハって言います。ん? 変な名前? そんなことないって! 今時なくはない名前です! キャバ嬢見たいっていうな!」


 何も言っていないのに、アゲハはまくし立てた。その間にもフライドポテトを食べ続けているのに執念を感じた。


「いや、そう思っていないけど。君はなんでここに・・・」

「驚いたぞ。まさかお前にそんな資質があるとは。そこの虫も目覚め始めている。ふふふ。お前たちは猿真似しかできないただの身代わりかと思ったが、それだけではないのだな。身体強化だけでなく我が技まで使おうとするとは」


 アオの言葉を、黒い少女が遮った。


「力は微弱。だが鍛えれば使えるようになるやもしれぬ。何しろそれは魂を鍛えることにもなるからな。これは面白い。もしかしたらお前たちこそがあの害鳥どもに一泡吹かせられるかもしれん」


 相変わらず人の話を聞かない少女だった。そして彼女は何も言わずにアオに近づいてきた。のけぞるくらい至近距離に来た少女は、乱暴な手つきでアオの手を握った。


 その瞬間に走る、鋭い痛み。アオは思わず顔をしかめてしまう。ぞくりとしたのだ。なにか根本になるようなものを刺激された、そう思ってしまった。


「い、痛い! 痛いってば! なんだ!? 今の? なんかすげえぞっとした! やばいことしてきただろう!」

「覚えておけよ。私の眷属たるお前らには同じ力がある。お前らがいいと思った奴に同じように魔力を通せば、同じことができる。同じように、魂をゆさぶれるんだ」


 何を言っているのかわからない。女の子に手を握られているのに、あまりに強く握りしめられてアオは思いっきり手を振りほどいた。


「何すんだよ! めっちゃ痛いし怖かったぞ! ゴブリンレイダーの攻撃より痛いってどういう力だよ!」

「ふふふ。お兄さんもされたのね。ざまぁ。私のお菓子を取ろうとするからよ」


 楽しそうに笑うアゲハとは対照的に、黒い少女は真剣な顔で説明してくれた。


「それはお前たちが本来持つ力だ。借り物ではない、お前たちの種にもたらされた、お前たちだけの力。お前たちの魔力で刺激を与えれば他の者も目覚めるだろう。魔力と魂の力には密接な関係がある。まだ弱いのはお前たちの魂にそれほどの力はないからか。使い方はいろいろあるようだな。少し興味がある」


 腹が立ってきて力いっぱい睨んでしまう。アオの感情と呼応するように、アオの体の中からオーラのようなものが噴き出してきた。


「な、なんだこれ!」

「さすがに我が眷属だけあって量はそこそこあるからな。奴らはそれを魔力と呼んでいる。気づいているだろう? 身体が動きやすい瞬間があったことに。それは虎が混じったからだけじゃない。お前が無意識で魔力を使って体を強化しているのだ。もっと使いこめばお前たちでも自分の種の力に加工することも可能だろう。これがあれば奴らのあのくそったれな害鳥どもの野望も防げるかもしれん。よかったな」


 何がよかったのか。そして害鳥とは何のことを言っているのか。


 分からないことだらけで、アオは混乱するばかりだった。


「お前! 何が何だかわかんねえよ! 俺を虎に変えたのはお前か! ここはどこなんだよ!」

「とりあえずは身体強化から鍛えるのがいいだろう。あれは魔力を使った基本的な動作だが、極意ともいえる技だからな。魂を利用する技はまだ使うな。あれはお前には早い。まずは魔力を操る技を磨いていくんだな」


 少女は相変わらずわけのわからない説明を続けた。


「お前が魔力に目覚めてくれたおかげで私がここにいられる時間はもう少し稼げそうだ。もっと励めよ」


 少女がアオを押した。ちょっと押しただけのようだったがすごい力で吹き飛ばされた。はるか後方に吹き飛ばされながら、アオはまた意識が遠のくのを感じたのだった――。

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