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虎136話 四正天ネプトゥの変貌

「四正天の、ネプトゥ。正同命会で2番目に強いって言われているよね」

「引きこもりにまで名前が知られているとはな」


 アゲハをけなしながらも、ネプトゥはどこか得意気だった。


「ネ、ネプトゥ、様・・・」

「ふん。役立たずが。手負いのガキ一人仕留めるのにどれだけかかっている。こんな簡単な任務すらもこなせないとは。所詮は女ということか」


 何とかネプトゥに近寄ったスズは、見下すように言われてびくりと体を震わせた。


「所詮は犬程度にしか好かれない半端者! お前がうすのろなせいで俺たちまで働かなきゃいけなくなっちまったじゃないか! この役立たず! これ以上俺の手を煩わせるんじゃねえ!!」

「犬程度とか言われんのは心外なんですけど。お前、何言ってんの? お前の存在が犬に敵うところが一つでもあると思ってんの?」


 ネプトゥはアゲハのほうを振り返った。睨みつけたまま、追いすがるスズを蹴り飛ばした。


「うぐっつ! ああ!」

「お前! 何やってんだ!!」


 突然の蛮行に手を伸ばしたアゲハ。その動きを遮るようにネプトゥの仲間たちが行く手を塞いだ。


「はっ! この犬臭い女をしつけてやろうってんだ! 汚い手でこの俺に触ろうとしやがって」


 なおもスズを蹴りつけたネプトゥに、アゲハは迷わず突進していく。すかさずネプトゥの3人のパーティーメンバーが立ちふさがった。


「バカめ! 中途半端な正義感なんぞ見せやがって!」

「邪魔を、するなあああ!!」


 ウェヌスは目を見開いた。


 一瞬の出来事だった。振るわれた剣を躱したアゲハは、そのまま一人目を殴りつけた。思わず身をすくめた2人目のみぞおちにナイフの柄を突き上げ、動揺する3人目に魔力の衝撃波を浴びせた。

 

「くっ! 引きこもりが! 調子に乗るなよ!」


 あっという間に3人を無力化したアゲハに、ネプトゥは唾を飛ばした。そして同時にネプトゥの手が鳥のくちばしのように変化した。その口から、すさまじい勢いの竜巻が吐き出された! 戦っていた仲間すらも巻き込みかねない一撃にウェヌスは驚きを隠せない。


「ああ! もう! めんどくさい!」


 アゲハはこともあろうにナイフで竜巻を斬りつけた。斬撃は竜巻を両断し、連鎖するように消えていく。


「ば、バカな!! 俺の、アビリティを!!」

「知らないの? 魔力を使った攻撃はより強い魔力をぶち当てることでかき消すことができるのよ! あんたの未熟なアビリティなんて、所詮はこんなものよ!」


 アゲハの嘲笑に歯を食いしばったのは一瞬だった。次の瞬間、ネプトゥはいやらしく笑い、くちばしに変わった手をスズに向けだした。


「なっ! あんた! 仲間じゃないの!?」

「さあ? どうだろうな」


 ネプトゥの手が輝きだす。スズはそれを目を見開いて見つめていた。


「え? な、なんで?」

「ふん。俺の勝利に貢献できるんだ。もっと嬉しそうにしたらいいだろ?」


 笑顔とともに発射される、ネプトゥのアビリティ。スズを捕らえていたはずの竜巻は、しかしすぐに消えていく。アゲハが竜巻を斬りつけた。


「ふはっ! やっぱりか! お前、人が傷つくのが嫌か! 敵なのに命をかばおうとは本当にお人よしなんだなぁ!」

「あんた、今本気で! くっ! この!」


 次々と吐き出される竜巻を、アゲハはナイフでかき消し続けている。だがその表情が変わっていた。余裕はとっくになくなり、焦りに顔をゆがめていた。


「あ、あああああ!」

「くふふ! 素早いやつは体力がないってな! そろそろ限界か! やはり持久力まで飛びぬけているとは限らないんだな! このままそのガキごと押し切ってやるよ!」


 竜巻を裁き続けるアゲハだが、徐々に押され始めていった。軌道を変えるのでやっとになり、肩や脇に無数の傷ができ始めた。


「ア、アゲハ!」

「そのまま隠れてろ! お前までかばうのはめんどくさい!」


 動こうとした瞬間に叫ばれ、物陰から飛び出すことができなかった。ウェヌスは悔し涙をにじませながら、ネプトゥを睨みつけた。


「ネプトゥさん! もうやめてください! 味方を狙うなんて、こんなの間違っていますよ!!」

「黙れよ! くふふ! このまま押し切ってやる。このガキが終わったら次はお前だ! たっぷり料理してやるからな!」


 ネプトゥは楽しそうにアビリティを繰り出し続けた。ウェヌスはアゲハを助けるために周りを見渡すが、役立ちそうなものは何も見つけられない。


「や、やめて!」

「そら! そら! そら! そら!」


 ネプトゥの猛攻を、アゲハは歯を食いしばりながらなんとか凌いでいく。


 避けることは難しくない。でも一度でもよければ、竜巻は後ろのスズを貫くだろう。スズの位置を計算してアビリティを討ち続けられるのは、さすがは四正天と言ったところだろうか。


「あ・・・。あ?」

「あはははは! 朦朧としているじゃないか! これ、もう死ぬだろ? 俺のアビリティが当たれば確実に死ぬな! ほら! ほら! ちゃんと防がないと、その女が死んじまうぞぉ!」

「お前!! 仲間を殺そうってのか!! ふざけんなよ!!」


 悪態をつくアゲハを気にも止めず、ネプトゥはアビリティを放ち続けていく。ネプトゥよりもはるか格上のアゲハだが、持久力はそれほどでもない。このままかばき続けるのも限界があるかもしれない。


「も、もうやめてください! アゲハだけじゃない! ネプトゥさんだってまずいですよ! そんなにアビリティを使ったら、限界が!!」

「はっ! 悔し紛れに何を言う! このまま押し切って!」


 嘲笑と同時だった。ネプトゥの胸から緑の光が溢れ出し、アゲハを、スズを、ウェヌスを、あっという間に照らし出した。


「な、なにを・・・。ここには、あなたのパーティーメンバーだっているのに!!」


 涙目になって叫ぶ中、気づいた。不意にネプトゥのアビリティが止まったことを。


「ネ、ネプトゥさん? え? なんで?」


 ウェヌスはおろおろしてしまった。ネプトゥが口を半開きにして呆然としていたからだ。自前の武器すらも取り落とし、うつろな目を天井に向けながら立ち尽くしていた。


「え? なにが? え?」

「構えを解くな! 戦いは終わってない! むしろこれからが始まりだ!!」


 混乱するウェヌスに、アゲハの忠告が飛んだ。うめき声が聞こえて慌ててそちらを見た。ネプトゥが、頭を抱えて叫び出したのだ。


「あっ、あっ、あああああああああああ!」


 叫び声に戸惑いながら、ウェヌスはきょろきょろとあたりを見渡した。


 アゲハは、厳しい目でネプトゥを睨んでいる。猛攻が止んだというのにその顔に余裕はない。まるで新たな脅威と遭遇したように厳しい表情を隠さなかった。


 いたたまれなくなって視線をずらすと、倒れ込んでいたスズが目に入った。同じように寝ころんでいるネプトゥのパーティーメンバーたちも。


「動けなくても意識がありそうな人はいたのに、今は気絶している?」

「多分、あのへんな光よ。あの緑のを浴びた瞬間に倒れちゃった。あれは、まずい。私のトンボも、みんな撃ち落されちゃった。みっちゃんやお兄さんのと同じ匂いがする。あの光を浴びたら私だってやばいかも」


 アゲハの答えを聞いて、ウェヌスはもう一度ネプトゥを見た。アゲハのトンボが突撃しては撃ち落とされていく。なにもしていないようなのに、相当の防御力があるようだ。


「ああああああああああああああ!」


 呆然とネプトゥを見る中で、ウェヌスは彼の姿が変わっていくことに気づいた。目の色が、違うのだ。日本人の茶色の瞳から、鮮やかな光を讃える緑へと。


「め、目の色が」

「目だけじゃない。なんかアイツ、膨れてる!」


 ウェヌスは言われて改めてネプトゥを見た。


 アゲハの言うとおりだった。ネプトゥの身体が膨れているのだ。細身だった身体が一回り大きくなり、背中がぼこぼことうごめいている。


「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 叫ぶと同時に、鎧と服がはじけ飛んだ。背中から4本の触手のようなものが飛び出し、見る見るうちに膨れ上がっていく。膨らんだそれは、まるで緑の翼のようだった。


「は、羽? あれ? 天使みたいになった?」

「メルヘンなこと言ってんじゃない! 天族よ! あいつ、天族になっちゃったのよ! あいつらの、狙い通りにね!」


 アゲハの言葉にウェヌスは慌てて構えを取った。


「ふう。これが、この世界に顕現するということか」


 天族へと変貌したネプトゥは、どこかほっとするような笑顔をアゲハたちに向けたのだった。

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