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虎135話 トゥルスとデラ。ウェヌスと・・・

「くそっ! デラ! 俺とやり合おうってのか!」

「俺はよ。お前の友人である前に正同命会の聖戦士なんだよ。聖女が去った今、会員たちはみんな不安を感じている。そんな時に俺たちが揺らいだらどうなると思う? それこそ崩壊しちまう。暴徒になったり自暴自棄になったりする奴も出るかもしれん。そうならないように、俺たちは一丸だって示さなきゃなんねえ。たとえお前を犠牲にしてでもな」


 淡々と語るデラに、トゥルスは歯を食いしばった。


 デラはこの世界に来る前からの友人で、正同命会に属してからずっと一緒に戦ってきた。口は悪いが実直で、彼の陽気さに何度も助けられてきた。でも今は、敵対している。トゥルスを敵とみなして攻撃してきているのだ。


「悪いな。でもお前を捕らえなけりゃこの場は収まらん。あきらめて」

「がああああああああああああ!」


 突如として響き渡ったのは獣の咆哮だった。ぎょっとして振り向いたデラは、見た。虎のような大男が、デラたちめがけて駆け寄ってきているのだ!


「ちっ!あれがうわさの虎人間かよ!」


 デラは走り込んできたアオに対処しようと身構えた。しかし、アオがデラに詰め寄る瞬間・・・。


 アオの足元の土が、音を立ててはじけ飛んだ。


「隠れろ! 狙撃だ!! 10時の方向!!」


 イゾウの警告に、即座に動くアオ。周りの次が次々とはじけ飛んでいくが、アオは巨体を縮こまらせながら、やっとの思いで物陰に隠れていく。


「な、なんだ?」

「狙撃だ! 北東から狙われておる! 気をつけよ! ワシの魔力障壁など簡単に消し飛ばせる威力だぞ!」


 呆然とするトゥルスに叫び返したイゾウだった。アオは物陰に隠れながら荒い息を吐いている。


「着弾の角度と音からして、多分あそこか。この感じはトア、なの? でもあの子なら、らしくない。あの子が本気なら、この程度で済むはずがない」


 汗をかきながらも疑問符が浮かぶアキミだった。


「正同命会のトゥルスだな! 何が起こっておる!」

「俺たちだってわかんねえよ! 2種類の密命が出てて、俺とウェヌスは見張られてた! で、なぜか俺たちにアゲハを守れっていう命令が来てたんだ! もしかしたら、誰かが俺たちをはめようってのかもしんねえ!」


 イゾウの声に、トゥルスが叫び返した。その間に物陰から飛び出そうとするが、瞬時に狙撃されてあわてて顔を引っ込めた。


「くそ! 完全に狙われてるぞ!」

「エス子!!」


 掛け声とともに、一羽のハトが矢のように飛び出していく。時に回転し、分裂し、ジグザグにうごきながら、どんどんと突き進んでいく。そしてと待ったや否や、黄色に輝きだした。


「さすがエス子! ちょっと離れすぎかと思ったけど何とかなるもんね!」

「ようやった! トゥルス! 逃げるぞ! まさかこの期に及んでここに残るとは言うまいな!」

「くそっ! 行くしかねえってのか!」


 トゥルスは駆け出すイゾウの後を追っていく。


「トゥルス!! いや、健司! てめえ! やっぱり裏切んのかよ!」


 叫ぶデラの声を聞きながら、それでもあきらめることなく駆け出したのだった。



◆◆◆◆



 第2階層の迷宮で、ウェヌスは必死で隠れていた。


「なんで!? なんでこんなことに!」


 ネプトゥとかつての仲間に襲われ、頼みのトゥルスからも引き離された。ウェヌスは彼らに斧を向けることができず、逃げ出すことしかできなかったのだ。


「うう・・・。私、一人きりだ・・・」


 泣きながら嘆くが、答えてくれる仲間はいない。2人の仲間はウェヌスを逃がすためのおとりになった。怖くて耐えられなくて、ウェヌスは逃げ出すことしかできなかった。


「うぇ、ぬぅ、すぅちゃぁん。どこにいるのかなぁ!」


 楽しそうな声が聞こえ、ウェヌスはきょろきょろと見まわした。息を顰めなあらごくりとつばを飲み込む。追いつかれたらどうなるかはわからない。緊張で心臓が爆発しそうだった。


「くふふ! あんたの足もよく知っている。腕力の割に鈍足で、のろまなんだよね? なのにこっちに来て四正天とか言われて調子に乗って。やっと殴れると思うとせいせいするわ」


 聞こえてくるのは金属を引きずるような乾いた音。どうやらスズは長柄のメイスを引きずりながら追ってきているようだ。


 ウェヌスは絶望的な気分になった。スズと一緒になったとされる魔物はガルム。猟犬のような魔物で、かなり鼻が利く。アビリティを使われたら隠れていても容易く見つけてしまうかもしれない。


 鈴はわざと大きな足音を立ててウェヌスの近くを歩き回っている。恐怖を押し殺し長あら息をひそめて彼女が立ち去るのを待った。これでも匂いには気を付けている。運よくやり過ごすことができれば、この場を逃げることも可能かもしれない。


 でも、逃げるってどこへ?


 こっちに来てすぐに四正天に任命されたウェヌスには、一人で行ける場所なんて限られている。街に行っても、かくまってくれる場所なんて、思いつかなかった。


「どうしよう。どうしようどうしようどうしよう」

「ゆだねればいいんじゃない? 醜いあんたは、あんたらしくね?」


 驚いて振り向くと、無表情なスズと目が合った。


「あっあっあっあっ」

「豚ちゃん。こんなところに隠れていたのね。もう。探しちゃったよ」


 そう言って、スズは右手を大きく振りかぶった。体をひねっている間も、満面の笑顔でウェヌスを見つめていた。


「や、やめっ! た、たすけ!」

「うふふふふ。手間をかけさせてくれたお礼はしないとね。そおれ!」


 スズは遠心力を利用してメイスをウェヌスに叩きつけてきた。ウェヌスは反射的に強く目をつむった。だけど、ウェヌスを叩きつけるはずの一撃は、いつまでたってもやってこない。


 恐る恐る目を開けると、スズが半分になったメイスの柄を呆然と見つめていた。


「な、なんで?」

「何その顔? ちょっと笑えるんだけど」


 言葉を聞いた時だった。スズは一瞬にして吹き飛ばされた。迷宮の壁に貼り付けられたスズは、震えながら目を凝らす。その目に、芸能人のような銀髪の美少女がウェヌスに笑いかけていた。


「ア、アゲハ? え? なんで?」

「みっちゃんに頼まれて第2階層を探してたんだ。私、この上の階層にはまだ行けないからさ」


 アゲハは笑うと、屈伸しながら立ち上がった。彼女の周りを飛び回るトンボが目に入った。どうやらあれで、この階層を調べていたらしい。


「ほら。行くよ。お兄さんたちが待っているし。あのお高く留まった女はともかく、アキミさんもイゾウのおじいちゃんも心配している」

「ま、待ちなさい」


 ウェヌスに肩を貸すアゲハを、スズが呼び止めた。壁に寄りかかりながら立ち上がり、憎々しげな眼をしてウェヌスたちを指さした。


「お、お前は私の邪魔をするのか! そんなダサい格好の女をかばうなんて! 何を考えて!」

「ルミコがダサいって・・・。お前もそんなに変わんないじゃん。何言ってんの?」


 アゲハの指摘にスズは絶句していた。その様子を見てアゲハはいやらしく笑った。


「ああ! 自分ではルミコより上だと思っていたんだ。うふふ! なあるほどねえ。でもさ、顔は同じくらいだけど性格は雲泥の差だよね。私はルミコが人を悪く言ったのを見たことないし、私のためにがるたんも買ってきてくれたし」

「な、なにを・・・」


 瞬時に景色が切り替わる。いつの間にかウェヌスたちはスズの目の前に立っていた。驚き戸惑うスズの顔が、次の瞬間には苦痛に歪んだ。アゲハのつま先が、スズのみぞおちを貫いたのだ。


「うぐ・・おえ」

「大変だよね。醜くて性格も悪いなんてさ。でも安心していいよ。お前は私たちにもう会えない。だって、お前はここで失敗するんだろうし」


 目を見開いたスズは、両ひざをつき、そのまま頭から倒れ込んだ。口から吐き出した胃液と胃の内容物に頭から突っ込んだ感じだ。まるで土下座するように気絶したスズを、アゲハは見ることもなく歩きだす。


「ア、アゲハ・・・」

「ああ! もうめんどくさい!」


 呆然としている間に、アゲハはウェヌスを下ろした。そして迷宮の奥を睨みながら赤と青の短剣を引き抜いた。


「な、なにが?」

「お客さんよ! 面倒だけど、こいつと違って無視していい相手じゃない。身を守ることくらいはできるよね?」


 迷っている間に、迷宮の奥から一人の男が歩み寄ってきた。


「同じ四正天なのにこれほどの差があるとは。情けないと思わないか? それなのにそいつはクソだな。栄えある四正天のパーティーメンバーの一人が、手負いの子供一人を仕留められないとはね」

「私の知ったことじゃないし。知らないわよ。こいつが特段に弱かっただけじゃない?」


 軽口を言うアゲハに、かまっている場合ではなかった。


 ウェヌスは現れた男をよく知っていたし、尊敬だってしていた。少し短気で乱暴で、ちょっと近寄りがたいと言う人もいるけど、彼が四正天と言われるだけの実績を上げているのを知っている。


 ウェヌスと違って四正天と呼ばれるにふさわしい姿と、周囲を率いるだけの実力を持ったその青年の名は。


「ネプトゥ、さん」


 ウェヌスを追ってきたのは、同じ四正天のネプトゥだった。

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