表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/140

虎134話 ウェヌスの仲間と

「ウェヌス! いくよ!」


 呆然としているウェヌスを、パーティーメンバーの一人が手を引いた。


「で、でも!」

「ミホ! 少し時間を稼ぐ! あんたは、ウェヌスを!」


 斧を構えたもう一人に、ウェヌスは絶句してしまう。彼女はネプトゥと袂を分かった仲間を鋭い目を向けていく。


「あーあー。サチ。あんたもそっちに付くの? あんただってあの豚ちゃんのことを嫌ってたでしょう?」

「はっ。豚って・・・。あたしはあの子よりあんたたちのことが気に入らないだけさ。なんだよ。こんな土壇場で裏切りやがって」


 本気で抵抗しようというかつての仲間に、さすがのスズの仲間たちも動揺を隠せない。


「あ、あたしたちはウェヌスの奴が気に入らないだけで、あんたとは」

「同じだろうが! ここへ来て後ろから撃ってくるなんてさ! さあ! やってやろうってんじゃない! あたしだってオリジンを鍛えてきた! あんたたちと違ってね!」


 宣言すると同時にサチの周りから白い靄のようなものが漂い始めた。ぎょっとするかつてもぱーディーメンバーはすぐにそれに囚われてしまう。


 だけど、ほとんどの敵は健在だった。ネプトゥやそのパーティーメンバーは無傷で靄をかわしてしまった。


「お前のアビリティは、この靄に囚われたやつを惑わせるんだったよな? 一度捕まっちまえば面倒だが、こう簡単に避けられちまうんだからなぁ」

「うそ・・・。よけられた?」


 ネプトゥの斬撃を、サチは何とか躱していく。だけど、多勢に無勢・・・。奇襲が失敗した今では、抵抗することすらも難しい。


「サチ! あんた!!」

「やめろ雑魚! こんなもんにかかわってる暇はねえだろ!!」


 スズを即座に叱責したネプトゥは、いやらしい目をサチに向けてきた。


「こいつの相手は、お前の仲間がやれ。俺たちはウェヌスを追うぞ。そこの犬は俺たちと来い。お前でも匂いを辿ることくらいはできるだろう。まったく。本当に手間をかけさせてくれる。これだから女は嫌なんだ」


 サチは唇をかみしめてしまう。渾身のオリジンを使っても、捕らえたのはわずかに2人。その2人すらも、わずか20秒足らずで戦線に復帰してしまったのだ。


「サチ・・・。あんた! よくもやってくれたね!! 後悔させてやるよ! あの鈍足なウェヌスについていったことをさ!」

「何言ってんだ! あの子が今までどれだけ頑張ってきたか、あんたたちもみたただろ! それを裏切ろうってことに賛同するわけないじゃないか!」


 戦いを始めるサチの脇を、スズとネプトゥたちが余裕で通り過ぎていく。


「ま、無駄な研鑽、ご苦労様だな。あの名ばかりの四正天は、すぐに捉えてやる。あいつらを狙っているのは俺たちだけじゃねえんだからな」

「なっ! 待て! この! お前らは!!」


 ネプトゥたちを止めようとしたサチは、2人の攻撃を凌ぐので手いっぱいになってしまう。


「キコ! コノミ! このままでいいと思ってんの!!」

「あんたこそ、このままで済むと思ってんの? あのトゥルスさんを怒らせたんだ。ただで済むとは思うなよ」


 そして、3人の少女たちが戦う音だけが、あたりに響いたのだった。



◆◆◆◆



「待って! だめだ! サチが!!」

「黙ってついてきなさい! サチの気持ちを無駄にすんじゃない!」


 怒鳴りつけ、走り続けたのは、ウェヌスの最後のパーティーメンバーのミホだった。第3階層の山道を迷いもなく走り続ける彼女を、ウェヌスは涙目になって見上げてしまう。


「で、でも、逃げるって!」

「とりあえずは街の酒場に行くのよ! あそこのマスターなら何とかしてくれる!うちの会のもめごとだって納めたことがあるんだから!!」


 そうやって駆けていると、第3階層の入り口が見えてきた。ここを越えれば第2階層の迷宮で、ウェヌスたちはトゥルスたちをまくこともできるはずだけど・・・。


「!! ウェヌス!」

「え? え? え?」


 ミホはウェヌスを突き飛ばす。つんのめって倒れ込みながら何とか振り向いたウェヌスは、目撃してしまう。


 落ち葉のように吹き飛ばされるミホの姿を。


「み、ミホ!」

「あらあら。あなたごと吹き飛ばしたつもりだったのに、なかなかしぶといことね」


 ぎょっとして目を見開いてしまう。


 ウェヌスは知っていた。


 風魔法でミホを吹き飛ばしたこの人物は、同じ正同命会の仲間だった。濃紺の長い髪に、神官服。それに、長い鎖をまきつけている姿は一度見たら忘れないだろう。


 彼女は、正同命会唯一のソロプレイヤーーー浦垣麗だった。


「う、ウララさん! なんで!」

「ころあいかなと思って。そろそろ、力を削いでおかないと」


 ウララは顎に手を当てて考え込むような顔をしている。


「あ、あなたは!!」

「いいの? 追手、来ているみたいだけど」


 はっとするウェヌスが振り返ると、そこには先頭を走るスズとそれに続くネプトゥが見えた。彼女たちはすごい形相でウェヌスを指さしている。


「あ、あ、あ、あ・・・」

「ふふっつ。どうしていいかわからないのね。可愛い」


 ウララが微笑んだ。だが、その瞬間だった。風に乗せられた白い靄がウララに直撃する。倒れこそしなかったものの、ウララは後ろに下がってしまう。


「み、ミホ・・・」

「ルリコ!! 行って! 逃げるのよ!」


 ミホは荒い息を吐きながらウララのほうを見つめている。


「この人は、私が何とか抑える。だから、あんたは!! 私とサチの頑張りを、無駄にすんな!!」


 悩んだのは一瞬だった。ウェヌスは涙を流しながら、それでもそれを振り切るかのように入口の門へと駆け出していく。そして聞こえた舌打ちの音。スズとネプトゥがミホを人睨みしてウェヌスを追っていくのが見えた。


「逃げた、か。まあ仕方ないわよね。こんな状況だし。仲間を見捨てていくのも、仕方がない。でも、いいの? ガルムのあの子は、追跡だけは優れているけど」

「は、はは! あんたも、そっち側ってこと? ソロプレイヤーだか何だか知らないけど、こういう時は上の命令にしたがうのね」


 お返しとばかりの嘲笑は、風魔法で返されてしまう。まるでチリ紙のように吹き飛ばされるミホだが、すぐに立ちあがってウララを睨んだ。


「あらあら。立ち上がるの? そのまま寝てたなら、ちゃんと本部まで送ってあげたのに。その後のことは、どうなるかは分からないけど」


 ミホは唇を噛んだ。


 何とか立ち上がったとはいえ、ウララとミオには燦然とした実力差があった。四正天とはいえ、どちらかというと劣等生だったウェヌスたちと、正同命会の攻略班としてずっと活躍してきたウララ。しかも彼女は、魔物がはびこるこの塔で、たった一人で攻略を進めてきた。


 ミホたちが6人がかりでやっとたどり着いたこの第3階層にも、ただ一人で簡単に足を踏みしめてしまったのだ。


「いいわ。来てみなさい。最後に、意地を見せるのも面白いわよね」


 言った瞬間だった、ふいにウララがとびのいた。跳ねるように何度も飛びずさり、そしてミホの左側を睨んだ。


 それにあっけを取られたミホは、気づいた。それまでウララがいた場所に、矢が何本も刺さっていることを!


「な、なにが・・・」

「ふうん。魔線組は、私たちの邪魔をするんだ」


 ウララの視線の先には弓をつがえた男が一人、佇んでいた。


 塔の中にいるのに、スーツとシャツを着ている。そして柔和な笑みを浮かべながらただウララだけを見つめていた。


「これは失礼を。でも、見ていられなかったから。さすがに小さな女の子を追いつめるのは、ね」

「正同命会と魔線組は、いわば不倶戴天の敵。意味はなくなるとはいえ、今は私の邪魔をするということか」


 体に巻き付けた鎖をほどきながらウララが言い捨てた。


 魔線組の、クジョウ。魔線組切っての探索者で、ウララと同じソロプレイヤー。ただ一人で第2階層を攻略し、第3階層までたどり着いたという、魔線組を代表するような存在だ。


 不意に金属音が響いた。ウララがいつの間にか鎖を構えている。ふいに放たれたクジョウの矢を、ウララが鎖で弾いたのだ。


「あなた・・・」

「ああ、君。逃げるならD3のスポットに行きなさい。あそこで植草さんのお弟子さんを見た。正同命会に頼れないなら、植草さんに仲裁してもらうのが一番だからね」


 ぃ嬢は涼しい顔だった。ミホは緊張した顔であたりを見回すと、一目散に駆けていく。おそらく、クジョウが言った場所に向かうのだろう。


「あなた・・・。邪魔、するの?」

「ふふふふ! 君とは一度話したかったんだ。この塔を攻略する数少ないソロプレイヤーだ。仲良くしようじゃないか」


 そう言って2人は激突する。その戦闘音を背に、ミホは急いでかけていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ