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第130話 狙いはトゥルス

「つまり、なにかい? おまえさんはそのドヴェルグという男にスマホを改良させて、それを元に内なる魔物と交渉しようってんだな」

『そうだ。第1段階としてはそうしたい。都合よく材料も見つかったことだしな。連中にこれを渡す代わりに協力させる。これを渡しさえすれば奴らと信頼関係を築く足掛かりになるだろう。そのために』

『ちょっと待て!』


 レヴィアタンが、ミツとゲンイチロウの会話を大声で遮った。


『ドヴェルグは大物だぞ! あれを捕らえるためにルシファーがどれだけ骨を折ったと思っている! そんな貴重な魔物が、この世界にいるとでもいうのか!』

『ドヴェルグだけじゃない。ハトホルの奴も確認したぞ。お前は気づかなかったか? 会談の時にあったあいつらさ。それにおそらく、アヌビスやホルスも来ている可能性がある。やつらも、ルシファーに囚われたはずだからな』


 口ごもったレヴィアタンを、ミツは冷めた目で見つめていた。まるでゲームの世界に戻ったような会話に、アオは現実感をなくしてしまう。


「が、がう?」

『ああ。お前たちの世界では神話に登場するんだったな。私たちの世界ではそう言う名前の魔物がいるのだ。こちらの名前をお前たちの世界でも呼ぶようになったか、あるいはその逆かは分からんがな』


 こともなげに言うミツに、アオは何も言えなくなってしまう。


『ふざ・・・けるな。そんな、我らが世界で名の知れた魔物を、こんな出来損ないの塔で消費するなど!!』

『奴らの考えは、この塔を攻略することではない。この世界でも動ける身体を手に入れることにある。奴らにとって有用な能力とともにな。塔を攻略するかどうかなど、奴らにとってはどうでもいいのだ。そう考えれば、アヌビスやトートがこの場にいるのは何の不思議なことでもあるまい』


 歯を食いしばるようにしたレヴィアタンは、やがて力を抜いたように冷静な目でミツを見つめてきた。


『そう言うことか。会談の時に見たあの髭がドヴェルグとすると、そのそばにいた女が、ハトホル。奴らは、正同命会のトゥルスとウェヌスーー四正天とやらとともにあった。つまり、正同命会という組織は』

『おそらくな。だが、手出しは無用だ。ただ奴らを屠るだけでは何の意味もない。少なくともドヴェルグとハトホルはこちらに引き込みたい。アゲハのおかげで、あいつらとつながりを持つことができたのだからな』


 力の抜けたようなレヴィアタンは、脱力したようにミツを眺めていた。


『いいだろう。ここは貴様の塔だ。貴様の好きにするがよい。我は力を蓄える。リヴィアとハーパーたちを、少しでも使えるようにしてな。だが、お前があんまりふがいないことばかりしているのなら、その時は』

『その時は、好きに動くといいさ。お前になぞ心配されなくともうまくやる。お前の力が必要なのはその後さ。それまで、お前の部下たちを精々鍛えるといい』


 ミツの言葉に、レヴィアタンはあきれたように鼻を鳴らした。


 その反応を黙ってみていたゲンイチロウはついに口を開く。


「お前さんは気づいているんだろう? その道を行くってことは正同命会と一戦交える可能性が高いってことはよ」

『アゲハに言えば奴らをおびき出すこともできるだろう。あとは何とかやってみるさ』


 アゲハが顔をしかめたが、ゲンイチロウは静かに首を振った。


「そいつはありがたいが、まあ借りは返せるうちに返しておこうか。一応、あいつらの情報を伝えておくぜ。こっちでつかんでいる情報は教えておいたほうがいいだろう」

『ほう。さすがは魔線組。ライバルの正同命会についてはよく知っているということか』


 ゲンイチロウはにやりと笑った。


「奴らは第4階層までクリアしているからな。情報を収集するのも当然のことだろう。うちが調べたところによると、まあ、正同命会は全体的にレベルが上がっている。うまくタイミングを練らねえと爺さんでもやべぇ。特に注意なのはマルスとネプトゥだな。あいつらに邪魔されると面倒だぞ」

「やはり問題は四正天なのか」


 ゲンイチロウはユートに笑いかけると説明を続けていく。


「あいつらのパーティーの奴らはスキルレベルが相当なものに成長しているらしいぜ。なんせ、スキルレベルが同じくらいの奴が敵わねえって思ったらしいからよ。でも、それだけじゃねえ。奴らが躍進した理由は追加メンバーにあるらしい」

『ほう。マルスやネプトゥとか言う男たちだけではなくて、か?』


 意外なことを聞いて、アオは目を瞬かせた。リヴィアも意外そうな顔をしている。


「追加メンバーって・・・。確か、マルスのパーティーに新加入したのって!」

「そうだ。お前とは元友人だったらしいな。桐谷澪と藤峰冬愛。この2人によって変わったらしい。マルスの組に新加入してからはしばらく大人しかったようだが、最近はすげえ活躍だとよ」


 ゲンイチロウの報告を聞いて、アキミは呆然としてしまう。


「あの2人ですか? 確か、第2階層の野営地で魔物に襲われて逃げてましたよね?」

「ああ! あの時の! でもイフリートに追われてなかったっけ? 確か、オリジンを身に着けていない頃のユートが倒したはず。第2階層の魔物に逃げ回る程度の探索者だったろ? あの子たち。それが、いつの間にか第4階層のボスでも活躍できる実力を手にしたってのか!」


 ユートとヤマジには信じられないことだったらしい。でも、当のアキミの反応は少し違っていた。


「火器だ」


 アキミのつぶやきに、全員の視線が集まった。


「火器、ですか?」

「うん。あたしたちは、ずっとFPSで遊んでいたから。上手かったんだよ? オンラインゲームで大会に入賞したり、一人称のホラーゲームとかを簡単にクリアしたり。あたしはマシンガンとか使ってたけど、ミオは狙撃銃を使うスナイパーだったし、トアはグレネードやバズーカ砲を操って暴れ回ってた」


 イゾウは納得したように何度も頷いた。


「なるほど、な。これまで名が出てこんかったのは、扱う武器があっとらんかったからか。今は嫉妬の者たちから重火器を手にできるし、弾3階層の初攻略で重火器をドロップした可能性がある。あそこのゴーレムは、銃やバズーカを扱っておったからの」

「まじかよ・・・。重火器が出てきたのは知っちゃあいたが、火器の扱いに慣れた探索者まで出てくんのか」


 シュウが顔を歪ませていた。アキミは顔を白くしていた。


「やべえのは四正天だけじゃねえ。ソウマの剣技と格闘術のスキルは相当なもんだし、メイの鞭さばきと火魔法もやばい。おまけにあのわけわかんねえウララって女もいる。うちの探索者に負けず劣らずでおっかねえのが多いんだ」

「うええ? 四正天だけじゃないっての? 他の連中の足止めも必要じゃん! トゥルスを呼び出すのは何とかできそうだけど、それ以外がめんどくさくない?」


 吐き気を催すように言うアゲハに、全員が苦い顔をしたのだった。

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