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第13話 イゾウとコロ

 あたりには咀嚼する音だけが響いていた。


 門から少し離れた広場で食事会が開かれたのだが、みんな、アオが食べる勢いに目を丸くしている。


「おう! よく食うのう! かわりはあるぞ。たーんと食うが良い」

「がう!」


 イゾウが取り出した食材は膨大だった。


 どこからか調理器具を出したイタチ男のコロが食事を用意し、出来上がった傍からアオが食べ続けていく。その様子を、イゾウが笑いながら見ていた。最初はアオを心配そうに見ていたアキミも、その食べっぷりに安心したようだった。


「なんだか申し訳ないわ。私たちまでご相伴にあずかるなんて」

「これも縁というヤツですよ。ちょうど買い出しをする前で、今持っている食料を消費してしまおうって言ってたんです。アオくんや皆さんが楽しんでくれたのなら料理人として冥利に尽きるってものです」


 遠慮がちに言うサナに、コロが苦笑しながら答えていた。


 イゾウは太っ腹なことにアキミたちにもご飯を食べるよう言ってくれた。最初は遠慮がちなサナやサトシに対し、アキミが遠慮なく飛びついたのは言うまでもない。


「でもさ。食べて回復するなんて、アオってホントにマンガみたいな存在だよね。すっかり傷が治っちゃってるし。さっきのの影響もないみたいだし。うん。アキミさんもびっくりだ」

「アキミ! でも無事のようでほっとしたよ。俺だけ治されちゃったんじゃあ目覚めが悪いし」


 アキミとサトシの言葉に思わず自分の身を確認してしまう。


 ゴブリンレイダーによって深手を負ったはずのアオは、食べていると見る見るうちに傷が治ってしまった。食べている最中に指摘されて驚いてしまったのだけど。


「実はちょっとだけ不安だったんだ。もし治んなかったらどうしようってね。それで・・・。あ、なんか来た」


 話の途中でアキミが素早くスマホを取り出した。画面を確認すると、アオたちに向かってにやりと笑いかけた。


「逃げたあの子たち、うちの組が確保したって。憔悴しているみたいだけど、大きな怪我はないみたい」

「そっか。気になっていたんだ。最初の子みたいに門に弾かれなかったようだから大丈夫だとは思っていたけど」


 サトシもほっとしたようだった。アオも息を吐いた。少し心配だったのだ。あの逃げてきた少年たちがどうなったかを。


「門に弾かれた? そのようなことがあるのか?」

「ええ。あのゴブリンレイダーに追われていた子がいたんですけど、その一人が門から出られなかったのです。門をくぐろうとしたら吹き飛ばされてしまって。残念なことに、その子は石化して亡くなってしまって」


 サナの説明に、イゾウは顎に手を当てて考え込むと、おもむろにスマホを取り出した。


「先生?」

「ちょっと気になることがあっての。少し荷物を取り出すぞ」


 言うと同時に、突如として何もない空間から何かが現れた。


「が、がう?」

「あ、これスマホの機能の一つ。こうやって荷物を取り出したり収納することができるんだ。スマホの操作一つで荷物を携帯できるなんて便利だよねー。拡張すれば容量も増やせるし。生ものとかを長期間保存できるし」


 すぐに解説してくれるアキミに、アオは感心してしまう。そして改めてイゾウが取り出した道具を見た。


 それは、身の丈くらいもある、大きな片刃の大剣だった。


「これはさっきの?!」

「うむ。あのゴブリンレイダーなる魔物が落とした武具だな。念のため拾っておいたが、もしかしたらこれのせいかもと思うての」


 不思議な気配がする道具だった。アオにはこの大剣が黄色いオーラを放っているように思えた。


「ねえ。ちょっと触ってみてもいい?」

「ん? ああ。良いぞ」


 イゾウの許可を得て、アキミが大剣を隅々まで点検し出した。


「これ。たぶん魔道具だね」

「特殊な効果を持つというあれですか。いろいろあるって噂ですよね。僕たちはこれ以外にもいくつか手に入れました。使い方とかはさっぱりですけど」


 アキミはコロのほうを見てにぃと笑った。


「やっぱりコロさんたちは色々見つけてるんだね。あたしたちも見つけたよ。第2階層の宝箱で」

「アキミ、貴重な情報を・・・・。しょうがないか。俺たちは火の玉を出せる二股の槍を見つけたんです。物自体は納品しちゃいましたけど。ちょっと重すぎて俺には使えそうになかったし」


 あきらめたように言うサトシの顔を、イゾウが覗き込んだ。


「お主らはあれの使い方がわかったのか?」

「ふふふん。このアキミさんにかかればちょちょいのちょいよ」


 アキミはおもむろに立ち上がると、その大剣を地面に突き刺した。地面からエネルギーのようなものが大剣に流れ込んでいく。そして大剣の柄の一部を指ではじくと、大剣から黄色い波動のようなものが溢れ出た。


「これは!」

「やっぱ、第一階層は魔力がすごく吸えるよね。この大剣、地面からエネルギーを吸い取れるみたいなのよね。で、ここにある一定の力を籠めれば刃からエネルギーを出せるってわけ。あたしの見たところによると、あの子が石化しちゃったのはこのエネルギーのせい。この大剣が石化の魔障の元なんだよ」


 またわからない単語が出てきた。困惑するアオに対し、全員が納得したような顔になる。


「が、がう?」

「魔障って言うのは何というかな。オーラというか、毒みたいなもんさ。魔物の中には魔障を纏って攻撃する奴もいて、これがまた厄介で。攻撃を阻害したり体調を悪くしたりもする」

「でもアキミの水魔法を吹き飛ばすほどって、相当に濃い魔障ってことね。確かあなた、第3階層の魔物から追った傷も癒してたはずよね? だとしたら相当に強力な道具ってことね」


 アキミは再度大剣に視線を戻した。アオも他のメンバーも興味深そうな目でそれを眺めていた。


「斬るときに意識すると相手に魔障を与えられるのかな? 武器としても優れているみたいだけど。外からわかるのはここまで。もしかしたらこれを媒介にすれば土魔法も使えるかもね。ま、今k来のことしか分かんないけどね」

「そうか、このタイミングでここに魔力を籠めれば・・・。身体強化を応用すれば、ピンポイントに力を籠めることも難しくなさそうですね。いや助かりました! 」


 実際にエネルギーを出してみはコロは、何度も頭を下げた。


「僕は土魔法の適性がないのですが、これを使えば石化攻撃とかできそうですね。土魔法を操れそうなのも面白い! 先生。僕がこれを使ってみてもいいでしょうか」

「お主ならこの大剣を使いこなすことも難しくないだろう。やってみるがいい」


 コロは鼻歌交じりに大剣を手に取った。


「本当にありがとうございます。僕たちだけではこの大剣の効果が分からないところでした」

「ま、あたしのアビリティみたいな感じだし。魔道具の使い方なら他にもわかるよ。ただし! 次からは有料でね!」

「そうですね。今回は助けてもらったこととこのおいしいお食事のお礼ということで。あんまりアキミの力を使われるのはちょっとあれですし」


 サナが釘を刺したが、アオはイゾウの目が光ったことに気づいた。もしかしたらイゾウはアキミにいろいろ依頼するつもりなのかもしれない。


 それにしても、少年を傷つけてしまったかもしれない武器か。みんなそのことに気づいていながらも、あの大剣を使うつもりのようだ。どこか釈然としない思いが残ったアオだったが、アキミがぽんとアオの肩を叩いた。


「みんな納得しているわけじゃないよ。あの子が、探索者が死んじゃったことに何も感じてないわけじゃない。でもみんな、慣れているからね」

「そうだね。自分よりも若い人がなくなるのはやっぱりつらいさ。知っている? ここで死んでも残るものはない。ただ、これがあるだけさ」


 サトシが胸ポケットから出したのは、壊れたスマホだった。


「これさ。俺の親友が持っていた物なんだ。俺と違って底抜けに明るいやつでね。映画が好きで、あの展開はべただとか感想を言い合ったもんさ。こっちに来たことは残念だったけど、あいつにまた会えたのは幸運だと思った。あいつはアビリティにも恵まれていて、あっという間に仲間も作って、塔を攻略するのはこういうやつなんだって思ったよ。でも」


 歯を食いしばったサトシを、黙ってみることしかできない。


「あいつは。死んでしまった。このスマホだけを残してね。第2階層のボスと戦った時だった。あいつはミノタウロスにも勇敢に戦った。だけど、仲間が失敗して総崩れで、最後に俺たちに逃げろって言って」

「サトシ・・・」


 アキミから気遣うような声が漏れた。


「元の仲間はさ、それで心が折れちゃった奴も多くて。いまだにスラムでくすぶってるのもいる。俺たちはミノタウロスを倒したんだけど、そのことを報告してもだめだった。時々話をしに行くけど、もう一度戦おうってやつは少ないんだ」

「サトシがよくスラムに行ってたのは知ってたけど、そう言う事情があったのね。あ、スラムってのは街の隅っこにある区画で、崩れそうなぼろぼろの住居が目立つとこなんだ。戦えなくなったり働けない人はそこで暮らしている。私たち魔線組や、あの正同命会正の炊き出しで命をつないでいる。あの人たちも自分の力できちんと生活できるようになってほしいんだけどね」


 スラムと聞いてなんとなくあの黒い少女のことを思い出した。


「保護された奴らってのは中立派に属する探索者だろ? しかも鎧の少年は、たぶん第5形態の。主力のメンバーを亡くしてもう一度再起するってのは難しいかもしれないね」

「うん。6人組だったけど半分になっちゃったって。この後、立ち直ってくれるといいけど、難しいんだろうなぁ。オミさんが何とかしてくれるといいけど」


 彼らのこれからを想像し、暗い気持ちになったアオだった。

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