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第虎127話 強気な天族

『持てる知識で他人を救う? 偽善ぶったことばかり言うのね。私たちの頭脳は他人なんかのためにあるんじゃない。むしろ愚民どもを私たちの役に立たせる方策を考えるべきでしょう。あなたは天から与えられた才能を無駄にしている』

「な、何を言っているんです! まるで自分が他の人よりも貴重みたいに言うなんて! みんながいるからこそ自分がある! そのことがわからないのですか!」


 ケイと銀髪の天族が言い合っている。アオにはどことなくケイが押されているように感じられた。銀色に輝く6枚の翼を生やしたその天族が自信に満ち溢れているからそう思うのかもしれない。


「やめろ! ケイをお前と一緒にするんじゃない! ケイがいつもみんなのために頑張ってくれていることは知っている! 決して自分だけのことを考えているわけじゃないんだ!」


 思わず言い返したアオだった。銀髪の天族はアオを見ていやらしく笑った。アオを見て見下しきっているのは気のせいではないと思う。


『ふん。ケルベロスの下僕か。なるほど。頭が悪そうな顔をしている。ケルベロスと相性がいいだけの小物ではないか。現にお前は創造の力などつかえぬのだろう。忌々しいこの女のように、個人個人に合わせた肉体を作ることもままならぬ。模倣するスペシャルも持たぬ、身体強化しか使えぬ愚か者ではないか。語るにも値しない』

「あなたは! 才能があることだけが真の価値だと思っているのですか! 人間の価値はそんなものでは決まらない! 彼のやさしさに癒されたのはケルベロスやパメラだけじゃない! 私だって!」


 ケイがかばってくれているが、銀髪の天族の嘲笑は止まらない。ますます見下した目でアオを嘲笑っている。


『ああ、そうか。お前はこいつを見て安心しているのだな。分かるぞ。頭の悪いこの男を見れば違いは明らかだ。自分より劣ったこの男は、お前にとって安定剤というわけだ』

「!!! あなたは!」


 激高するケイに、嘲笑をやめない天族。アオは歯を食いしばった。自分が余計な口出しをしたせいで、ケイは自分の中の魔物と完全に決別してしまうかもしれない。


『お前たちは私に決して手出しはできぬ。私の魂を砕くことはその女の消滅につながってしまう。そのことは頭の悪いお前たちにも理解できるだろう? ははははは! ここに私を連れてきたのは痛恨だったようだな! 私を懐柔しようなんて無駄だ! お前らごとき頭の悪いやつに!』

『醜いのう』


 声がした。はっとして周りを見渡すと、少し離れた場所に一人の老人が佇んでいた。狒々のような顔をして、ぼろのような古い服を着ていたが姿勢は正しく、なぜか高い知性を感じさせた。


『いや、本当に醜い。まるで自分がこの世で最も優れた者のようではないか。天上から見ればケルベロスの契約者も我らも50歩100歩よ。我らはただ、考え検討するのが好きなだけに過ぎぬのにな』 

『!!! やっと姿を現したな! トート!』


 銀髪の天族はアオたちを無視してその老人に詰め寄った。


『あんたを探していたんだ! あんたの力を手にする機会を、ずっと待っていた! だから私はこの計画に乗って!』

『ふん。我の頭脳を手にしてもお前は変わらんよ。周りの者を下らぬと見下す、その考えがある限りな。お前が詰まらぬと決めつけたことにこそヒントは隠されている。それを正さぬ限り、どんな頭脳を手に入れたとしても宝の持ち腐れよ』


 激高し、唾を飛ばしながら言い募る銀髪の天族を、その魔族は簡単にあしらて見せた。あの狒々のような魔族が天族を圧倒しているのだけは理解できた。


「アオくん」


 呼びかけられて振り向くと、そこには微笑みを絶やさないケイの姿があった。


「ありがとう。私をかばうために、こっちに来てくれたんだね」

「いやあの、その・・・。余計なことを、してしまったようで」


 申し訳なく思うアオだった。でもケイは、そんなアオに首を振ってみせた。


「ううん。私では彼女の気持ちは変えられなかったと思う。私の言葉は彼女には届かない。私たちはあまりに似ていて、しかも彼女のほうが先を行っていそうだったからね。でも・・・」


 ケイは視線を横に向けた。ケイの視線を追うと、あの銀髪の天族と狒々のような男が言い争っていた。正直、アオにはなんの話をしているのかはわからない。いつの間にか話が飛躍して、専門知識を自慢しているような感じだった。魔法構築や合成する術など理解できる単語もあるが、細かいことは全然だった。


「ケイは、あの人たちが言っていることが分かんの?」

「少しはね。私にも理解できないことは多いけど、でもあの銀髪の子が押されているのは分かるわ。あの子も相当だけど、あの老人は桁が違う。勝負は目に見えているのよ」


 アオは何ともなしにそちらを見た。相変わらず難しい言葉を使いながら言い争っている2人だけど、勝負は明らかに見えた。焦って早口になる銀髪の天族に対し、狒々の老人は余裕で答えている。


「あれなら」

『君のような奴を偽善者というのさ』


 聞えてきた声に、アオの言葉は遮られた。そこにはアキラがいて、子供のような少年の魔族に詰問されていたのだ。


「アキラくんが」

「大丈夫だよ。シユウさんがあっちに向かっていった」


 アオの言葉の通りだった。言い争うアキラたちに、シュウが仲裁を買って出たようだ。3人は何か話し合っているようで、子供の魔族の勢いが失われていった。


「シュウさんはさ。ああ見えて本当に頼りになるんだ。壁だと思っていたこともいつの間にか乗り越えてくれて。だから今回も、きっとアキラの力になるに違いないんだ。俺たちはあの人の邪魔にならないようにしていればいい」


 微笑みながら言うアオに、ケイもまた笑いかけた。


「アオくんは、本当にシュウさんのことを信じているのね。ううん。シユウさんだけじゃない。アキミさんもイゾウさんも、ユートくんたちのこともみんな。純粋にみんなを応援できる君のこと、なんだか羨ましくなるな」

「ケイだってそうじゃん。アシェリさんやパメラさんのこと、ずっと信じている。そう言う友達がいること、実はちょっとうらやましく思っているんだぜ」


 そう笑うと、アオはアキラたちに視線を戻した。少年魔族の勢いはみるみるなくなり、次第に言いくるめられていく様子が見えた。ケイの魔物たちが言い合う声をバックボーンに、アオたちはみんなの様子を眺めたのだった。



◆◆◆◆



『君のような奴を偽善者というのさ』


 アキラは唇を引き結んだ。アキラの中の魔族――少年のようなスクナヒコナを言葉の限り説得しようとしたが、そう言って拒絶されてしまった。


『僕はずっと君のことを見てきた。一見して仲間思いな行動をしているようだが、本当は違うんだろう? 哀れだったんだよ。リクのことが。そして利用した。君自身の優越感を満たすためにね。本当は、リクに友情を感じていたわけじゃないんだろう? 哀れな彼を救うことで、君自身が優位に立とうと考えたんじゃないか』


 スクナヒコナの言葉はある意味真実で、アキラは言い返せずに黙ってしまう。一面だけを見れば、リクをかばうことで自分自身を上げていたことも真実だろう。


「なんだよ。らしくねえじゃねえか。いつもなら文句を言おうもんなら何倍にもなって返ってくるのによ」

「シュウさん・・・」


 自信がなさそうに答えるアキラに、シュウは苦笑しながら答えた。


「あんまり気にすんなよ。俺はリクの奴とは一緒に修行する仲でな。よく話しているんだけど、お前たちのことをよく言っているぜ。自分がこうしていられるのはお前たちのおかげってな」

「え・・・。あ、ああ。そういやそうでしたね」


 困惑するアキラに笑いかけると、シュウはスクナヒコナに向きなおった。


「問題はむしろお前だろう。アキラを否定しようってんだろうが、お前、随分と狭量なことだな」

「ふん! 僕は知っているぞ。あのリクという男を助ける中でこいつがどう思っていたかをな。僕はこいつの中にいたんだから当然さ。優越感まみれのこいつの心の、醜いことときたら」


 シュウはスクナヒコナを鼻で笑った。


「はっ! 優越感ね。たしかに、落ち込んでいる仲間を助けるときは優越感もあったかもしれねえ。でもそれだけじゃねえだろう?」


 上目づかいで睨みつけるスクナヒコナに、シュウは語り掛けた。


「だいたいなぁ! 励ます時に優越感を感じるなんて自然なことじゃねえか。だからって、おめえは相手のことを責めるのか? 自分が助けられたことを無視して? 1%でも優越感があればそれは恩じゃねえってか? おめえ、随分と偉いんだな」

「励まされるほうだって意地がある! 相手の優越感のために利用されるなんて最悪じゃないか!」


 スクナヒコナは反論するが、シュウの攻勢は変わらない。


「要はよ、相手次第なんだ。俺はリクの奴とは同じ修行をしていたからな。分かんだよ。リクの奴はアキラや仲間たちが見捨てずにいてくれたことを感謝していたぜ。信頼している友人から助けられて、実際に助かった。ならいいじゃねえか。他人がどうこう言う問題じゃねえ」


 歯を食いしばるスクナヒコナに、シュウは自嘲気味に笑った。


「俺みたいに、信頼関係のないままに見当違いな助言をするのはあれだけどよ。リクとアキラたちには強い信頼関係がある。リクに聞いてみな。あいつ、アキラたちに優越感があるとかは考えてもないだろうからよ。問題はアキラじゃねえ。お前さんなんだよ。俺たちが合成されちまったのは残念だが紛れもない事実だ。そこからどうするかはお前次第さ。すねたように反発したままか」

「ふざけんなよ! じゃあ従えってのか!? お前たちが生きていくための部品のようになれと! そんなの、認められるわけがないじゃないか!」


 スクナヒコナとシュウが言い争う声が響いた。


「いや、俺とスクナヒコナの言い合いだったんだけど・・・・。まいったな」


 アキラは頭を掻いたが、その表情は照れたように笑ったままだった。


 こうして魔物たちとの邂逅は、ほとんどが何も得られないまま終わってしまったのだった。

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