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第124話 思いの変化

 午前の訓練を終え、食堂に行った時のことだった。


「昨日の残りでよかったらこれもありますよ」

「やった! コロさんの料理はどれもおいしいから好き!」

「もうコロさん! あんまりアゲハを甘やかせないでください!」


 アオがシュウとアキミと3人で会議室に行くと、アゲハが食事を取っていた。コロがいそいそと料理を出し、アゲハがそれを平らげ、それをフジノが咎めるという感じだ。


「大将。えっと、まだ飯の時間にはだいぶん早いよな? 俺たちは昼飯までゆっくりするつもりだったんだがよ」

「アゲハさんが朝食を食べ忘れたんですよ。昨日の残り物があったので、それを温め直しているんです」


 コロがにっこり笑って答えた。


 傍若無人に見えるアゲハだが、コロからの受けはいい。小さいながらもモリモリ食べる姿が魅力のようで、喜んで世話をしている。イゾウも会うたびに飴なんかをあげたりしているし、彼女は短い時間でこのアパートになじんでいる。


「もう! コロさんもすっかり篭絡されちゃって! そんなだからこの子も引きこもりっぱなしになるんですよ」

「まあまあ。アゲハさんはまだ小さいですし。先生もよい好敵手ができたって喜んでましたよ。フジノさんも、修行ではこの子のお世話になることが多いのでは?」


 フジノは思わず口ごもった。


 とてもいやそうではあるが、アゲハも修行に参加してくれている。短い時間だけど、弱点を的確にいい当ててくれるのだ。そのおかげでサトシなんかは身体強化のオリジンが一段うまくなったりしている。


「訓練っていやあ、ユートたちは相変わらずか?」

「ええ。みんな休みがちですね。反対にリク君なんかは取り付かれたように一心不乱に修行していて、それはそれで心配なんですけど」


 タクミが倒れ、エイタが意識を取り戻さない今、ユートたちの動揺はいまだに収まっていない。塞ぎ込みがちな彼らに、イゾウは気持ちが落ち着くまでゆっくりと休むことを提案した。怪我の癒えたゲンイチロウやノドカたち元フェイルーンがオリジンを鍛える一方で、彼らとは顔を合わさない日が続いている。


「やっぱりいつもつるんでた友達がいなくなるとへこむよね。あたしもそうだったなぁ。意味もなくぼおっとしたり泣きそうになったりして。結局時間が解決するしかないって、サトシも言ってたよ」

「あんまり関係ないのに引きこもっちゃう人もいるけどね。医者だのなんだの言っても何にもできないのは変わりないのにさ」


 辛辣なことを言うアゲハにアオはぎょっとしてしまう。


 確かにケイは、タクミの一件以来研究にのめり込みすぎているように見える。エイタの様子を見たりはしているがそれ以外はめっきり姿を見なくなっている。日記も滞りがちで、アオは仕方ないと思いつつも寂しく感じているのだけど。


「アゲハ! ケイ先生はそんなことない! 引きこもっているんじゃなくて研究してるんでしょ! あの毒を治療できるようにするためにさ! エイタさんのことだって何とかしようとしているんだから!」


 思わず叱り返すフジノだったが、アゲハはそっぽを向いてしまう。その様子に怒りを覚えたのか、フジノが息を吸い込んだ。


 だがその時、食堂の扉が勢いよく開かれた。


「アオ!!」


 アキラはアオを見ると一直線に駆け込んできた。いつもは比較的冷静な彼に詰め寄られ、思わずアオは下がってしまう。


「落ち着けって! アオが困っているだろう?」

「シュウさんは会ったことがあるんですよね? シュウさんの中の、魔族と天族に! 俺も、会ってみたいんです! もしかしたら、エイタを起こすヒントがもらえるかもしれない!!」


 アキラに肩を揺らされ、アオは目を丸くしてしまった。



◆◆◆◆



「何度も思い返すんだ。タクミの奴が、死んじまった時のことをさ。本当に、悪夢のようだったよ。いまだに信じられないんだ。いつも一緒にいたあいつがいないことが」

「アキラ・・・」


 淡々と話すアキラに、アキミは気づかわし気だった。


「毎夜のようにうなされてたけど、一つ気になるところがあったんだ。あの時、確かに聞いたんだ。エンコウが、あの泥をすぐに落とすようにって言っていた。フィムルスよりも先にな。俺にはただの泥にしか見えなかったけど、エンコウには、あの泥が毒だったのが分かったのかもしれない」

「あの泥がまずいっていうのが魔物の中では常識だったかもってことね」


 納得しながら言うアキミに、アキラが頷いた。


「タクミが最後に使ったアビリティもそうなんだ。あいつの包帯って、俺たちの中では使えない能力の筆頭だったんだよ。包んだ対象を状態異常から守るって効果だけど、本人は拘束されちまうし、包帯の維持時間はすごく短い。でも、最後に使ったあれのおかげでエイタは今でも命を長らえている。俺たちは安易に使えないって思ったけど、それが間違いだったんじゃないかって」

「そうだな。あれから何日も経つけど、あの包帯は今も健在だ。ケイが言うには、あれには毒を抑える効果があって、そのおかげでエイタは今でも生きているらしいな」


 タクミは死んでしまったが、エイタはまだ命がある。包帯を解除し、侵された毒を取り除けば元のように動けるらしい。その方法を探してケイは必死で研究している。


 結果は、芳しいものではないようだが。


「たぶん、あの包帯が今でも効果を上げているのは、タクミの力だけじゃない。最後のあのアビリティは、あいつの中の魔族が力を貸してくれたんだと思う。恐怖の対象の魔族でも最後に力を貸してくれる奴もいる。アキミの中のピクシーが例外ってわけじゃないんだ。だったら」

「エンコウを見ていたらあれだが、エスタリスみたいにこっちに力を貸してくれる魔族もいるかもしれねえってか」


 そう説明すると、アキラは深々と頭を下げた。


「アオ。いや、アオの中のケルベロス。どうか、頼む。俺の中の魔物と合わせてくれ。俺も修行したけど、リクみたいに魔力で動物を作ることなんてできない。あんたの力が必要なんだ。俺の中の魔族に、協力を頼みたいんだ!」

「が、がう?」


 いきなり土下座してきたアキラに戸惑っていると、アオの口が勝手に開いた。


『くくくく。まさかお前たちのほうから中の魔物に会いたいと言い出すとはな』

「ククククって。みっちゃん、ちょっとお兄さんに毒されすぎじゃない? そういうの、中二病っていうんだよ?」


 アオの中のミツが答えたのだ。茶化すようなことを言うアゲハを無視してミツは語りだした。


『お前たちにオリジンを身に着けさせたのは中の魔物に負けないようにとの配慮だったが、自分から魔物に会いたいというとはな。お前たちには魔物を使役する才能がない者も多いのにな』

「シュウさんやアキミに聞いて知ってんだよ。あんたがアオの世界に俺たちの魂を呼べることはな。俺たちは自分じゃ中の魔物とコンタクトを取ることはできない。あんたに頼るしかないんだ」


 真剣な目で見つめてくるアキラに、アオの中のミツは何かを考えるそぶりをした。


「が、がう?」

『ふむ。お前の魂をアオの世界に呼ぶことはできないでもないが、面倒だな。いいだろう。ただし、お前だけではない。お前たち全員を、中の魔物と合わせてやろうではないか。だが、後悔するなよ。お前たちが合成された魔物は個性的で、ただで協力してもらえるとは思わんことだ。特にあの害鳥どもは体を乗っ取ろうとしていることを忘れるなよ』


 不敵に笑うアオに、アキラはほっとしたように笑いかけた。


「俺たちの中の魔物が一筋縄ではいかないことは、エンコウを見てりゃわかるさ。でも、話してみないとどんなヤツかなんてわからないだろ? それが友人を助けるのにつながるのなら、どんなことでも頑張ってやるさ」


 決意を込めて笑うアキラが、アオにはまぶしく映るのだった。

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