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第123話 幕間4

 あのオフィスで、Lとサングラスはブラックアウトしたモニターを眺めていた。


 入口の前にあるモニターはそれぞれが探索者のデータを示している。それで暴食の塔にいる探索者たちを管理しているのだ。普段はバイタルや魔力などの状態が記されているが、それが消えたということは・・・。


「一年間生き残ったからもうすこしがんばってほしかったですが、・・・。やるせないことです」

「意外だね。君はてっきりイオフィル様の派閥にいると思ったのに。消えた彼に憑いていたのは確か、第7師団にいた軍人だったよね?」


 サングラス・・・天族のアクリスは、疲れたような顔でLに振り返った。


「なんか毎日データを見ていると愛着が沸いちゃって。数字が上下するだけですが、生きているって実感があったんですよ。同族ってこともあって所属に関係なく消えてしまったら悲しいです」

「見かけによらず感傷的だなぁ。まあ、気持ちは分かるけどね」


 そう言うと、Lは自分のパソコンを操作した。


「消えたのは、サクリス。えっと、マミーと合成された人間に憑いた第7師団の中年ですね。はあ、あの失敗でこんな実験に参加することになって。なんだかやるせないなぁ」

「失敗も何も、作戦自体が無理があったからなぁ。旧王家の派閥争いに巻き込まれたらしいから本当に運がないですよね」


 Lは画面を見ながらつぶやいた。


「えっと、探索者の名前はタクミ、か。浸食率はここしばらく上がっていない。まあ、あのケルベロスの派閥に居たのだから当然だね」

「相手は〈嫉妬の塔〉から流れてきたリュムナデスですね。こちらでは取るに足りない相手でしたが、向こうに行って力を高めた一体です。自力で向こうに適応しただけでなく、能力が格段に上がったとか。沼地でけそけそと生きるセコい魔族だったはずなんですけど」


 嫌そうに画面を見るアクリスだった。


「異世界というヤツは本当に読めない。特に嫉妬の魔物はこの世界に適応できた種が多いんだよね。リュムナデス以外にも。なんかめんどいというか、やな感じだよね。探索者も魔物も、いろんなのが僕らの暴食に来ているらしいじゃない。さらに・・・」

「!! ルディガー様」


 呼び止められて、銀髪は手を止めた。足音が聞えた。何かの集団がこの部屋に近づいてくるのだ。


 足音は部屋の前で止まると、ノックもせずに扉が開かれた。そして先頭を歩く人物を見て、ルディガーとアクリスは立ち上がって姿勢を正した。


「イオフィル様。よくお越しくださいました」

「ふん。獣眼のアクリスか。忌々しい獣憑きが、我らの崇高な計画にかかわっているとはな」


 罵られたサングラスだが、それでも直立して頭を下げた。男は汚い者でも見るかのような顔になったが、返事もせずにモニターを覗き込んだ。


 若い男だった。人間で言うと、20代くらいだろうか。整った顔立ちをしているが、その表情は醜く歪んでいる。緊張している様子のアクリスに対し、L――ルディガーはどこか冷めた表情をしている。


「報告します。昨日11606、ケルベロスについた探索者の死亡が確認されました。リュムナデスの毒を中和できず、そのまま亡くなってしまったようです。彼に憑いていた同胞も」

「ふうん。私の邪魔をするあの下等生物についた軍人だな。忌々しい。やっと一人消えたのか」


 いやらしく笑うイオフィルに、ルディガーもアクリスは何も言わなかった。仲間の死を無視された形のアクリスは歯を食いしばっていたが、拳を握り締めるだけだった。


「まあ、〈暴食の塔〉には誰も何も期待していない。所詮は寄せ集めしかいない、失敗が決まったような塔さ。数も少ないし、大した人間もいないのだろう? あれさえうまくいけばそれで結果は果たしたことになる。パンテラの間抜けは簡単に殺され経ったけどね。ふん。まあケルベロスなど」

「イオフィル様」


 いつまでも続きそうになったイオフィルの小言を、彼の側近の一人が遮った。


 目つきの悪い、30代くらいの男だった。背中から生えている羽は純白で、3対もあることから相当に優れた人物なのだろう。


 彼の言葉に、いつも飄々としているルディガーの目が鋭く光ったようにアクリスには思えた。


「〈暴食の塔〉の現状は把握できました。もうよいのでは? 私たちには次の準備がありますゆえ」

「ふん。そうだな。こんなところで油を売っている時間はない。何しろ、私たちには次がある。今は特に時間がもったいないのでね」


 イオフィルは偉そうに息を吐くと、そのまま部屋を出ていった。アクリスはほっとしそうになるが、最後に鋭い声が聞えてきた。


「敗残処理の〈暴食の塔〉とはいえ何も得るものがないのは困ります。あなたたちも自分の役割をきっちり果たしてくれることを期待しますよ」


 最後に厳しく言われ、アクリスは再び姿勢を正したのだった。



◆◆◆◆



「緊張しましたね。今になって汗が噴き出てきましたよ」

「まあ、相手は腐っても旧王家の人間。万が一のことがあると面倒だからねぇ」


 安堵するアクリスに対し、ルディガーの目はどこか冷めているように思えた。


「あの、ルディガー先輩?」

「実際のところイオフィル様は大したことはない。血筋は尊く魔力量も多いが本人にすさまじい実力があるわけではないからね。能力も血統も優れたルシファー様の足元にも及ばないさ。今回の件だって、あの人は無魔の世界で八つ当たりしていただけ。それがたまたま成果につながってでかい顔をしているに過ぎないさ」


 ルディガーはそのままパソコンを操作し続けた。


「問題は、彼の側近を名乗るあの男さ。僕と同じ、6つの翼を持つ天族のウェール。『落とし込み』に加え、もう一つの能力を持つ、恐るべき天族さ。ルシファー様に匹敵する実力者とも呼ばれているからね。君も聞いたことがあるんじゃない?」


 パソコンの画面にはウンビラの経歴や属性が事細かに記されていた。


「ええ。彼のことは聞いています。なんでも、魔族と人間を合成させてあの世界に会う身体を作り出したのは彼の功績とか。正直、イオフィル様よりもよっぽど恐ろしい相手ですよ」


 ルディガーは考え込むような表情になった。


「先輩?」

「いや、ケルベロスはどこまで気づいているかなと思ってね。彼女の障害は大きい。〈暴食の塔〉の魔物に加え、探索者同士の争いもある。おまけに彼女の仲間を襲った〈嫉妬の塔〉の魔物も相手しなければならない。前途多難だよね」


 低く笑うルディガーに、アクリスは苦笑した。


「何を他人事のように。〈暴食の塔〉に〈嫉妬の塔〉の魔物が来るようになったのは半分あなたのせいじゃないですか」

「でも、これでケルベロスは追い詰められた。正直、どうかと思っていたんだよね。今の状況はさ。ケルベロスの一派はどこか安心していた。おそらくだけど、アビリティやスキルに頼らずに戦える術を手にしたからね。でも、もうのほほんとはしていられない。彼女の仲間を倒すだけの強敵が、現れたんだからね」


 朗らかに微笑むルディガーを、あきれた顔で眺めるアクリスだった。


「楽しみだなぁ。〈嫉妬の魔物〉にどれだけケルベロスが対処するか。おそらく彼女が出張ればあの魔物は倒せるけど、あいつは狡猾だからね。どのように敵を見つけ、どのように対処するのか。何しろケルベロスはまだ、あいつの毒に手も足も出ない状況なんだからね」


 低く笑うルディガーを、止める者は誰もいなかった。

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