第122話 平和の終わり
「なかなかないねー」
アキミが疲れたように地面を蹴った。
戻ってすぐのことだった。本格的に拠点へのワープポイントを探そうという話になり、アキミやサナたちが第3階層を探しに行くことになったのだ。最初はアキミたち魔線組の3人だけで探しに行く予定だったが探索の精度を上げるためにアオも同行を申し出た。
正直、かなり疲労が溜まっていたが、さすがにアキミたちだけで行かせるわけにはいかない。拠点の守りはイゾウやアゲハに任せてアオが同行することになったのだけど。
「えっと・・・。なんか引っかかるってこの辺か?」
「なーんか、変なんだよね。前に来たとき引っかかるものがあったんだ。あの時は、調べていてもなんもなかったし、今も何にも見つかんないんだけど」
アキミがきょろきょろと周りを見ながら言った。第3階層にある熱帯雨林で、一行の中で一番勘が効くアキミが怪しいと言った場所なのだが、一行はいまだに成果を上げていなかった。
「ここにないとすると、やっぱり奥の火山にあるんじゃねえのかな。隠し部屋にはなんも見つかんなかったしよ」
「川とか他の場所はユートたちが探してるからね。それに見た感じ、あそこには怪しいとこはなかったんだよね。ワープポイントがあるならここだと思うんだけど」
アキミがああでもないこうでもないとあたりを探していた時だった。
「がう?」
どうしても気になる場所があったのだ。何の変哲もないし、アキミがスルーしたような草むらだけど、なぜかアオの気を引いていた。
「アオ? どうした? なんか気になるとこでもあった?」
サトシに聞かれ、アオはその場所を指さした。シュウも近づいて来てくれて目を凝らすが、彼らには何もわからないようだった。
「気になるところはないように思えるけどよ。 アキミ! ちょっと来てくれ!」
「えー。あたし、集中してんだけど?」
アキミがぶつくさと文句を言いながら近寄ってきた。そしていぶかし気にシュウやアオを睨むと、溜息を吐きながらアオが示した場所を調べ出した。
最初は文句たらたらで調べていたアキミだが、その表情は少しずつ真剣未を帯びていく。険しい目で草むらに手を突っ込むと、やがて興奮した様子でアオたちを振り返った。
「すごい! ビンゴだ! ここ、魔法陣があるよ! 多分、アパートの入り口にあるのと同じやつ! あたしが見たときは何にもなかったのに!」
「もしかしたらアパートの所有者が来ないと分からない仕組みになっていたのかもね。今はアオとアキミの2人が揃っているし。ユートたちには無駄足を踏ませたかもだけどね」
サトシが顎に手を当てて考えていた。そのタイミングで、アキミとサナのスマホが鳴り出した。
「あ。パメラからだ。にしし。いいタイミング。入口が見つかったって言うとびっくりするよ。・・・え!?」
「ユート君たちが怪我をして運び込まれた? 第3階層でもあの子たちならなんとかなるはずよ!? 魔線組や正同命会の奇襲で設けたってこと?」
スマホを見たアキミとサナがほとんど同時に驚きの声を上げた。アオが戸惑いながらきょろきょろする中、サトシが事情を説明してくれた。
「どうやらこの階層に現れた魔物に攻撃されたらしい。俺たちが知らない魔物が現れたのか? 嫌な感じがするな。とりあえず、俺たちもこれを使って戻ろう。最初からその予定ではあったんだから」
サトシの言葉に、アキミは真剣な顔をして魔法陣を作動させるのだった。
◆◆◆◆
魔法陣が作動すると、そこはいつものアパートだった。どうやら正解を引いたらしく、第3階層からもこの拠点に来られるようになったらしい。
「皆様。おかえりなさいませ」
「ナナイ! ユートたちは無事なのか?」
シュウが恭しくお辞儀するナナイに問い詰めた。
「エイタ様とタクミ様が運ばれ、ただいまケイ様が処置をしています。どうやら毒を受けたらしく、治療中なのです」
シュウは走り出した。アオたちもその後へ続く。
探索者の身体はかなり強靭だった。深手を負っても簡単には死なないし、回復スキルで傷を癒すこともできる。ましてやケイのオリジンがあるし、相当に深い傷でもなんとかなると思うのだけど。
アオは嫌な予感が止められなかった。
「処置されているのは4号室だな! よし! 俺たちも!」
シュウが走りながら叫んだ、その時だった。
「いやあああああああああああああ!!!」
「うそ・・。だろう? なんで! なんで!」
「う、うわああああああ! そんな! そんな!」
パメラの悲鳴とユートとヤマジの嘆きが聞こえてきた。4号室の前まで来たアオたちは、思わず立ち止まってしまう。
部屋に近づいた瞬間、静かに扉が開かれた。ケイがそっと、4号室から出てきたのだ。その表情は暗く、何かをこらえているようだ。
「が、がう?」
アオが思わず声を掛けると、泣きそうな顔のケイと目が合った。ケイはしばらく口ごもるが、何とか言葉を絞り出した。
「ごめんなさい。私の、力不足です」
「力不足ってなんだよ。ユートたちが帰ってんだろ? 怪我したって聞いてみんな心配してんだ。ちょっと顔を見るくらいいいだろ?」
シュウが額に汗を流しながら、何でもないようなそぶりを見せて問いかけた。
だけどケイは、沈痛な表情を変えることはない。震える声で、泣きそうになりながらも静かに言葉を紡ぎ出した。
「エイタさんは、命はとりとめましたが油断ができない状態です。あのアビリティがあるうちは、何とか命をつなぎとめられるでしょう。でも、タクミさんは・・・」
「お、おい! 嘘だろう!? まさか、そんな・・・。魔線組の頭やあの火傷した子だって、お前のオリジンで何とかなったじゃねえか! なあ! あいつらも助かったんだろう!?」
思わすシュウが問い詰めるが、ケイはうつむきながら静かに首を振るだけだった。
「先ほど、タクミさんの結晶化が起こりました。これまでの例にもれず、スマホだけを残して消えてしまったのです。申し訳、ありません。私の、力不足です」
ケイの言葉に、アオたちは茫然とするしかないのだった。




