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第120話 央田 蓮司

 アオはファイアドレイクを睨みつけた。


 最初はどうしようもないと思っていた。ファイアドレイクは膨れ上がり、アオの何倍もの大きさがある。必死で爪を伸ばしても、相手に致命傷を与えるなんてできない。アビリティやスキルのないアオには絶対に敵わない相手だと思っていたが。


『くそっ! 魂を直接攻撃するなど! 腐ってもあの魔王の眷属と言うことか!』


 怯えているファイアドレイクを見て自信を深めた。


 自分なら、多分できる。巨体を誇るファイアドレイクにも、魂を込めた詰めを使えば、倒すことができるはずだ!


『だ、だが! いいのか? 我の魂を砕くということはこの男をも殺すということだぞ! 我の魂を砕けばこの男も死ぬ! お前の一撃が、央田蓮司を殺すのだ! お前にその覚悟があるのか!』


 突撃しようとしたアオの足がぴたりと止まった。


『ふ、ふはははは! そうだ! 魂を攻撃するとはそう言うことだ! 我は知っているぞ! 我々は3つの魂を合成されて生まれたものだ! そのうちの一つだけが消えたらどうなると思う? 消えるのだ! 他の2つの魂が、お互いを削り合ってな! 小さな人間の魂は、すぐに害鳥のそれに消されるだろう。我を殺すことは央田蓮司を殺すことになるぞ!』


 哄笑するファイアドレイクに、アオは言葉を返すことができない。


「くそっ! おいレンジ! 気張れ! そんな奴に体を奪われた利すんじゃねえぞ!」

『無駄だよ。一度主導権を握りさえすれば、その後は常に体を動かせるようになる! 当然だな! まるで鍛えていない小さな魂では我らのような大きな魂を動かすことはできない! この体は、もう我の物になったのだ!』


 オミの激励に嘲笑を持って答えるファイアドレイクだった。


「やってくれ」


 声が、聞こえた。ファイアドレイクのほうから、レンジの、あの不良のような乱暴な声が発せられた。


『!! 馬鹿な! 何を言って!』

「くそが。情けねえぜ。俺ともあろう者が、こんな頭悪そうなトカゲモドキに体を乗っ取られちまうとはな。こいつの好きなように体を動かされるのは我慢ならねえ。俺にだってプライドってもんがあるからな」


 アオは泣きそうな顔でファイアドレイクを見た。ファイアドレイクは困惑しながらも動こうとするが、何かに阻まれて腕を振るうことができない。


『くそっ! 動け! 貴様ら人間ごとき、矮小な存在が!!』

「お前、うぜえよ。俺の身体は俺のもんだ。トカゲだがドラゴンだか知らねえか、お前らの好きにさせてたまるかよ。おい! 虎もどき! 今のうちに俺を! こいつを!」


 レンジが叫ぶが、とっさに動くことはできない。アオはおろおろと自分とファイアドレイクを見ることしかできなかった。


「アオ」


 声がして振り向くと、オミが悲壮な顔をしてアオを見ていた。


「弟を、やってくれ。頼む。あいつを、人間のまま逝かせてやりたい」


 アオは何か言おうと口を開くが、言葉が出てこない。


「レンジがこのまま体を乗っ取られたらどうなると思う? それこそ殺戮を繰り返す悪竜になるだろう。俺たち人間に対してな。あいつには翼がある。逃げ回る相手に、何か攻撃手段があるか? 遠方から炎を吐き出されて戦う術があるか? 今しかねえんだよ。あいつを仕留められるのは、レンジの意識が残っている今しかな」


 その言葉を聞いて、アオは歯を食いしばった。そして次の瞬間には顔を上げてファイアドレイクを睨んだ。


 右の爪を伸ばし、力を集中させる。魔力だけでない。アオの中の根源的な何かを、爪先へと集めていく。


「があああああああ!」


 アオは吠えると、ファイアドレイクに一直線に駆け寄っていく。魂を込めた爪を、当てるために。レンジの、息の根を止めるために!


 ファイアドレイクに駆け出したアオは、直前で地蹴って飛び上がる。そしてファイアドレイクの顔を引き裂こうと右腕を振り上げるが・・・。


『ふは! 小僧! 力みすぎたな! 空中では避けられまい!』


 ファイアドレイクが大きく息を吸い込んだ。そして、飛び上がったアオめがけて火球を吐き出したのだ!


 ここに来て経験の浅さをさらしてしまった。一撃で倒そうとするあまり、動きの取れない空中に身を乗り出したのだ。


 このままでは直撃してしまう! そう思った時だった。


『アオ。左を、蹴ろ』


 声が聞こえ、反射的に左に現れた何かを蹴りつけた。身動きが取れないはずの空中で、アオは軌道を右に反らして火球を躱すことができたのだ。


『ば、バカな!?』


 ファイアドレイクの困惑とともに、右側から何かの気配を感じた。アオは閃いて、それを蹴ってファイアドレイクへと向かっていく。


「があああああああああああ!」


 叫びながら、再び右腕を振りかぶり、そして込められた魂ごと、思いっきり腕を振り下ろした。


『くそっ! 貴様ごときに!』


 生じた4本の衝撃波は、狙いたがわずファイアドレイクの顔に当たり、容易く切り裂いていった。


 着地し、重くなった体に鞭打って顔を上げると、驚愕の表情を浮かべるファイアドレイクと目が合った。


『ば、ばかな・・。貴様ら、ごとき。弱小種族に』


 それが最後の言葉だった。ファイアドレイクの絶叫が響いた。アオの一撃は、ファイアドレイクの魂に致命的なダメージを与えたのだ。


 体がはがれ落ちていく。巨体が崩れるように消えていき・・・。


 最後に、レンジの身体だけが残った。


「が、がう?」

「生き返ったわけじゃねえ。ファイアドレイクの野郎の魂が消えて、最後にこの体が残ったって感じか。あいつの魂が消えた今、俺も・・・」


 どうしていいか分からないくなった。そんなとき、ポンとアオの肩が叩かれた。振り向くとそこには無表情のオミがいて、アオを押し出すように前に出た。


「レンジ。親父を裏切ったお前を、許すわけにはいかねえ」

「あ、ああ。そうだな。でも俺も、ただでやられるわけにはいかねえんだよ!」


 2人は同時に駆け出し、思いっきり殴り合い始めた。


 オミの右フックがレンジを捕らえ、左拳が腹を突き上げたと思ったら、レンジの頭突きがオミの鼻面を打ち据える。


 洗練されたとは言えない、泥臭い殴り合いだ。でも2人はどこか楽しそうで、それでいてせつなくて。


 アオはその様子を見ていることしかできなかった。


「おらあああああ!」


 どれだけ時が過ぎただろうか。オミの右拳が思いっきりレンジを殴りつけた。吹き飛んだレンジは、それでも反撃しようと拳を握り締めるが――。


 力を出し尽くしたように膝をついてしまう。


 レンジの身体が、粒子になって宙に溶けていく。


「雅、にぃ・・・」

「先に行って、賑やかにしてろ。俺もいずれ、そこに行く」


 レンジは最後に微笑むと、その姿が金貨と結晶に変わり、オミのポケットへと吸い込まれていく。オミはそれ以上何も言わず、ただ静かに上を向いていた。

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