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第119話 魔族の覚醒

『ふむ。これがこの世界というヤツか。抵抗がないわけではないがな。人間の体を元にするとこれほどまでに世界から弾かれなくなるのだな。このために我らは、3体で合成されたのだな』

「くそ! お前がレンジと合成された魔物か!」


 オミは殴り掛かるが、ファイアドレイクは巨体に似合わぬ速さで後ろに下がった。


 そして・・・。


『ではさっさと盟約を果たしてしまおうか。これを果たせば、この体は我のものになるはずだからな』

「お前・・・! なにを!」


 オミがファイアドレイクに駆け寄ろうとした時だった。翼を羽ばたかせたファイアドレイクは5メートルほど浮かび上がり、そして一直線に突進してきたのだ!


「くっ! おまえ・・・?」


 反射的に身を守ったオミだったが、ファイアドレイクは隣をすり抜けていく。すさまじいスピードの先に居たのは、ミナトのパーティーメンバーの少年だった。


「え・・・」


 ミナトのパーティーメンバーは一瞬呆けてしまった。そのわきを通り過ぎていくファイアドレイクにも反応できない。彼は茫然と、通り過ぎていったファイアドレイクを見ようとするが・・・。


 次の瞬間、彼の胸から大量の血が噴き出した。


「あ・・・。あああああ!」


 噴き出した血でやっと正気を取り戻したのか、少年は慌てて傷口を押さえた。だけど、出血は止まらない。少年の顔はすぐに真っ青になって、呆然としたまま膝をつき、倒れ込んでいく。


 ミナトは、仲間が粒子になって消えていく様子を呆けたように眺めるだけだった。


「な、なんで・・・」

『何を驚く。この場に央田蓮司の味方はいない。まさかお前、自分が攻撃されないとでも思っていたのか?』


 言うと同時に、ファイアドレイクは大きく息を吸い込んでいく。そして息を止めると、首を突き出して炎を吐き出した。紅蓮の火球はミナトの隣を通り過ぎ、棒立ちしていた少女に直撃した。


「ああああああああああ! 熱い! 熱い! なんで!? ミナト! 助けて・・・」

「え・・・。あ、ああ、マコト・・・」


 少女は手を伸ばすが、ミナトは怯えた表情のまま体を反らすことしかできない。燃えていく少女を、ただ眺めているだけだった。


「シュウ!」

「!! ああ! そうだな!」


 動いたのはイゾウだった。イゾウが刀を振るうと少女を焼いていた火が一瞬にしてかき消される。その隙に走り込んでいたシュウが火傷だらけの少女を素早く介抱していく。


 素早く少女を救出しようとした2人だがファイアドレイクは殺したことを確信したのかもしれない。2人に目もくれず、3人目のパーティーメンバーに狙いを付けた。


「ひ、ひぃぃぃぃ! な、なんでぇ? 何でこっちに来るんだよお!」

『央田蓮司が本当に煩わしいと思っていたのは尾身雅彦ではなくお前らだ。お前たちが調子に乗ったままでは奴の魂が安定せぬ。だから先に、お前たちを排除しておこうと思ってな』


 ファイアドレイクは素早く首を突き出していく。3人目は逃げ出そうとするが、あっさりと追い付かれ・・・。


 上半身を、がぶりと噛みつかれてしまう。


「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」


 下半身だけになり、粒子になっていく3人目を見てしりもちをついた4人目の少女。その悲鳴を聞いたファイアドレイクは、ミナトを見てうれしそうに笑った。


「ほら。どうした? お前の仲間だろう? このままでは死んでしまうぞ?」

「あ、あ、あ、あ・・・」


 ミナトはあっけにとられたままだった。ファイアドレイクに嘲笑されても死んでいく仲間たちを見ていることしかできない。


「させるか! アオ!」

「がう!!」


 とっさに動いたのはイゾウとアオだった。イゾウが刀で斬りかかり、アオが爪を振り下ろすが、ファイアドレイクは簡単に避けてしまい、次の瞬間には前足を素早く突き出して、少女の腹を貫いてしまう。


「う、うそ・・・。こんな、ところで」


 それが、最後の言葉だった。少女はそのまま膝をつき、崩れるように倒れていく。その体はすぐに結晶と金貨になり、粒子になってレンジのスマホへと吸い込まれていく。


 あっという間の出来事だった。あっという間に、ミナトのパーティーは瓦解してしまった。


「シュウ! この少女を急いでケイの元へ! その状態でも彼女なら何とか出来るかもしれぬ!」

「お、おう!! そうだな! よし! すぐ行くからよ!」


 次の瞬間、シュウの足が馬の蹄に変わり、少女を抱えて一瞬で移動した。ファイアドレイクは一瞬シュウたちに狙いを定めるが、イゾウとアオが立ちふさがったのを見て「ほう」と息を吐いた。


『かばうか。お前たちにとってこいつらは敵だろうに』

「ふん。さすがにこのまま見過ごしたとあっては目覚めが悪い。ワシらの前でこれ以上の狼藉は赦されぬよ」

「がう!!」


 移送とアオが徹底抗戦の構えを見せると、ファイアドレイクは大声で笑いだした。そしてミナトを見ると、ゆっくりと語りだしていく。


『くくくく。小僧。本物の英雄とは少なくともこのように行動できる奴らのことを言うのだ。大きな敵にも怯えず、おのれの意志を貫き通すような奴らをな。そこで震えているだけのお前とは大違いだ』


 そう言うと、ファイアドレイクはそこにいるもう一人――オミに向かって声をかけた。


『お前もあきらめないようだな』

「レンジはどうなった。お前はレンジの魂をどうしたってんだ。その体はレンジのもんだろうが! お前ごときが好きにしていいわけがないだろう!」


 ファイアドレイクの言葉にも揺るがず、オミはそう問いかけた。


『確かにそうだった。今までは体の主導権はすべて央田蓮司にあった。この体のベースはあくまで奴のものだったからな。だが、奴は我が能力を使いすぎた。馴染みすぎたのよ。我がこの世界で我が力が顕現できるほどにな。力が強くなった分、我が体を乗っ取る余地も生まれたわけだ』

「アビリティを強化しすぎた者の、末路と言うわけか」


 悔やむように言ったイゾウを、ファイアドレイクは心底うれしそうに笑った。


『そうだ! この体の主導権はすでに我にある! 央田蓮司でも、あの害鳥でもなくな! 外の様子を指をくわえてみているときは終わった! これから央田蓮司がその立場になり、我がこの世界を蹂躙するのを眺めるしかなくなったのだ!』

「くそっ! ふざけんな!」


 オミはファイアドレイクに殴りかかるが、体格差は歴然だった。オミの拳はファイアドレイクの腕を少し傷つけただけに終わってしまう。そして虫でも追い払うように振りぬかれた腕に、オミは簡単に吹き飛ばされてしまう。


『ふふふふ。こんなものだよ。体の大きさというのは絶対だ。お前がどうあがこうとも我を倒すことはできん。央田蓮司が恐れ、あこがれた尾身正彦も、こうなっては可愛いものよ』

「!!! 貴様が、蓮司のことを何を理解しているってんだ! その口で知ったようなことを言うんじゃねえ!」


 激高したオミは戦い続けた。鱗を攻撃し、その顔面を殴りつけようとするが、届かない。打撃は鱗に防がれ、顔面を狙った攻撃もあっさりと躱されてしまう。


『ははははは! 無駄だ! 小さき者よ! お前では攻撃を当てられてもダメージを与えることはできぬ! よいだろう! メインディッシュになると思ったがこうも暴れられてはな! お前から先に・・・』

「がああああああああああ!」


 気づいたら、アオは飛びついていた。


 聞くに堪えなかったのだ。


 ファイアドレイクがレンジを語る、その言葉が。確かにレンジはアオを焼き殺そうとした前科のある相手だ。仲良くなれるとは思えない。アビリティを使いすぎて魔族に体を乗っ取られるのも自業自得と言えるかもしれない。


 でも、見るに堪えなかった。


 激高したオミが、届かないと知りつつもそれでもファイアドレイクに殴りかかっていくのが。


 彼らの関係は、正直なところアオには分からない。でも、オミがレンジのことを大切な弟分だと思っていることは分かる。そして、たぶんレンジも尊敬する兄貴分としてオミを見ていたことも。


「があああああああああ!」


 飛び上がり、振り上げた右腕の爪に力が宿る。魔力ではない。それよりももっと大切な何かが、右爪に集まっていくのが分かった。


『!!! き、貴様! それは!!』

「ああああああああああああああ!」


 右爪を、思いっきり振り下ろす。それは衝撃波となり、ファイアドレイクの左肩を、チーズでも斬るかのように容易く切り裂いた。


『ぐあああああああああああ! き、貴様! 貴様! それは!』


 効果は劇的だった。ファイアドレイクは大げさともいえる動作で左肩を押さえ、素早くアオから距離を取った。


『そ、そうか! 貴様はケルベロスの眷属なのか! 技に己の魂を宿らせ、相手の魂を破壊する術があるということか!』


 ファイアドレイクは恐れを含んだ目でアオを見つめたのだった。

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