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第118話 顕在

 血しぶきが飛んだ。


 前方にいるオーガの頭を、ハーパーがライフルで見事に狙撃したのだ。


 第1階層の、ボス部屋での出来事だった。まだ未クリアだったハーパーたちとアゲハの3人は、アキミたちのアジトへと向かうために、第1階層のボスを攻略しようとしたのだけど。


「これでこの層はクリアっと。この分じゃあ、もうすぐアジトに着けそうね」

「ええ・・・。そうですね」


 アゲハの声にハーパーは複雑な表情を浮かべていた。粒子になって消えていくオーガたちを見ながら溜息を吐いていた。


 このボス部屋でも、道中でもそうだった。アゲハは決して魔物を倒したりはしなかった。引付や牽制はしてくれるものの、魔物を攻撃することはない。その分だけポイントやオラムはリヴィアとハーパーに取らせてしまい、ハーパーとしては申し訳なくはあるのだけれど。


「リヴィア、大丈夫?」


 心配して声をかけたが、リヴィアは無言でうなずくだけだった。やはりアレックスがああなってしまったことにショックを受けているに違いない。追手を足止めしてくれたアオたちのことも心配なのだろう。


 最初に結成した6人の仲間は、もう2人だけになってしまった。嫉妬の塔を攻略する中で仲間たちはどんどん減っていき、兄のノアも消え、そして今回のアレックスだ。特にノアとアレックスはリヴィアをかばったせいでああなってしまったので、彼女の苦悩は人一倍深いのかもしれない。


「よし。じゃあ進もうか。他の人は先で待ってくれているみたいだしね」

「え、ええ。そうですね」


 リヴィアの不調に気づいているのかいないのか。アゲハの言葉に、ハーパーは慌ててリヴィアを促したのだった。



◆◆◆◆



「がああああああああああ!」


 アオの一撃が、また一人敵をふきとばした。


 岩場での戦いはアオたちに有利に動いた。この場では銃は本来の力を発揮できない。岩の間を素早く移動することで相手が狙いをつける前に倒すことができるのだ。


「はっ! くらえや!」


 シュウも負けてはいない。オリジンをあまり使えないシュウは、棍棒を使いこなすことで敵を倒している。たどたどしくはあるが風を操ることで、敵の数を確実に減らしていた。


 順調なのはアオたちだけではなかった。イゾウも有利に戦いを進めていた。


「くそっ! なんで、当たんねえんだ! 俺のスキルレベルは8だぞ!」

「ふん。この程度か。スキルは少々面白いが、使い手が未熟なままではの」


 焦るミナトと余裕綽々のイゾウ。ミナトだけでなくそのパーティーメンバーからも攻撃されているのに、イゾウにはまるで当たらない。そればかりか、当身で魔線組や嫉妬の軍人たちを次々と気絶させていくほどの余裕っぷりだ。


 一方で、一進一退の攻防を続けているのがオミだった。オミと相対するレンジは、ミナトのようにパーティーメンバーの助力を必要としていない。それなのに、オミと互角な戦いを続けている。


「レンジイイィィィ!」

「があああああああ!」


 オミの拳を左手で反らし、そのまま右ストレートで殴りつけた。すかさず追撃しようとするレンジの腹に食い込んでいくオミの左足。一進一退の攻防に、レンジのパーティーメンバーは我を忘れて見入ってしまう。


 お互いに殴り合っているはずなのに2人はどこか楽しそうで、アオは敵を倒しながらもちらちらと眺めてしまった。


「おらああああああああああ!!」


 下がったはずのレンジがうなり声を上げて殴りかかった。大ぶりの一撃は、しかしオミに躱されてしまう。


 そしてーー。


「てめえは、いつも熱くなりすぎなんだよ!」


 無防備になったレンジの顔に、オミの渾身の右拳が突き刺さった。殴られたレンジは、1歩、2歩と下がっていく。オミは追撃しようと低い姿勢で近づいていくが――。


「相変わらず。雅兄は強えな。殴り合いじゃ、やっぱり勝てねえ。でもここは意世界で、俺たちは探索者だぜ?」


 差し出された右手がトカゲの頭に変わる。そして右手の口が開くと――。


 すさまじいばかりの炎を吐き出した。


 相変わらずのアビリティは、壊れた火炎放射器のようだった。火炎はあっという間にオミを飲み込んでいく。その熱量はアオにも届き、熱さで思わず手をかざしてしまう。


「オ、オミ!! くそっ! 今!!」

「シュウさん! だめだ! 敵の銃が!」


 助けに行こうとしたシュウは、銃弾を見舞われて岩影に引っ込んでしまう。海外組の銃弾で、その場を動くこともできないのだ。エイタが言わんこっちゃないと顔に手を当てていた。


「は、あははははは! やったぞ! ついに雅の兄貴を! ついに俺は!」

「俺が、なんだって?」


 高笑いしたレンジの顔が、そのまま止まる。焼かれたはずのオミが、腕を振りかぶっているのが目に入ったからだ。


「な、なん・・・・」


 レンジが何か言う暇もなかった。左頬をオミに全力で殴られて吹き飛ばされる。オミは素早く近づくと、みぞおちと右頬、そして鼻面を殴られて仰向けになって倒れ込んでいく。


「能力を使えるのはお前だけじゃない。俺だって魔物の力を使えるんだよ。肉弾戦で俺に勝てると思っているのか?」


 唇を切ったのだろうか。オミは流れ出る血をふき取ると、荒い呼吸をしながらレンジに近づいていく。レンジは転がってよろよろになりながらも、なんとか立ち上がろうとするが、オミはその顔面を容赦なく蹴り上げた。


 大の字になって倒れたレンジは、大声で叫んだ。


「くそっ! なんでだよ! なんで俺は勝てねえんだ! 俺のほうがすげえアビリティを持っているのに! 俺のほうが、すげえ数の魔物を倒してきたはずなのに!」

「ゲームじゃねえんだ。敵を倒すだけで強くなれるかよ。もっと頭を使えっていつも言ってるだろう? 力だけじゃダメなんだよ。どうやったら力を発揮できるか考えないとな。特に能力ってやつは俺たちのモンじゃねえ。本来の持ち主よりも劣っちまうのは当たり前だろう」


 荒い息を吐いていたレンジが、ふいに呼吸を止めた。


「そ、そうか。そう言う、ことか。俺じゃあアビリティの本来の力を発揮できないってことか。そうか・・・。なら!」

「レンジ?」


 呼吸を整えていたオミが、急に声色を変えたレンジを見つめた。レンジはむくりと立ち上がり、すさまじい顔でオミに笑いかけた。


「どこかブレーキを踏んでいたが、それは違うってことだな! ミナトのガキのまねをするのは癪だが、仕方ねえ! これで、兄貴を超えられるなら!」

「!! レンジ! やめろ!」


 オミは手を伸ばすが、少し遅かった。


「ああ? こういえばいいのか? しょうがねえ! 遵守してやるよ!!」


 笑顔になったレンジからすさまじい炎が立ち上った。そして巻き起こった衝撃波に、オミはちり紙のように吹き飛ばされていく。


「な、なにが?」

「があああああああああああああああ!」


 立ち上がったオミには目もくれず、雄たけびを上げるレンジ。最初は人間だったその声が、徐々に獣がうなるような声へと変わっていく。


「レンジ! やめろ! 戻って来い」

「ソウダ! ユダネテシマエバイインダ! コレデオレモ、マサニイノヨウニカッコウヨクナレルナラ! オモイエガイテイタオトコニナレルナラ!」


 レンジの身体が膨れ上がっていく。周囲の魔力を吸収しているのだろう。体が2倍、3倍と大きくなり、シルエットも変わっていく。筋肉質ではあるものの人間だった姿から、大きくトカゲのような姿へと!


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 放たれた叫び声もそれまでとは大きく違っていた。大声で叫ぶ人間の叫びから獣のうなり声へと変わったのだ。


 気づけば、探索者だったはずのレンジはもういない。そこには、赤い鱗に覆われて炎を噴き上げるドラゴンが鎮座していた。


「レ、レンジ! レンジィィィィ!!!」

『央田 蓮司と言う男は、もう出てこない。これからは私の時間だ。祝福するがよい。この男は矮小な人間から、ファイアドレイクの我へと進化したのだからな』


 そしてレンジだったファイアドレイクは、嬉しそうに雄たけびを上げたのだった。

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