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第114話 魔線組の片割れ

「ハーパー! 離して! アレックスが!」

「駄目よ! ああなったらどうしようもない。兄さんの件であなたにも分かっているでしょう?」


 暴れるリヴィアを、ハーパーが黙らせた。


「いたぞ! こっちだ!」

「土地勘はこちらのほうが上だ。絶対に逃がすなよ!」


 聞こえてくる日本人の声に、ハーパーは唇を噛んだ。リヴィアたちを追ってきた魔線組の連中だろう。周りは敵だらけでハーパーはくじけそうになるが、足を動かすのを止めなかった。


 曲がり角に差し掛かった時だった。


「げ、あんたたちかぁ」


 道の先にいるのは、肌が異様に白いあの少女だった。その恐ろしく整った顔を見て、ハーパーは安堵していた。


「ア、アゲハ様! よかった! 無事だったんですね!」

「無事じゃないんですけど! 私の家、燃えちゃったし! コレクションとかいっぱいあったのに、全部なくなったじゃない!」


 ハーパーは足を止めると、荒い息を吐いた。戻ろうとするリヴィアを止めるのは手間がかかったけど、幸運なことにアゲハと合流することができたのだ。


「いたぞ! あいつらを捕まえろ!」

「げ! 魔線組! あんたら、あいつらに追われてんの?」


 アゲハが文句を言ってくる間にも男たちが迫ってくる。ハーパーは何とか説明しようとするが、息が乱れて声を出すことができない。


 しかし、次の瞬間だった。


「うおっ!」

「な、なんだ!?」


 追ってきた2人組が急に転倒した。ハーパーは思わずアゲハを見るが、彼女は興味を失ったように塔のある方向に目を凝らしていた。


「こ、殺したのですか?」

「あんなのの命なんて、私が背負うわけないでしょ。気絶させただけだし。アキミさんに連絡した。塔まで行けば迎えに来てくれるって」


 そう言って、アゲハはスマホをいじりだした。


「あ、アゲハ様! すみません! 私たちは」

「ああ。そう言うのはいいから。今アンタたちのことも連絡しておいたよ。あ、もう返信が来た。さすがアキミさん。レスが速いね。あんたたちも避難してきていいってさ。詳しい話はそこですればいいんじゃない?」

「いたぞ! あいつらを逃がすなよ!」


 追ってきたのは、魔線組の男たちだった。先頭にいるのは十代半ばくらいの少年で、アゲハがまずいものでも見たように顔をしかめていた。


「お前もいんのかよ。ちょうどいい。お前も捕らえさせてもらうぜ。へへ。なに。俺が悪いようにはしねえからよ」

「魔線組とことを構えるのかぁ。やっぱ面倒だな。あいつらも敵かな。でも話しぶりからそんな感じはしなかったし」


 アゲハは少年を無視するように考え込んだ。ハーパーが何かを言おうとしたが、その前に少年が激高して背中の大剣を抜き放った。


「無視すんじゃねえよ! この俺を誰だと思っている! あの男と言い、お前といい! 俺は魔線組のミナトだぞ! この異世界の英雄の! 後悔すんぞ! 俺をぞんざいに扱ったことを! お前には魔線組から捕縛命令が出ているんだからな!」

「捕縛命令が、なんだってぇ」


 地を這うような声が聞こえ、ハーパーは思わず振り返った。そして顔をしかめてしまう。そこにいたのは、同じ魔線組の構成員だったのだから。


 その男、ヨースケはいつものニヤニヤ笑いを浮かべていた。


「くそっ! お前! 邪魔すんのかよ! こんなことをしていいと思っているのか!」

「今、テツオに確認しましたが、少なくともうちのボスはそんな命令を出していないそうですよ。取り込み中みたいですぐに切られちゃいましたが。あ、リヴィアさんを絶対に保護しなきゃいけないみたいです」


 ヤヨイがスマホをいじりながら答えた。どうやらこの瞬間に確認を取ったようで、鋭い目で少年を睨んでいた。


「お、俺たちは東雲さんの命令でここに来たんだぞ! あんたらにも命令が来てんだろ! リヴィアって女を捕らえろよ! ボスがいない今、東雲さんの命令に」

「おいおい。何言ってんだ? 保護しろと捕えろってのは全然違うだろうがよ。それに親父がなんだって? なんで親父がいないって言いきれんだ?」


 反対に問い詰められてミナトは言葉を失った。


「ミナト! こいつらやっちゃおう! 後のことは東雲さんが何とかしてくれる。だから!」

「お前、怒ってんのか? 俺たちが命令を聞かないことにムカついてるんだなぁ。だけどよぉ、教わらなかったか? 俺の前で感情をむき出しにするのは危険だってよぉ」


 激高する少女を、ヨースケはねめつけた。アゲハが顔を歪ませてヨースケを見ていたのがハーパーには意外だった。


 しかし、変化は劇的だった。ヨースケとにらみ合っていたはずの少女の顔がどんどん赤くなっていったのだ。


「お、おまっ! くぁwせdrftgyふじこlp!」

「お、おい! マコト! 何が、どうして!」


 ミナトは手を伸ばすが、マコトと呼ばれた少女は絶叫した。そして白目を剥いて、糸が切れたように膝をついていく。その様子にミナトとその仲間は茫然として、恐れを帯びた目でヨースケを見つめていた。


「なに、あれ・・・。やばい。目があったら、それで終わり? こんな能力もあるの」

「ま、俺のオリジンってやつさぁ。お嬢ちゃんに通じるかは分かんねえけどよぉ。未熟なこいつらには効果敵面ってやつさ」


 にやにや笑うヨースケだった。


「くそっ! 感情制御ってやつかよ! おい! 絶対にこいつと目を合わせるなよ!」

「おっと。あなたの相手は私ですよ」


 前に出たヤヨイは、指先から糸を吐き出した。それを操り、あっという間に突撃してきた男をがんじがらめにしてしまう。


「このまま切り裂くこともできますが、まあ今はいいでしょう。あなたたちには聞かなければならないこともありますし」

「ーーー!! ーーー!」


 男はもがいていたが、糸の締め付けは強くなる一方だった首を掻きむしるが、やがて青い顔をして倒れ込んでいく。


 あっという間に2人の仲間を無力化されたのを見て、ミナトは目を剥いていた。


「さて。次はお前だな」

「お、俺は東雲さんの命令で! そうだ! お前、こんな命令違反をしていいと思ってんのかよ!」


 混乱してそんなことを言い出すミナトに、ヨースケはにやにや笑いを止めなかった。


「お前、親父の命令よりもあの狸親父の言葉が優先されるとでも思ってんのかよ? いいぜぇ。抜けよ。俺は格闘戦も鍛えている。お前と俺、どっちが強いか勝負と行こうじゃねえか」

「く、くそっ! お前ら! 覚えておけよ! お前らが偉そうにできるのは今だけだからな!」


 ミナトたちは逃げ出した。あとを追おうとしたヨースケは、不意に足を止めた。


「あいつは、なんで親父がいないって言ったんだ? この時間ならまだ事務所に詰めていることは知っているはずなのに・・・。あいつは、知っていた? 親父が今は動けないことを!!」

「!! まさか! ボスは!」


 ヨースケとヤヨイは同時に駆け出した。リヴィアとハーパーはそれを呆然と見ていることしかできない。


「え? ちょ、ちょっと! 何があったというんです!」

「私たちはどうすべきか。戦力強化のためについていくのも手だけど、それだと敵を一か所に集めちゃうことにもなるのよね。みっちゃんに連絡して塔に向かうか。敵を分散させられるし、みんなと合流できればこっちのものよね」


 冷静に考え込むアゲハに、リヴィアが目を剥いていた。


「分かんない? 多分襲撃を受けているのよ。私たちと同じように、魔線組の事務所がね。それに気づいてヨースケとヤヨイが慌てて駆け出していったってわけ」

「!! あ、あなたはなんでそんなに落ち着いているんです!」


 詰め寄ってきたハーパーに、アゲハはあきれたようにため息を吐いた。


「こんな時だから、ちゃんとすべきことを考えなきゃいけないんでしょう? このままヨースケ達のところに行ったら敵を連れていくことにもなりかねない。私一人なら何とかなるけど、あんたたちがいるんじゃあねぇ」

「!!!」


 アゲハにあきれたように言われ、リヴィアは気づいてしまった。アゲハ一人なら取るべき手段はいくらでもいる。でも今、もしアゲハがヨースケ達を追っていったら、リヴィアたちを守るものは誰もいなくなる。


 そうなったら!!


「私にとってはみっちゃんとお兄さんだけが家族よ。家族が必要だと思うから、私はあんたたちを助けてあげようと思っている。でも、いくら助けたいと思っていてもできることは限られているでしょう? 私には手が2本しかないんだし。無理して助けに行ってあんたたちを危険にさらすんじゃ、なんの意味もないから」


 そう話すアゲハを、リヴィアとハーパーは顔を青くして見つめることしかできない。


 アゲハは自分のスマホを振った。


「お兄さんたちに連絡した。まずはみんなと合流しましょう。それからのことはそれから考える。いいね?」


 有無を言わせずに言うアゲハに、2人はうなずくことしかできなかった。

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