第111話 アゲハの報告
「で、結局フェイルーンたちはお前らの拠点で暮らすことになったんだ?」
「そうらしいよ。ま、あそこはお兄さんに敵意がある人は入れないらしいしね。あの人たちも迷宮内で食糧調達について学ぶ必要があるからね」
トゥルスの問いに、アゲハがご飯を食べながら答えた。
ここは街にある食堂だった。先日のお礼とばかりにウェヌスとトゥルスがアゲハを誘ったのだ。アゲハはめんどくさそうにしつつもうきうきでついてきた。
「でね。新たに加わったフェイルーンたちの中に、タクミの家族がいてさ。アキミさんが話して通訳することになって」
「ういーす。ここにいたのかぁ」
アゲハが話す中、店に入ってきたのはヨースケだった。後ろにはヤヨイもいて、アゲハをキラキラした目で見つめている。
「なに? ストーカー? なんで久しぶりに街にきたらあんたがいるのよ」
「そら、お前さんは目立つからなぁ。ま、これも有名税だと思ってあきらめてくれ」
「可愛い可愛いアゲハさんは輝いていますからね! どこにいようと目立ってしまうんです! 可愛いから!」
ヨースケとヤヨイはアゲハたちと同じ席に座る。当然のごとくアゲハが睨みつけるが、2人はどこ吹く風だ。
「うまいもんだと言えばここだよなぁ。あ、マスター。生姜焼き定食1つ」
「私はシーザーサラダをお願いします」
「最悪。注文までしちゃうなんて」
アゲハは本当に嫌そうだった。
「しかし、お嬢ちゃんたちがこの店を選ぶとはな。なかなかいい選択じゃねえか。ここはマスターが頑固だが味は一級品だ。俺が来ても嫌な顔されないしよぉ」
「そうだな。俺たちが気兼ねなく食事できる店は少なくなってきてるよな。自業自得ではあるが」
意外なことにヨースケに同意したのはトゥルスだった。
「え? なに? 魔線組も街で嫌われてんの? 最近持ち直したんじゃなくて?」
「それがよぉ。評価が2分しちまってなぁ。やっぱりオリジンはアビリティみたいに行かなくて、使わなくなった奴も多いのよ。あとで東雲の狸に銃をもらいに行ったってやつもいたようだぜ。威力も構築時間も全然だから仕方ないとはいえよぉ。その点、銃器やミナトのやつが広めている方法は誰でも効果がすごくてよぉ。ますます調子に乗っているみたいでなぁ」
「あれを尊敬する探索者は悪いとこばっかりあの子に似て。店で無銭飲食したり、店員に横柄な態度をとっちゃう人が増えたんですよね。ミナトさんのまねしただけなのに何が悪いんだと。あの東雲様がそんなふるまいを許しちゃっているから始末に負えない。戦える人が偉いんですって」
ヨースケだけでなくヤヨイまでもが憤慨していたが、アゲハは興味がなさそうにあくびをした。
「ごめんなさいね! こんな話、アゲハちゃんには興味ないですよね。私たちを嫌わないでね!」
「お前はよぉ。まったく、その子のことになるとすぐこれだ」
言い合う2人にウェヌスがはらはらした目で見つめていた。
そんな時だった。
カランカラン。
入口から新たな客が入ってきた。うわさの主、ミナトだった。彼は取り巻きともいえる少女たちに囲まれながら騒がしく入ってきた。背負っている大剣から嫌な空気が流れているように感じ、アゲハは思いっきり顔をしかめた。
ミナトはヨースケに気づくといやらしい笑みを浮かべ出した。
「これはこれは南野さんじゃないですか。ろくに塔の攻略もしないでいい御身分ですね」
「そりゃおめえ、俺たちは誰かさんのしりぬぐいで忙しいからよぉ。偉そうな口を聞くわりに、正同命会に出し抜かれている生意気なガキが。態度ばかりでかくてな。街の連中に嫌われてんのもわかっていねえし」
ヨースケの言葉に、目じりを吊り上げるミナトだった。
「お前らがこんなところで油を売っているせいだろうがよ! 探索者の一番の仕事は塔を攻略すんことだろ! オリジンだか何だか知んねえが、お前らがうだうだしているせいで塔の攻略が進まねえんだよ!」
「なんだ? お前らが正同命会に出し抜かれてんのは俺らのせいってか? おうおう! 偉そうなこと言って俺らがいねえと何にもできねえってな。はっ! 新進気鋭の新人が聞いてあきれるぜ」
「どうでもいいけど」
言い合う2人を止めたアゲハ。音を立ててどんぶりを置き、2人をねめつけた。
「今食事中なんだけど! 騒ぐなら別のところでやってくれる? 魔線組のもめごとなんて誰も興味ないし」
「そうですよねそうですよね! せっかくおいしいもの食べてるのにこんな! アゲハちゃんはゆっくりお食事していていいですからね! ヨースケ!」
ヤヨイは立ち上がると、ヨースケ達を連れてテーブルを離れていく。ヨースケもミナトも文句を言ったが、ヤヨイの剣幕には逆らえないようだ。店のマスターをも巻き込みながら向こうのテーブルでああだこうだと騒ぎだしている。
「魔線組も、いろいろあるみたいだな」
「そうですね。組織の中にもめ事はつきものなんですね」
「店員さん! おかわり!」
嘆きだす2人をさしおいてアゲハが店員を呼び止めた。その小さな体のどこに入るのか、その健啖ぶりにウェヌスは目を丸くしてしまう。
「んで? 正同命会でもいろいろあるわけだ?」
「お、おう。魔線組と同じで塔を攻略している奴らが幅を利かせてな。四正天だけにでかい顔させねえっていうやつもいてよ。俺たちに好意的な奴らもいるが、そうじゃねえ奴がうるさくって・・・。それに、マルスんとこのパーティーメンバーがな。第3階層を初攻略したことでますます、な」
「私たちもノルマがいろいろあって。今、第4階層を攻略しているのはうちの組でも少数で。植草先生の情報が止まったせいで情報共有ができなくなっちゃったんですよね。みんなそれぞれ情報を秘匿してて、そのせいで攻略に時間がかかっちゃって。マルスさん自身は協力的なんですけどね」
ウェヌスのため息に、アゲハはにやにやと笑いだした。
「正同命会も大変だね。あの聖女を追い出してからパッとしないし。てか、四正天って何? マルスとかネプトゥとかこれ見よがしにカタカナの名前を付けっちゃって。トゥルスとかウェヌスとか。本名隠すためにネットの名前でも付けたの?」
「えっと。アシェリさんとかパメラさんはそんな感じらしいけど、私たちは・・・」
律義に答えようとしたウェヌスの言葉を聞いて、トゥルスが溜息を吐いた。
「いや、俺もな? 本当は本名をもじった名前を付けようとしたんだがよ。うちの教主に直接指名されてこの名前にすることになったんだ。正同命会も、最初の頃は宗教って感じじゃなくて探索者の集まりみたいな感じだったのにな」
「私も。最初は留美子って本名をつけてたのに、あれよあれよという間にウェヌスになっちゃってたんですよね。まあ、この外見はルミコってガラじゃないですけど」
力なく笑うウェヌスにアゲハはにやりと笑った。
「へえ。あんたの本名はルミコってんだね。じゃあ私は今からそう呼ぶから。決まり」
アゲハがあっけらかんと言い出した。ウェヌスが止める間もなく、「本当はルミコもこっちで呼ばれたいんでしょう」としゃべりだした。
照れたように顔を真っ赤にしてウェヌスが止めようとするが、アゲハは聞き入れずに話しかけ続けていた。シュウもアキミも2人のじゃれ合いを微笑ましく見つめていた。
でも、その時だった。店内のスマホが、一斉になりだした。慌てて画面を確認したウェヌスは驚愕の表情で絶句していた。
「おいおい、マジかよ。苦戦していたんじゃねえのか」
「へえ。正同命会もやるじゃん。第3階層に引き続いてだよね?」
アゲハがにやりと笑っていた。
画面には、こう記されていたのだ。
第4階層、初攻略と――。




