第110話 レヴィアタンと元フェイルーンと、今後と
前半が抜けておりました。
申し訳ございません。
「あの・・・。その施術、私にしてくれないでしょうか」
手を上げたのは、リヴィアの秘書の金髪の女性だった。
「ハーパー・・・。あなた」
「お願いします。私も、そのオリジンと言うのを身に着けてみたいのです。私の中の悪魔は強いかもしれませんが、それでも!」
涙目で見つめられてアオはどぎまぎとしてしまう。
『貴様、我の許可も得ずにケルベロスに縋るか』
「よいではないですか。ワシにもお願いしたい。ワシらに、ケルベロス様の秘術とやらを授けてくだされ」
アレックスにまで言われ、レヴィアタンはすさまじい形相になった。
「レヴィアタン殿は即断できないご様子。ならば試してみればよいのです。そのオリジンとやらがどのような効果があるのか。万一のことがあっても我らの命など惜しいものではありますまい」
アレックスの言葉を聞いてリヴィアは顔を青ざめさせる。
「リヴィア。私たちが思っている以上に時間はないのかもしれない。だって私は、ここにきてすぐに〈憤怒〉の悪魔に襲われるなんて思わなかったもの」
「ハーパー! でもあなたが実験台のようなことをするなんて!」
リヴィアの秘書、ハーパーは寂しげに笑った。
「もしここにノア兄さんがいたらそうしたと思うわ。新しい力を試すのに躊躇わなかったでしょう。でも、あの人はもういない。私たちが自分で道を探すしかないの」
言い合う3人をあきれたように見ていたミツだった。
『なんでもいいが、早く決めろ。こっちはそれほど暇じゃないんだぞ』
『ケルベロス!』
レヴィアタンのすさまじい剣幕をよそにミツはのんびりと答えた。
『どうやらレヴィアタンは私の罠ではないかと恐れているようだ。悠長なことよな。そんなことを考えている暇もないかもしれんのに。まあいい。臆病者はほおっておいて・・・・』
『いいだろう。リヴィアにもお前の言う覚醒とやらをしてもらおう」
髷しく睨みつけてくるレヴィアタン。アオの身体を借りたミツはにやりと笑った。
『待っていても事態は変わらん。〈高慢〉や〈憤怒〉の連中が来たら終わりと言うのも確かなことだ。それに、またこうしてお前と会えることもないかもしれん。新たな道があるとしてもそれを見つけられるとは限らんのも確かなことだ』
『ふん。10年探して見つからなかったんだ。他に道があるわけがないだろう』
レヴィアタンは指をミツに突き付けた。
『お前こそ後悔するなよ。リヴィアは私が鍛える。お前の、アゲハと言うガキでは抑えられんくらいにな。その時になって吠えずらをかいても遅いのだぞ』
『精々やってみるがいいさ。お前のやり方でリヴィアとやらが本当に強くなれるならな。もう一つ忠告だ。アオたちの世界にこういう言葉がある。『押してダメなら引いてみろ』とな。強さというのは一種類ではないと心するんだな』
ミツは静かに歩きだした。レヴィアタンとハーパーたちはそれに続いていく。リヴィアの護衛2人が慌てて彼女らを追っていった。
『5人か。全員がオリジンを鍛えられればいいのだが。あの分ではそれも難しいかもしれんな。アゲハにでも言っておくか』
そんな独り言をしながら、ミツはレヴィアタンたちに向き合うのだった。
◆◆◆◆
ミツがオリジンを授けると、レヴィアタンたちは悔しげに文句を言い捨てて去っていった。ヨースケやウェネスたちも一声かけて街へと戻っていく。最後にミツがトゥルスたちに声をかけたのが意外だったが、アオはみんなが去った川辺にどこか寂しさを感じていた。
「さて。ノドカ嬢たちは無事にオリジンを習得したようだが、どうしようかの。まずはオリジンの基本的な使い方を・・・」
『待て。そいつらには聞かねばならぬことがある』
今後の方針を語ろうとしたイゾウに、ミツが待ったをかけた。
「む? こ奴らの事情はあらかた聞いたと思うが?」
『まだ聞かねばならんことがあるだろう。こいつらが、どうやって生きてきたかと言うことだ』
ミツに言われ、イゾウは思わず口を閉ざした。
『お前たちはすべてが順調なわけではない。塔を攻略できるかできないかということではない。オリジンを身に着けたお前たちならばおそらくこの塔を制覇するのも時間の問題だろう。だが、お前たちが塔を攻略する前に解消しなければならない問題もあるだろう』
イゾウはしばし絶句するが、あきらめたようにミツに答えた。
「補給の、問題だな」
『そうだ。生きている限りは何かを食わねばならん。今は、オラムさえあれば食材を得ることができる。だが、もし街の商人とやらが食材を譲ってくれなくなったら? 街の裏にいるのはおそらくあの害鳥どもだ。私たちは依然としてやつらに命を握られているのだ』
シュウが唖然としたまま聞き返した。
「いや、たしかにそうだけどよ。やっぱりあんたもそのことを考えていたんだな」
「うちの社長は常にそのことを考えてたみたいだし。万が一食料が手に入らなくなったらどうしようってね。早くから農業ができる人を支援して独自に畑を作らせたりって。まあ、レンジとかの戦闘バカはそんな活動を侮ってたみたいだけどさ」
アキミがミツを援護するようなことを言った。
アオも思い出していた。確か街の人にオリジンを習得させる際、魔線組のトップである真原源一郎もそんなことを言っていた。自作の、あまりおいしくない漬物をかじりながらそう諭してきたのだ。
『まず一つ。大きいのが街の連中が食料を売ってくれなくなる可能性だ。街に住む住民が拠点のあのメイドたちと同じとしたら害鳥どもが作り出した存在だろう。おそらく、一般市民はブラウニーなど下級の魔物との合成魔で、衛兵の元はスケルトンかな。単純な命令しか聞かないようになることを条件に、かなり強固な個体を作る技術があると聞く。塔のそばでしか生きられないらしいがな。それを応用して、街を守る衛兵を作り出したのだ」
「衛兵が塔を攻略しないのは、そう言う事情なのだな」
ミツはうなずいた。
『いわば奴らは劣化品。どんなに強くともこの塔からあまり離れられんし、お前たちと違って害鳥どもが取り付くこともできんのだろう。塔から離れれば魔力を使えんからな。できたとしても相当に弱体化すると見た。だからこそ、害鳥どもは私たちに憑りついたのだろうがな』
『衛兵はあんまり頼りになんねえ。そのことは、この前の襲撃事件で身に染みたがよ」
シュウが眉を顰めている。
『害鳥どもにとって今はかなり深刻な状況のはずだ。何しろオリジンでは浸食率を上げることはできないからな。それどころか人間の魂を強化することにつながってしまう。奴らの目的から程遠い結果になる。この状況を変えるために食料の供給をとめることは十分に考えられる』
「オリジンの強化にはどうしても時間がかかる。それを考慮しての対策ですね。しかし、今は街での農業も盛んですし、嫉妬の人たちが海産物を手に入れてくれるから何とかなるのでは?」
楽観的な意見を言うコロに、しかしミツは首を振った。
『もしもだ。もしも街の外に魔物が出るようになったら? 今のように畑が維持できない可能性がある。そして嫉妬の連中だが、どうやら一枚岩とはいかんようだぞ』
「へ? 行けるんじゃない? 一応あのレヴィアタンとかいう嫌な奴に従っているみたいだし。一応は、統制が取れているんじゃない?」
ミツは神妙な顔で首を振った。
『魔物が人間を力で率いるというのには無理がある。我らと人間の考え方にはずいぶん差があるように思う。それに、リヴィアの護衛たちを見ただろう? あいつらはレヴィアタンに従っているんじゃない。あくまでリヴィアをリーダーとしている』
「たしかに、の。とすると奴らが割れて、食料の供給どころではなくなることもあり得ると。そしてそのタイミングで食糧の供給が経たれると問題と言うことか」
「そうか。ノドカさんたちは食料の供給が少ない中で今まで暮らしてきた。もしかしたら等の中で食糧を得る方法を知っているかもしれないというわけですね」
納得したようなコロたちに、ノドカはおろおろするばかりだった。
『おそらく、時間はもう少しあるだろう。連中には簡単に方針を変えられぬ理由があるからな。だからこそ余裕のある今のうちに、ある程度準備をしておきたいのだ』
「じゃあ、一旦拠点に戻って、みんなに確認を取ろうか。ノドカっちを連れて拠点にいくの、あたしは問題ないと思うけど、やっぱりみんなの話を聞かないとね」
「そうさの。一度陽動に出た皆を集めて話をするか。ノドカ嬢のことを紹介しておかねばならんしの。今のままではあ奴らがノドカ嬢たちに襲い掛からんとも限らんし」
そうして、会談後の方針が決まったのだった。




