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第11話 ゴブリンレイダー

 ゴブリンレイダーがアキミに近寄ってきた。


「くそ・・・。後衛を先に倒して悦に入るつもりか!」

「が、がう!?」


 アオは動こうとしたサトシを慌てて止めた。


 サトシは既にあの大剣に斬られている。なぜか石化は起こっていないが、軽い傷ではない。そんな彼がゴブリンレイダーに襲い掛かっても返り討ちに合ってしまうだけだろう。


「離してくれ! 今行かないと! 死んだら終わりなんだぞ!」

「がう!がう!」


 しゃべれないのがもどかしい。でも、今サトシを行かせてしまったらきっと彼は死んでしまう。そんなことになるくらいなら!


 アオは強引にサトシの肩を押すと、一歩踏み出した。脚に不思議な力がこもるのを感じる。


「ア、アオくん! 君だって深手を負っているんだぞ!」

「があああああああああああ!」


 間に合った。今度は間に合ったのだ! アオは一瞬にして、アキミの前に立つことができた。これなら、ゴブリンレイダーが大剣を振るう前に、一撃を与えることができる!


 右腕の爪を出す。やり方は、なぜか分かった。そして次にすることも!


 何かが、右手の爪に集まっていくのが分かる。さっき足に込めた力とも違う。なにか、根源的な力のそれは、アオの右爪に集約されていく。


「ア、アオ! 駄目! それは、あたしたちにとって大事な! 使ったらそれまでの、一つしかないものなんだから!」


 アキミの叫ぶような声が聞こえたが、かまわない! これで、あいつを倒せるのなら!


 アキミたちを、守ることができるのなら!


「があああああああああああ!」


 間合いは、まだ遠い。でも、たぶんこれでいいはずだ。まだ当たらない一撃でも、これを爪に込めることができたのなら!


 アオは思いっきり腕を振りぬいた。同時に放たれる、4本の衝撃波! 


「〇×××▲!!」


 何かを叫びながら体を反らすゴブリンレイダー。アオが放った衝撃波を避けるつもりだろう。ほとんど倒れ込むように体を反らしてく。


 4本の衝撃波が通り過ぎていった。ゴブリンレイダーを切り裂くことなく、そのまま直進していったのだ。


 アオの渾身の攻撃はゴブリンレイダーの胸をかすめただけで倒すこともできなかった。


 思わずゴブリンレイダーの顔を見ると、意外な様子に戸惑ってしまう。アオの一撃を躱したはずのゴブリンレイダーは喜色を浮かべることなく苦しみだしたのだ。


「××●●▽□!! ××●●▽□!!」


 傷口を押さえてのたうち回るゴブリンレイダー。アオはその様子を呆然と見とれてしまう。


「な、なにが・・・」


 呆然とつぶやくサトシにアオは反応できなかった。深手を与えたわけではないのに、あの苦しみ方は異様だった。


「●▽◎□×!」


 正気を取り戻したゴブリンレイダーは、すさまじい形相でアオを睨んだ。その目は憎悪にぬれていて、アオを決して許さないと叫んでいるようだ。


 だが、次の瞬間ゴブリンレイダーがいきなり飛びのいた。アオがはっとするくらいキレのある動きだった。そして鋭いまなざしで、塔の奥を睨みつけた。



◆◆◆◆



 いつの間にか。地面に一本の亀裂が走っていた。そうか、あのゴブリンレイダーはこれを避けたのか。音も気配もなく放たれた。撃ったほうも避けたほうも相当な技量だった。


「ほう。化生にしては勘が鋭いな。ふむ。なかなかの強者と見た」

「完璧に不意を突いたはずなんですけどね。かなり、できる。第1階層だからと油断せずに、慎重に行きましょう」


 そこにいたのは2人の男だった。


 一人は山のような大男だった。ずんぐりむっくりした体に、丸っこい頭が乗っている。料理人のような作務衣を纏っているのが何とも似合っている。毛は短いけど、まんべんなく広がっている。なんだか嫌な気配も濃い。あれは、アオと同じような獣の姿なのか? その顔はフェレットのようだった。


 そして、もう一人は180センチくらいの背の高いひょろりとした男だった。浴衣のような着物を着て、腰には二本の刀を佩いている。長い白髪を後ろで縛っていて、やせた顔に切れ長の目だけが妙に鋭かった。何より特徴的なのは、額に生えた2本の角だ。まるで物語に出てくる鬼のように、歪曲した角が存在感を示していた。


 異様な姿なのに、着物を着たその男からは不思議とあの嫌な気配はほとんど感じない。そのことに混乱を深めるアオだったが。


「なんであんたらが、こんなところに!」

「ワシらだけじゃないぞ。そこな魔物に皆興味津々だからのう。こいつのような特殊な魔物は上の階層でも確認されておらぬからな」


 着物の男が余裕のある態度でゴブリンレイダーを見つめている。声は静かだがなぜか自然と聞き取れた。その流し目も、まるで時代劇に出てくる侍のように様になっている。


「×▽●◇! □×◎▽!!」


 ゴブリンレイダーがうなり声を上げたが、男は動揺するそぶりもない。ゴブリンレイダーはもうアオのほうは見ていない。視線は着物の男に固定されたままだ。まるで敵はその男しかいないと思っているかのようだ。


「来ましたね」

「久しぶりの倒しがいのある獲物のようだな。ワシがやろう」


 男が静かに刀を抜いた。その姿は驚くほど自然だった。


 ゴブリンレイダーが大剣を構えた。対する着物の男は長身だがひょろりと痩せている。身長もゴブリンレイダーのほうが頭一つ分ほど大きいし、横幅は段違いだ。体重は、おそらく3倍くらいあるのではないだろうか。


 でも、アオにはゴブリンレイダーがあの着物の男を倒すイメージが、どうしても浮かばなかった。


「×●◇▽! ×●◇▽!」


 ゴブリンレイダーが思いっきり大剣を振り上げて、着物の男に突撃した。そして着物の男を間合いに納めると、大剣を勢いよく振り下ろした!


「!!!!」


 アオは息をのんだが、大剣を振り下ろした先に着物の男はいない。いつの間にか、ゴブリンレイダーの脇を通り過ぎて位置を入れ替えていた。


 ゴブリンレイダーが震えながら着物の男を振り返った。そして何か言おうと口を開いたが・・・。


 ごぷり。


 言葉の代わりに吐き出したのは、黒い血の塊だった。


 アオはやっと気づいた。ゴブリンレイダーの腰の鎧の隙間から、赤い線が走っていることに!


「が、がう?」


 ゴブリンレイダーがそれでも何とか大剣を振り上げた。そして1歩、2歩と着物の男に近づくが・・・。


 大剣を振り上げたまま、動きを止めた。大剣を取り落とすと糸が切れたように倒れ込んだ。


 粒子になって消えていくゴブリンレイダーを、アオは呆けたように見ることしかできなかった。取り落とした大剣に目を向けたまま、ぼうっとしてしまう。


「×●▽□!」

「わっ、わあ!」


 魔物のうなり声とアキミの悲鳴が辺りに響いた。驚いて後ろを見ると、アキミがゴブリンに襲われていた。


「が、がう!」


 アオが叫んだ。そして思い出した。アオが蹴り飛ばしたゴブリンの死を、ちゃんと確認していなかったことに!


 アオが倒した魔物は死体になる。粒子に変わるわけじゃないので、息の根を止めたかはすぐに確認することができない。つまり、死んだふりをすることもできるのだ。


 アオとサトシが動こうとするが、同時によろめいてしまう。2人とも怪我を負って動きが鈍っているのだ。特にアオは、すさまじい疲労が襲っていて指一方動かすことも億劫だった。


「い、いや!」

「×●▽□!」


 手で顔を守るアキミに、奇声を上げて襲い掛かるゴブリン。さすがのアキミも絶体絶命化に思われた。


 だけど、次の瞬間だった。


ばずん!


 ゴブリンがあらぬ方向へと吹き飛ばされた。一歩遅れてアキミの前に立ったアオは、見た。


 ゴブリンの首に突き立った、一本の矢を!


「え? なんで?」


 アキミは呆然とゴブリンを見つめてしまう。魔物の体が金貨と結晶になり、粒子となって門の隣のほうに向かっていく。その先には、弓を持ち、聖職者のような白い法衣を着た女性が歩いていた。


 清楚な女性だった。年のころは20代半ばくらいではないだろうか。黒く艶やかな髪をたなびかせ、微笑みながらこちらに近づいてきていた。


 あの嫌な気配は、かなり濃い。でも姿は絵みたいに幻想的で、触れられなくて。


 アオは思わず見とれてしまった。


「アンタは、正同命会の聖女! なんでこんなところに!」


 アキミの、これまでとは考えられないくらい鋭い声にも、アオは茫然とすることしかできなかった。

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