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第109話 フェイルーンたちの覚醒

『さてと。これで全員が戻ったようだな』


 現世に戻ってきた面々を前に、ミツは満足げに頷いた。アオの口を使った言葉も、なんだか自慢しているように思えた。


『ああ。リヴィアともあのくそ鳥とも話はした』


 こちらもリヴィアの口を借りたレヴィアタンだった。答えはしたもののどこか不満そうで、リヴィアが本当に同意したかは怪しいところだ。


『ふん。まあいい。最初は護衛の一人でも実験用にと思ったが、都合よく見本になりそうなのも来ているしな』


 そう楽しそうに語るミツはノドカに視線を移した。ノドカは下を向いたままピクリとも動かない。


『さて。お前らだ。お前らはフェイルーンになりながらも、まだ人の意識を持っているのだな』


 ノドカは慌てて何か言おうとするが、うめき声を上げただけだった。身振り手振りで伝えようとするが、正直何を言っているかはわからない。


「えっとね。その・・・。自分たちに、戦う意思はないって言ってる。その、仲間が襲って申し訳ないって」

『だが理性がなくなったら? また我らを襲うのだろう? 今の第1階層には街から稼ぎに来る奴らもいることだしな』


 アオははっとしてしまう。


 オリジンを身に着けた街の人たちは、少しずつ塔に来るようになった。実戦でオリジンを試しながら弱い魔物を倒しているそうだ。


 そう言う人たちとフェイルーンが出会ったら?


『ふん。何をためらっているのだ。とっとと始末すればよいだろう。どうせそいつらは失敗作。早々に見放された出来損ないに過ぎぬ。私の塔にもいたぞ。無謀にも成功例たる我らに襲い掛かってきて。無論、すべてを返り討ちにしてやったがな』


 冷たく言い放つレヴィアタン。ノドカたちは顔を真っ青にしていた。


『そう言うところだぞ。そんなだから塔の制覇に失敗するんだ。お前は本当に学ばんな。こいつらを見て出来損ないとしか思わんのか?』


 ミツはあきれたようにレヴィアタンを見ると、ゆったりとした足取りでノドカたちに近づいていった。


「! ・・・!!」

『よく、頑張ったな。そしてよく生き残った。苦境にもめげず理性を残しながら時を過ごすとは。それは並大抵の苦労ではなかっただろう』


 優しく頭をなでるミツに、ノドカは一瞬固まった。そして感極まったように、嗚咽を漏らしながら泣き出した。


『無駄ではないのだ。お前たちがここに来たのも。今まで必死で生き残ったことも。そして、私と会ったこともな』


 そう言うと、ミツはレヴィアタンを振り返った。


『なぜフェイルーンが理性を失っていくか、分かるか? お前たちの魂は他の2つと致命的に合わない。小さすぎて、弱すぎるお前たちの魂は他の魂に押されてしまう。その結果、内なる魔物の魂が、動き回れる余地が大きくなる。主導権を握ろうとあの害鳥どもと戦い、その余波を受けて、人間の魂は傷だらけになっていく』


 ミツは視線を戻しながら説明を続けた。


『耐え切れなくなった人間の魂が限界を迎えて消滅すると、終わりさ。他の2つの魂は争いはじめ、どちらが勝っても滅んでしまう。この世界に弾かれて、やがては消えていくというわけさ』

『さすがに詳しいな。魂を操るのはお前の専売特許と言うわけか。専門家気取りで忌々しい。結局のところ、人間の魂が消える前に殺すしかないだろうが』


 レヴィアタンがいらいらしたように答えるが・・・。


「オリジン、だな」


 イゾウの言葉に遮られた。ミツは心底楽しそうに笑った。


『そう! 人間の魂が他の2つによって傷つけられるなら、簡単には傷つけられないくらい強くなればいい。オリジンを強化することは魂を強くすることにつながる。人間の魂を強化すれば他の2つに圧迫されて傷を負うこともない。理性を保てなくなることはないわけだ!』


 ノドカは体を震わせた。そんな彼女の頭を、アオの虎の手ががっしりと掴んだ。


『私にはわかるぞ。成功した2つの塔がどのようにして力を手に入れたかがな。支配したのではない。保護し、唆したのだ! 〈高慢〉は天族が人間を包み込むことで、〈憤怒〉は魔族が人間を唆すことでここで生きる力を手にした。だが、私は違う。私はお前たちの力を引き出すことで均衡を作る!」


 アオの体が震えだす。ミツが、魔力を展開したのだ。


『こいつらの魂を刺激するのはアオにはまだ早いな。傷つき、消えそうなこいつらの魂を刺激するのだ。繊細な力加減が必要になる。アゲハですらも失敗するだろうな。だが!』


 ノドカが大きく体を震わせた。ミツが手を離すと糸が切れた人形のように座り込み、放心したように虚空を見つめだした。


『視界が変わっただろう? それが私たちが見る世界だ。今のお前にはわかるはずだ。自分が持つ魔力が。そしてこの世界が、どれだけ魔力で満ちているかがな。少しだけ力を分けてやる。思う存分、感動を伝えるがいいぞ』

『え・・・、あ・・・』


 ノドカは無表情で自分の手のひらを見つめていた。そしてそっと周りを見渡すと、放心したように頷いた。


『わ、わかります・・・。世界が、変わった? 私の身体からも、皆さんの身体からも何かオーラのようなものが溢れ出ている。そして、周りにも漂っている。これが、魔力なんですね』

『覚醒さえすれば見ることができるからな。お前自身の力だけあって、最初はものすごく弱い。だが、鍛えれば使えるようにはなるだろう。そうすれば、他の2つに支配されることはなくなる。私やケイが手を加えれば、イゾウたちのような姿になることも可能だ。ここからはお前たち次第ではあるがな』


 ふんぞり返るミツだった。


『それが、お前の力か。なるほどな。魂を刺激して強引に覚醒させるというわけか。さすがの我も魂を刺激するなどできぬ。魂を汚すのには肉体にも大きなダメージを与えねばならぬからな』

『そうだ。目覚めかけた魂を刺激できるのは私か、眷属たるアオとアゲハだけだろう。ただし、目覚めた人間たちの魂がお前の言うとおりにするとは限らんぞ』


 ミツは話しながら他のフェイルーンにも魔力を流していく。よそ見しながら、他に気を取られているはずなのにそれでもあっさりと目覚めさせていくのはさすがだった。


『さて。次はお前たちの番だな。 覚悟はいいな? 今までとは違う世界を見ることになる。スペシャルのように、熟練した力というわけではない。だが、これを鍛えて自分を失うことはないだろうな。10年の研鑽を生かすのは難しいかもしれんが、まあやれるだけやるがいいさ」


 ふんぞり返って言うミツが、悪魔のよう見えたのだった。

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