第107話 フェイルーンの襲撃
「がう?」
「おお! アオ! 起きたか! 敵襲だ! フェイルーンが徒党を組んで襲ってきた!」
イゾウが刀を振りながら叫んだ。
敵の姿は異様だった。上半身がゴリラで、下半身が人間の化け物。人間と獣が乱雑に混じったその姿はフェイルーンに他ならなかった。
「う、うわっ! くっ!」
「がう!!」
叫び声を聞いてアオは駆け出した。そして、コロに近づいた獅子の頭を持つフェイルーンを殴り飛ばした。ウェヌスを運んでいたコロがほっと一息ついたのを見て、アオも安心してしまう。
「アオさん! すみません! くっ! 何でフェイルーンがこんなところに!」
コロの言うとおりだった。
フェイルーンは第2階層で見かけたはずの魔物だった。第3階層でも現れたそうだが、第1階層には現れていなかった。環境が違うから階層が違えば出現する魔物も変わってくる。フェイルーンは特殊な魔物だが、それでも第2階層と第3階層にしかいなかったはずなのに!
「アオどの! よし、リヴィアたちも無事だな! 暴食の方たちに協力して、この場を守ろうぞ!」
「はい!」
アレックスたちの動きも素晴らしかった。3人の護衛が連携してリヴィアたちを見事に守ってくれていた。
彼らが強力なアビリティを使っているのは気になったけれど。
「があああああああ!」
「アオ! 気をつけよ! こ奴ら、今まで見たことがないくらい強い! 簡単には倒せぬぞ!」
イゾウが下半身がうろこだらけのフェイルーンを斬りながら叫んだ。倒せたようだが、フェイルーンは傷だらけで、一撃を与えるまでに相当の手間がかかったように見える。
「ぐおおおおおおおおおおお!」
叫び声に、アオはびくりとなった。増援のフェイルーンが現れたのだ。
アオは焦った。
倒すことは、できる。
イゾウは強い。コロだって、長年イゾウの教えを受けていただけあって、戦闘力は相当なものだ。第2階層に現れる魔物など敵ではないだろう。リヴィアの護衛たちもこの世界で10年以上戦ってきただけあって立ち回りは見事だった。
「ぐおおおおおおおおお!」
「くそっ! 眠っておる人間を狙うなど!」
だが、フェイルーンが狙ってくるのは気絶した人間ばかりだった。そのため、コロは戦いに集中できず人を助けるのでやっとだった。
「こんなことになるならカイトくんたちを連れてくるんだった!」
「コロよ! 弱音を言っている暇はないぞ! 一匹でも多くフェイルーンを仕留めるのだ!」
イゾウが増援と切り結んだ、その時だった。5体ものフェイルーンが、いきなり出現したのだ。
「くそっ! また増援か!」
「そ、そんな!」
イゾウが吐き捨て、コロが悲鳴を上げていた。
アオも駆け出していた。仲間やレヴィアタンの使者がフェイルーンによって傷つけられるかもしれない。せっかくの会談を、こんな形で血に染めさせるわけにはいかないのだ。
しかし、次の瞬間だった。
「ぐるるるるる ぐるるるるる!」
「「「ぐぎゃあああああ!!」」」
新たに現れた5体のフェイルーンが、こともあろうに同士討ちを始めた。新たに現れたのは、いわゆる獣人のようだった。竜のような女性を中心とし、キツネやタヌキ、ウサギにクマのような顔と動物に、申し訳なさそうに人間が混じっている。毛むくじゃらの姿をした彼らは、イゾウたちを避けるように動き、その他のフェイルーンたちを襲い始めたのだ。
アオはあっけにとられ、戦いを始めたフェイルーンたちを呆然と眺めていた。
やがて、すべてのフェイルーンが倒された。
敵は粒子にならず、死体が残ってしまう。あまりの出来事に、アオは敵地にいるにもかかわらずあっけにとられてしまった。
「ぐるるるるるる」
あの半竜半人のフェイルーンが何かを言っていた。だけどアオたちには何を言っているかわからない。何かこちらに呼び掛けていると思ったのだが・・・。
「が、がう!! がうがう!」
呼び止めたつもりが、出てきたのは叫び声だけだった。悔しさを感じつつも、何とかコンタクトを取ろうとイゾウを仰ぎ見た。
イゾウと目が合った。それだけで何かを察したイゾウはアオに頷きかけると、あのフェイルーンに話しかけてくれた。
「すまぬな。助かったぞ。おかげでこちらも怪我人を出さずに済んだ。だが、お主らは何者なのだ? お主らフェイルーンは、ワシらを襲う魔物ではなかったのか」
声を掛けられたあのフェイルーンは、驚いた様子だった。何とか声を掛けようとしたが、やはり言葉を掛けられない。
アオたちが途方に暮れそうになった時だった。
「そのフェイルーンは、自分たちに危害を与えるつもりはないって言っている。自分たちは敵じゃないって必死で訴えているよ」
振り返った先にいたのはアキミだった。気絶から目を覚ましたアキミが、頭を押さえながらそう翻訳してくれた。
フェイルーンたちは、アキミの言葉にこくこくと頷いたのだった。
◆◆◆◆
「目覚めてびっくりだね。せっかくあたしの中の魔物と話すチャンスだったのに。でも心配だったからすぐアオを追いかけちゃった。フェイルーンとは何度も交戦したけど、しゃべれる固体なんて初めて会ったわ」
頭を押さえたアキミは、うんざりしながら吐き捨てた。
絶妙なタイミングだった。アキミが目覚めてくれたおかげで、フェイルーンたちの言わんとしていることをくみ取ることができたのだから。
「アキミよ。そのフェイルーンは何と言っておる?」
「自分たちはあなたたちを襲うつもりはないって言っている。ここに来たのはそいつらを追ってきただけで、あたしたちの邪魔をするつもりはないってさ」
今日はフェイルーンたちの言いたいことも分かるらしく、アキミは彼らの言いたいことを通訳してくれた。
「えっと。戦う気がないのは分かったけど・・・。え? マジで?」
はじめは微妙な顔をしていたアキミだが、その表情が暗いものへと変わっていく。身振り手振りで話すフェイルーンの言葉に、何かを感じ取ったようだ。
アキミは考え込み、申し訳なさそうな顔になった。
「どうした? この者たちに何を聞かされた?」
「えっとね。この人たちも言ってるんだ。自分たちは元日本人だって。1年くらい前に気づいたらここにいた、赤堤市の住民だってさ」
アキミの言葉に、アオは思わずフェイルーンたちを見つめたのだった。




