第104話 アゲハの謝罪と会談と
「うわ・・・。なにこれ、口の中で溶けてる! みっちゃんのお菓子も悪いもんじゃないけど、味が段違い! まさに高級品って感じがするんだけど!」
「あ、アゲハ! 落ち着いて! 料理は逃げたりしないから」
かき込むように料理を食べるアゲハを、ウェヌスがたしなめている。ミツの依頼をこなしたアゲハは、街の魔線組が持っている家でコロの料理を平らげる権利を手にしたのだ。
「えっと。それでリヴィアさんから連絡はあったの?」
「まあな。会談に応じてくれるってさ。爺さんからアオに連絡してもらって日時を調整したんだ。来週に塔の中で会談する予定になった。当然俺も行く。嫉妬の連中との会談は気になるからな。で、嬢ちゃんはどうする?」
シュウが尋ねると、アゲハは食事の手を止めた。
「私はパス。今回は働きすぎた。しばらくは引きこもる。部屋でゴロゴロしたい。私がいなくてもお兄さんがいるなら大丈夫でしょうし」
「アゲハ」
ウェヌスに鋭く呼ばれると、アゲハは視線を反らした。そして溜息を吐くと、改めてシュウのそばに移動していった。
「な、なんだよ」
「ごめんなさい」
深々と頭を下げたアゲハを、シュウは茫然と見つめてしまう。
「お、おう。おう?」
「いや私、この前変なこと言ったじゃない? じろじろ見るなとか私が減るとか。あとでウェヌスにも叱られたから、一応謝罪しておく」
素直に謝罪されてシュウは気まずい思いをした。
「いやな? 俺はそんな改まって」
「一応、悪かったとは思っています。おじさんはあの気に入らないカーターをそれでもかばったまともな人だし。ウェヌスにはいつも街でがるたんを買ってきてもらってるから、一応言うことは聞いておこうと思って。はい終わり!」
照れたように言うアゲハに、シュウは苦笑してしまう。
「アゲハちゃんもがるたんを集めてるのか?」
「へ? 存在感薄いくせに、あんたがるたん知ってるの?」
急に話しかけてきたタクミにアゲハは目を丸くした。
「俺は妹の影響でね。一緒に公式グッズとか集めてたんだ。こっちにきて驚いたよ。まさか、お菓子の景品ががるたんに出てくる動物なんてさ」
「ねっ! びっくりだったよ! こっちにそういう工作が得意な人がいて、お菓子が売れるように手作りでフィギュアを作ったんだって! クジラのクゥちゃんまで出てるんだから! 私、あとウサギのササラが出ればコンプリートなんだ!」
急に話しかけてこられたのに、アゲハは楽しそうに答えていた。がるたんとは日本で放映していた動物が出てくるアニメで、アゲハはそれを熱心に見ていたらしい。
「いいなぁ。俺、街に来るたびに勝ってるけどかぶりばっかなんだよね。主人公のガルルとかはもう5体もあるんだぜ? それよりも知ってた? リヴィアさんもあのアニメを知っているみたいなんだよ。聞いてみたらがるたんの話で盛り上がってさ」
「やっぱり! あの赤いブレスレット、7話でガルルがタタンに渡したやつをモチーフにしてるよね! しっぽみたいな形と赤い毛皮みたいで、もしかしたらって思ったんだ! そうかぁ。海外でもがるたんは人気なんだね。今度聞いてみよう」
アゲハは楽しそうに語ると、てんぷらをおいしそうに食べ始めた。「ほんとサックサク」とかつぶやいていて、その姿をタクミが優しく見守っている。
そんな彼女に、コロは追加の料理を持ってきた。
「天ぷら、おいしいでしょう? 〈嫉妬の塔〉からの入植者は水を扱える能力者が揃っているらしく、漁がうまい人が多い。海産物が多くなって、おいしい魚を仕入れやすくなったわけです」
「いろんな魚を取れるようになったってことかぁ。あいつらもむかつくやつらばっかりじゃないってことね」
アキミがそんなことを言った。どうやら彼女はアゲハに謝罪していないカーターを許していないらしく、嫉妬の連中には辛辣だ。
「お前の気持ちは分かるけどよ。もういいんじゃね? リヴィアからは謝罪があったんだろう?」
「カーター本人から謝られたわけじゃないからね。あたしは認めないよ。アゲハちゃんに直接謝るまで。護衛隊長をクビになった今は、そんな余裕はないと思うけど」
あの戦いで、リヴィアは護衛隊長のカーターを解任し、シュウやアゲハに直接謝罪をしてきた。彼女は部下が失礼なことを言った態度を背負う気で、シュウだけでなく魔線組の2人や正同命会の2人にも繰り返し謝っていた。さすがのアキミもその態度に申し訳なさを感じたようで、彼女のことだけは許すことにしたらしい。
「昨日、夢でみっちゃんが言ってたけど、会談は塔の中で行うらしいよ。第1階層に川があるらしいよね? そこで落ち合いたいみたいなことを言ってた。そのほうが向こうは安心するだろうからってね」
アゲハの言葉に、シュウはごくりと喉を鳴らした。
「お、おい! レヴィアタンの能力って、確か」
「そう。水と同化し、水を操るって能力らしい。水に魔力があればあるほど、強力な魔法を使えるらしいよ。弱体化した今のレヴィアタンでも川の水をすべて操ることだって不可能じゃないだろうって。相手に有利な場所を指定するなんて、みっちゃんもなかなかやるよね」
ご飯をかきこみだしたアゲハに全員が絶句していた。
『さ、さすがはケルベロス様。まさか相手が有利になる場所を指定するだなんて・・・。これが魔王の余裕と言ったところですか』
「自分だけ有利な場所を指定しないのはやっぱり何としても伝えたいことがあるのかもね。レヴィアタンが来なければ元も子もないし」
驚愕している様子のエスタリスと神妙な顔のアシェリが話し合っている。
「俺たちも行くけどいいんだよなぁ? リヴィアとアポを取ったのは俺たちだ。当然それくらいは頼むぜぇ? 魔王同士の会談には、かなり興味があるからなぁ」
「まあ、前回は私の出番はほとんどなかったですけどね。スマホをうまく使えばでこっちの言葉が分かるようになるだなんて予想外でした」
溜息を吐いたヤヨイに、シュウはちょっとだけ申し訳なく思ってしまう。確かにスマホのおかげで出番はなかったが、通訳の彼女がいてくれて安心だったのも確かだ。
「みっちゃんは邪魔しなければ会談に来るのは構わないって言ってたよ。正同命会の2人も来てもらうってさ。でも、伝言があった。来るのは構わないけど、覚悟はしろって。自分の内面と向き合うことになるからって」
アゲハの言葉に、思わず顔を見合わせたシュウたちだった。
こうして、レヴィアタンに会いたいというミツの願いはかなえられることになったのだった。
◆◆◆◆
ところ変わって、アパートにいるアオたちだった。アオたちは会議室で今後のことを話し合っていた。
「会談は7日後か。行きなれた第1階層とはいえ、邪魔が入らねば良いが」
「がう・・・」
予定が決まっても不安は尽きない。会談が無事に行われるのか、またレヴィアタンはどのような反応をするのか。アオは緊張で今から心臓が破裂しそうだった。
「当日はワシらも出るぞ。と言っても会談に参加するわけではない。お前らの話し合いに邪魔が入らぬよう、周りを警戒する予定だ」
「私たちは第2階層を見て回るつもりよ。こっちが動いているって印象付ければ、多少は他のパーティーをごまかせるから」
「僕らは第3階層ですね。慣れていない階層ですが、情報はあるし、まあやってみます。ちょっと不安はありますけど」
どうやら当日は、みんなは陽動に出かけるらしい。
「大丈夫。きっと大丈夫よ」
ケイが言ってくれたが、アオの不安は消えない。
「おそらくだがな。ケルベロスは指摘するつもりなのだろう。レヴィアタンが陥った、その落とし穴というヤツをな」
「レヴィアタンが陥った落とし穴、ですか?」
パメラが聞くと、イゾウは静かに頷いた。
「幸運にもワシらは今回、憤怒と嫉妬の探索者に接触することができた。塔の攻略に成功した探索者とそうではない探索者の両方にな。両者の違いは何だと思う?」
「えっと、何ですかね。ちょっとわかんないです」
イゾウは腕を組んで外を見た。
「おそらくな。おそらくその違いは大きいのだ。当然ケルベロスはそのことを理解しておる。そしてワシらを導いた。奴にしか行えない方法で、塔を攻略しようとな。まあそのことに問題はない。それは、決してわしらに不利になる話ではないからの」
そう言うと、イゾウは静かにアオたちを見つめた。
「いいか。〈憤怒〉と〈嫉妬〉の違いというヤツはな」
そしてイゾウは自分の考えを話し始めたのだった。




