第100話 スラムでの待ち合わせ
「しっかし。ついに嫉妬の奴らとご対面とはな? まあ、いつかは会う機会もあると思ってたけどよ」
「時はきた! って感じだね。外人と話すのって初めてだし。うちの市はそこまで開放的じゃなかったからね。大学にも留学生とかほとんどいなかったし」
シュウのボヤキに、ちゃんと相手をしてくれるアキミだった。
嫉妬からの使者にコンタクトを取るということでシュウが指揮を執ることになったのだ。コロとフジノの買い出しに行くのについていく形だが、アシェリに加え、ユートパーティからエイタとタクミが参戦している。
「えっと、嫉妬の連中はスラムの隣に住んでいるんだよね。スラムにも事務所を構えていたりするとか。そこに行けばコンタクトを取れるとか」
「そうだぜ~。昼過ぎにアポを取った。リヴィアが直接会ってくれるってよ」
急に会話に入ってこられてアキミは飛び上がった。
「びっくりした! え? ヨースケさん? なんで?」
「うちの頭が言ってただろう? なんかあったら力になるってよぉ。ま、嫉妬の連中のバックにいるのはうちだからなぁ。話をつければ会ってくれるってわけさ」
「私は留学経験もありますからね。英語の通訳ならお任せください」
いつものごとくにやにや笑いをしているヨースケと不健康そうなヤヨイだった。今回の件のためにアキミが魔線組に連絡したが、まさかこの2人が来てくれるとは思わなかった。
「通訳してくれんなら正直助かるが、でもいいのか? お前らも忙しいんじゃねえのか?」
「俺たちはよぉ。塔の攻略は一休み中でなぁ。オリジンをいろいろ試しているのさぁ。それによぉ。お前たちがあの連中とトラブルにあったら目も当てられないからよぉ」
「私たちが連中に喧嘩を売るとか言ってんの?」
不機嫌そうに言うアシェリに、ヤヨイが溜息を吐いた。
「ヨースケ! 言葉が足りない! すみません。そう言う意味ではないんです。嫉妬の人たちは友好的な人ばかりではないので。リヴィアさんは落ち着いた方ですが、それ以外の方はどこか好戦的で。こっちの漁師ともめることも多いんです」
「あいつらよぉ。逃げてきたくせにどこか俺たちを下に見ている気がすんだよなぁ。アビリティも全然使わないくせによぉ。銃みたいな武器をこれ見よがしに見せびらかしやがって」
2人の話を聞いてシュウは怪訝な顔になった。
「連中はそんな感じなのか? 話によると連中のアビリティには『はずれ』がないらしいけど」
「そうなんですけどね。『水刃』や『風弾』など、全員が戦闘に役立てる、いわゆる”当たり”のアビリティを持っているのは確認しました。ですが、あんまり使っていないんですよね。一日に使う回数もなんだか自分たちで制限しているような。今回はその理由を調べられればと思っているんです」
ヤヨイが思案顔になって答えてくれた。
「優越感と恐れを同時に感じるんだよなぁ。連中からはよぉ。ま、会えばわかると思うぜぇ。大将たちは買い出しに行ったんだろ? その間にサクッと済ませちまおう」
「ちょっと待ってくれ。あともう一人と合流する手はずになってんだ。スラムの広場で落ち合う予定になっているからよ」
◆◆◆◆
スラムの広場に着いた時だった。
「一人でできるし! あんたたちのフォローなんていらないって何度言わせるのよ!」
「そんなこと言ったって、アゲハがちゃんと挨拶できるわけないじゃないか! この前だって道を聞いてきた人に全然答えられなかったし!」
「そうだぜ、お嬢ちゃん。苦手なことがあるのは何も悪いことじゃねえ。最初だけは俺たちがうまくフォローしてやっからよ」
広場にいた3人組がそんな話をしていた。
憤る十代前半くらいの、肌の色が異様に白い少女だった。そんな彼女を、牛のような角を生やした大柄な少女と茶髪の美青年がたしなめている。シュウの後ろでヤヨイが「うっ」と息を飲んでいた。
「正同命会の、トゥルスとウェヌスか。まさか、こんなところで出会うとはな。ネプトゥよりは全然話ができる相手だけどな。それよりも、あの子・・・」
苦笑いするシュウと鋭い目を向けたヨースケだった。そんな彼らを追い抜いて、アシェリがずかずかと進んでいく。
「ウェヌスさん!」
「あ! アシェリ姉さん! え? もしかして姉さんが、アゲハの待ち人ですか?」
ウェヌスは驚いたようにアシェリと少女を交互に見ている。まさかの邂逅に、シュウもアキミも驚きを隠せない。ヤヨイなんて、心底驚いたように目を見開いていた。
「お、お嬢ちゃんが、アゲハか?」
「ん? じろじろ見ないでくれる? 減るから。おっさんに見られたら大事な私が減るから。敬意をもってアゲハ様って呼んでくれてもいいのよ?」
にやりと笑うアゲハに、全員が絶句していた。
「ちょっとあなた! 初対面の人に、何て言い草・・・」
「そうですよね! あなたみたいにかわいい子にそんなことするなんて大人の男っていやですよね! 分かります! ええ! 分かりますとも!」
怒り出すアシェリを遮るかのようにヤヨイがアゲハに詰め寄った。唖然とするアシェリに、呼びかける影が一つ――。アシェリの服の中に隠れたエスタリスだった。
エスタリスは怯えたように身を縮こまらせている。
『アシェリ・・・。あの子に、近づいたら、駄目ですわ。あれは、いけない。ケルベロス様が、私たちの護衛にと選んだ理由が、分かりましたもの』
「おいおい。しゃべるハトとは面白いもん飼ってんじゃねえか」
ヨースケがそっとアシェリに話しかけた。声を掛けてきたヨースケは、しかしいつもの様子とは変わっていた。ニヤニヤ笑いは影を潜め、視線はアゲハに固定されている。
「珍しいもんを見た。まさか俺が、ハトと同じ意見とはなぁ。正同命会の奴らのこととか、全部ふっとんじまった。あのガキは、やべぇ。俺たちが全員でかかっても、あっという間に全滅だ。それくらいの力の差がある」
視線を離さずに言うヨースケに、シュウはごくりとつばを飲んだ。
「あの子、そんなにやべえのか?」
「俺のレーダーがビンビンよぉ。絶対に喧嘩を売るなって言っている。こんな反応したのは植草の爺さんぶりだ。そんで、それよりもまずいことはなぁ」
いつになく真面目に言うヨースケに、アキミも真剣な顔で頷いた。
「そだね。あの子の護衛が必要なくらい、この任務はやばいかもってことだね」
「単純な面会と思ったけどなぁ。考えて見りゃ、親父が直々に俺に頼むってことはそう言うことだなぁ。親父は『簡単な仕事だ』なんて言っていたけどよぉ」
そう言うと、ヨースケは汗を垂らしながらにやりと笑った。
「なんだよ。詰まらねえ仕事だと思っていたが、面白くなりそうじゃねぇか」




