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90話「勇者オーヴェ、夜逃げする!!」

 消灯後、オーヴェは一人部屋のベッドで仰向けに転がっていた。


「話が違う……」


 本来ならゲーム通り複数のヒロインにチヤホヤされながら、最強の力で魔王勢力を圧倒的無双していくはずだった。

 なのにカカコに怖がられ、レイミンに恨まれ、あまつさえ悪の教祖に設定したナッセにもボロ負け。

 自分のように女神からチートをもらった強さじゃない。逆にチートだろ。

 しかも素で強い上に、大和撫子みたいな美女と付き合っているのだという。ズルい。


「くそ」


 今度は横に寝転がる。


 この異世界でも最悪だ。移転前の世界よりはマシかもしれないが詰んでる。

 関係ない住民を殺した後味の悪さが後から燻ってきて、嫌な気持ちが消えない。

 ヒロインにも嫌われているから、元に戻れないのは火を見るより明らかだ。

 しかも魔王ヴィードが天使族に変えられて、当面の敵が消えた。


「何もかもアイツのせいだ……」


 晩飯の時にナッセは真っ直ぐな目で、元の世界の異世界へ冒険しに行くという夢を語っていた。

 しかもヤマミとリョーコと自然に談笑できる関係。羨ましすぎる。

 自分は汚れているから、そんな眩しい夢なんて今更抱けない。


「……抜けるか?」


 どうせここにいてもシゴかれるだけだろう。

 辛く苦しい努力なんてふざけてる。俺は楽がしたいんだよ……。


 オーヴェは身を起こし、夜空が見える窓を開けた。

 外は暗く冷えた風が吹いている。結構な高さだがピラミッド型なので外壁が坂になっている為、降りやすい。

 部屋へ振り返る。

 神官ゲマルが親身に話し合いしてくれた事を思い出し、申し訳なく思う。


「じゃあな……」


 魔城ピラミッドから降りて、星々煌く夜空の下で森林を駆け抜けていった。




 薄暗い部屋でナッセとヤマミがベッドの上で背中合わせに寝ていた。

 ヤマミが細目で開く。


「やっぱり抜け出したわね」

「だろうな」


 ナッセも腕を枕に呆れていた。


「捕まえなくていいの?」

「小人付けてんだろ? しばらく泳がせとこう」

「オケ」


 ちょち心配ではあるが、こちらとしては部外者みたいなものだ。

 万が一死んでも元の世界へ戻れるだろうが……。




 ようやく朝日が地平線から顔を出して、徐々に明るくなっていく。

 山頂でオーヴェはそれを見届けていた。

 雄大な山脈が連なり、コケのように緑がこびりついているかのようだ。霧がたゆたい神秘的な雰囲気にさせている。


「もう朝か……」


 一人寂しさを感じながら、疲れた気分で朝日を眺める。

 どこも全然寝るトコなくて夜逃げした事を若干後悔していた。


「日本じゃねぇしなぁ……どこ行けばいいんだ」


 異世界なので全く地理知らない。

 ナッセたちは前からこの世界を回っていたから知ってるのだろうが、頼りたくない気持ちが大きい。

 どうせシゴかれると陰鬱が胸中に押し寄せる。

 素直に従えば、少なくとも強くなれるかもしれないが、努力するなんて真っ平ゴメンだ。


 その後も行くあてもなく蛇行する山道を歩き続けていた。


「体が若くなっているから、驚くほど歩けるのにはビックリする」


 イケメン化した上に身体能力も上がっているから、ここまで険しい道を通ってきても平然としていられた。

 しかし腹は減るもの。何か食べなければ辛い。喉も乾いている。


「ステータスオープン」


 なにか便利なスキルがあるんじゃないかと手をかざす。

 しかし何も浮かばない。何度も「ステータスオープン」と発しても、元からなかったかのように開けない。


「なんなんだよ……。女神マザヴァスとナッセが言い争いしたせいかよ?」


 とはいえ、ナッセとの特訓ではちゃんと高い身体能力は発揮されていた。

 右手の折られていたはずのミラクルパタは元に戻ってるし、背中からの両翼アームも健在だ。

 ただステータスオープンができないだけ。


「このチートまで没収されないだけマシか……?」

「そこの方。迷ったのか?」


 声に気づけば、赤髪を広げたようなボサボサロングの派手な女忍者、くノ一が歩いてきていた。

 長身で胸が大きい。青い忍者服。背中に刀、腰には小刀。鼻から口を覆う青い口頭巾。


「まさか第三ヒロインのリュウシか!!?」

「む」


 名前を当てられてリュウシは目を細める。


「こんなところで会えるとは奇遇だ!! そうだ迷っている。この辺りの地理を知っているなら一緒に同行してくれ」

「……なるほど。お主がかのエセ勇者オーヴェか」

「え、エセ勇者……!?」

「来い」


 リュウシが踵を返す。それについていく。

 するとカカコとレイミンとロンナが集合していた。カカコとレイミンはこちらを見るなり驚く。


「偵察してたら、偶然オーヴェがいた」

「「あんたッ!!!」」


 身構えるカカコとレイミン。やはり敵視している目だ。

 ロンナが「話に聞いてたオーヴェ……、コイツか?」と訝しげに顔を傾ける。


「ま、待ってくれ!!! もう反省している!! 悪かった!!! さっきギルガイス王国でナッセに免除してもらったんだ!!!」

「ナッセ!!? どこ!?」

「場所知ってるのね!?」


 やはりカカコとレイミンはナッセしか見ていない。悟った。もう無理だと……。

 もう自分の事はどうでもよくなってるんだ。


「……無我夢中で抜け出したから、正確な位置はおぼろげだ」

「なんだよ……! 夜逃げしたのか!?」

「それは残念です」


 するとリュウシが背中から刀を抜く。長い刀身に反射光が流れる。


「レイミン殿の父を殺めた仇……との話だが、如何のように?」

「もういいわよ。どうでもいい。今更切り捨ててもしょうがない」


 レイミンは冷たい目でそっぽを向ける。心が痛む。


「じゃあ、俺を……殺してくれ。どうでもいいならスッパリ断ち切れるだろ。もうこの世界に未練がねぇ」


 オーヴェは左右に腕を広げて無防備に突っ立つ。

 カカコとレイミンは仰け反る。ロンナとリュウシは眉をはねる。


「ほう? 本気だな?」

「……ああ。つか生きる目的なんてねぇんだよ…………。だから殺されても文句ねぇ……」


 拗ねているのもあるが、ナッセと比べると輝かしい夢なんてない。

 すると真顔のままリュウシが刀を振り上げて、カカコとレイミンは「あっ!!」と見開く。ロンナは静かな顔だ。

 空に向けていたリュウシの刀が、一気に鋭く斜めに振り下ろされた。


 ズバッ!!!!


 鮮血が飛び散った。

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