9話「ライバルキャラを滅多打ちしちゃった!!?」
アマゾネス族を虐殺したライバルキャラである暗黒騎士ブラッドが遺跡で待ち構えていた。
レッサーデーモンをけしかけてたのもこいつ。
しかし、ナッセは激情家なので虐殺したブラッドを許せずにいられない。
「ほう、有象無象の冒険者にもオレの名前が知れ渡っているか」
「オレはナッセだ!」
鋭い目つきでブラッドを睨む。
「頼もしい戦意だ。よかろう改めて自己紹介しよう。オレは暗黒騎士ブラッドだ」
そんな一触即発なシーンを、実は高台でナセロンは高みの見物していた。
明るい顔で「はれー、面白くなりそうだね」とコーヒーをすする。
そうと知らず激情に駆られるナッセと、それを危惧するヤマミ、嬉々するブラッド。
「ちょっと! ナセロンとブラッドが戦うんでしょ!?」
「アマゾネス族だって、本来なら死なないはずだったんだ!! それを!!」
「クックック……」
ザワッと狂気の笑みを見せたブラッドが殺意を漲らせる。
「愚か者どもを駆逐すべき、黒の閃を描いて切り刻め!!! 愚滅の漆黒よーッ!!!!」
地を揺るがすほどのオーラが噴き上げられ、右手から漆黒の剣が生成される。ライバルキャラに設定しているだけあってナセロンと形状が似ている。
確か魔剣カラミティイビルソードって中二病くさい名前にしてたが、ナッセは激怒しててそれどころじゃなさそうだ。
「いいぞ!! 面白くなりそうだ!! このカラミティイビルソードも喜べよう……!!!」
ブラッドが足場を爆ぜて、突撃してきてナッセは一歩飛び退く。
漆黒の剣が遺跡の床に一直線の亀裂を入れて、破片が飛び散った。すかさずブラッドはナッセへ間合いを縮める。速い!
「フンッ!!」
「おおおッ!!!」
互い剣を振るって交差させ、周囲に衝撃波が吹き荒れる。遺跡がビリビリ震え上がるようだ。
「ナッセェ……!!」
ヤマミは危惧する。
もう頭に血が昇ったナッセはそのまま戦うだろう。ナセロンではなくナッセが倒してしまったらどうなるのか予想つかない。
「降魔・黒刃剣ッ!!!」
ブラッドは漆黒の剣を数度振るい、三日月の黒刃が飛んでいく。
ナッセは足裏から手裏剣を生成して、それを空中に固定する事で自由自在に飛び跳ねる事ができる。それで軽やかにかわすが、ブラッドが喜々と間合いを詰めていた。
「降魔・断絶剣ッ!!!」
天へ昇るほどの漆黒のオーラで振り下ろす渾身の一撃。
「こんなものッ!!!」
苛立ち込めた横薙ぎと交差し、凄まじい衝撃波で爆ぜた。
地響きとともに烈風が吹き荒れて破片を流していく。ヤマミは目を細め腕で顔を庇う。
煙幕が晴れると、ナッセとブラッドが剣を交差したまま競り合っている。
「ククッ!!! 過去最強の敵が現れて嬉しいぞ!!」
「ブラッド!!」
「さぁ!! 殺戮の血が滾る死闘を楽しもうではないか!!! ナッセェ!!!!」
喜々と殺戮を楽しむブラッドに吐き気がする。
「こっちは楽しくねぇぞ!!!!」
「つれないな!!」
バッと間合いを離れ、互いに着地。
「ここで待てば騎士ナセロンと闘えると思ったが、他にも同格の猛者と出会えたのは僥倖ッ!!!」
「おまえとは戦いたくなかったぞ……!!」
「それならいいぞ。望むならやめてやろう。ただしザイルストーン王国へ行って虐殺させてもらうとするか?」
「やめろ……」
ヤマミは切羽詰る。
ブラッドは喜々と挑発しているのだ。ナッセをその気にさせる為に……。
「虐殺して欲しいか!!? ナッセェ!!!」
「やめろォ!!! ブラッドォ!!!」
激情のままにナッセが駆け出す。
ブラッドは喜々と漆黒の剣を振りかざして迎え撃つ。
「流星進撃!!! 一〇連星ッ!!!!」
目の錯覚か、ブラッドは見開いた。ナッセの背後が天の川横切る夜景が映る。
流れ星のように軌跡が流れてくる。
それに対してブラッドは漆黒の剣を振り回して、竜巻のように漆黒の刃が幾重も放たれる。
「降魔・螺旋穿剣!!!」
幾重の刃を連ねた漆黒の竜巻と十の連撃が激しく激突し合う。相殺し合って漆黒の竜巻が消し飛ぶ。
「二〇連星ッ!!!」
すかさず流れ星のような連撃がブラッドへ襲いかかる。ブラッドも苦い顔をして、漆黒の剣をかざして黒い渦を凝縮させて全力で放つ。
「これぞ我が最大の秘奥義!! 降魔・大魔神剣ッ!!!!」
膨らんできた黒い渦から台風のように黒刃の嵐が四方八方に吹き荒れた。
絶えぬ漆黒の台風は全てを黒く染めるかのようだ。まさに最大奥義だ。
二十の連撃と激しく相殺し合って、周囲の遺跡が粉々に吹き飛ばされていく。
「フハハハハハッ!!! いいぞォ!!! これこそ愉し────」
しかし奥義さえ破ったナッセによって、ブラッドは全身を滅多打ちされた。
「が、ぐが、ぎっ、ぎあああ、があっ、ぐあ、がはあ!!!」
荒ぶる嵐のような流星の連撃が漆黒の剣さえ砕き、地を揺るがすほど完膚なきまでブラッドを叩きのめしてしまう。
容赦のないそれは肉を裂き、骨をも砕くほどだ。
「ぐがはあッ!!!」
さすがのブラッドも白目で吐血し、血塗れで沈んでいく。ドサ……!!
「あ……、やっちまった……」
ナッセはへたりこんで項垂れる。
ヤマミが歩いてきて「斃しちゃってどうすんのよ」とジト目で呆れる。
アマゾネス族の虐殺で激怒してしまったけど、落ち着いてみればナセロンがブラッドと戦う未来を自分で潰してしまった。
もう漫画と同じ展開にならない。
「クックック……!!!」
ハッと俯いた顔を上げると、流血まみれのブラッドが身を震わせながら上半身を起こしていた。
なおもポタポタ血が滴り落ちて、床に鮮血が広がっていく。
もはや戦えないほどの重傷ではあるが、殺意でギラギラする目は健在だ。
「おまえッ……!!! まさか……まだ生きていたとは……!!?」
「ハァ……ハァ……! ナッセェ、許さんぞ……!! よくもオレにここまで屈辱を味わせてくれたな……!! 殺してやる!!」
ヤマミは「ヤバいわよ!! ナッセェ!」と戦慄し、ナッセは「くっ!」と呻く。
高みの見物してコーヒー啜るナセロンは「大変だねー。アンタら」と他人事とのほほん。
「殺してやるぞ!!! ナセロン!!!」
ナセロンは見開いて口からドバーとコーヒーを垂れ流した。
矛先がなぜかそっちへ向いちゃった……。
「だが、なぜ?」
「貴様らはどうせナセロンの差し金だろう!! ヤツとつるんでいたのを見てたからなッ!!!」
ナッセとしては安心していいやら、複雑な心境だ。
勝手に勘違いしてるけど、まぁ悪くない流れ?
「今はまず傷を癒す事にする!! だが覚えていろ!! まず騎士ナセロンを殺す!!! 貴様はその後だッ!!!」
と、ブラッドはフッと空間移動か何かで姿を消した。