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89話「無双ハーレム主人公オーヴェ!! 楽したい!」

 意気投合したカカコとレイミンとロンナはナッセを追いかけるのだった。

 ナッセにはヤマミがいるというのに、彼女らは諦める様子はない。



 一方で、()魔王ヴィードの()魔城で、トレーニングに使う部屋を設けていた。

 結構広くて、頑丈な作りにしてある。

 そこでナッセが太陽の剣(サンライトセイバー)を肩に乗せて立っていた。


「ハァハァ……ま、待って待って!!!」


 息を切らすオーヴェが待ったをかけているようだった。

 汗ビッショリで、体の所々で腫れているのが窺える。


「戦闘力じゃオレと同じ一〇万だぞ? おめぇ基礎全然できてねぇ。チートもらっただけじゃ本当の強さとは言えねぇ」

「だから俺は運動も何もしてねぇよ!!! いきなりこんな事ッ!!!」

「無双ハーレムやりたいって言ってたから、鍛え直してあげてるぞ?」

「楽して無双してぇんだよっ!!!」


 オーヴェが不満全開で吐き捨てるのを見て、ナッセは困った顔で首を傾げる。


「そんなこと言ったってさぁ……」

「努力なんて無駄だろ!!! もう終わりだ終わり!!!」


 プンスコ立ち去ろうとしたら、ナッセが回り込んで太陽の剣(サンライトセイバー)を横薙ぎしてきた。


「おうわっ!!!」


 寸止めされて、腰を抜かすオーヴェ。


「まだ終わってねぇぞ。逃げようとしたら叩くからな」

「そんなんパワハラだ!!! ひっどいパワハラ!!! 暴力はんたーい!!!」

「おまえさ、住民虐殺しておいて被害者ヅラすんなよな!!」


 コツンと頭上を叩く。

 オーヴェは「痛い痛い」と涙目で頭上のコブを両手で覆う。


「そんなに嫌なら、ギルガイス帝国につき出すぞ!! せっかく嘆願して今回は大目に見てもらったんだからな!! あそこの皇帝陛下怖ぇえだろ!!!」

「ううぅ……!!!」

「本来なら一生牢獄生活だぞ!!?」


 実はギルガイス帝国に出向いて、魔王ヴィード勢力を改心させたという報告をして監視対象を解いてもらった。

 わざわざ熾天使ヴィードと天使シシカイと妖精メミィと勇者オーヴェを引き連れて深い謝罪をさせたのもある。

 数々の功績を挙げたバレンティア王太子だから、皇帝陛下も許してくれた。


「そもそも金色の破壊神による世界崩壊の企みを阻止する事が先決だしさ!! 立てよ!!!」

「嫌だあああああああ!!!!!」


 駄々っ子のように仰向けで手足をバタバタしてきたぞ。


「……それでモテモテになると思ってんのか?」

「あああぁぁぁぁああ……!!!」

「あいつらと比べて根性ねぇな」


 ナッセは深い溜息を付いた。はぁぁああ……。

 ちょい見やれば、キョウラとジャキとキルアが筋トレしていた。キョウラが真面目な性格だったのか、それに続いてジャキたちも追いつこうと頑張っている。

 金色の破壊神との決戦を前にしたら付け焼刃かもしんねぇけど、やれるところまでやらせておきたい。


 夕日になるとキョウラたちが魔城の外で長い距離を走り込んでいた。

 一方でオーヴェは一人で魔城の上でグズグズしながら、沈む橙色の夕日を眺めていた。


「ナッセは天才だから、俺の気持ち分かんねぇんだよ……」

「そうかな?」


 振り向けば神官ゲマルが歩いてきた。


「ゲマルさん……」

「ナッセ殿は奔走してるからな。さっきまで私も彼がフラフラ遊び歩きしてると思っていたもんだ。だが違っていた。世界の崩壊を食い止めようと必死に駆け回っておるのだ」

「そんなん強いからできるんだよ……」


 オーヴェはそっぽ向いていじける。


「はっはっは。お主も十分強いだろう?」

「うぐ」


 戦闘力の上ではヒト状態のナッセと変わらない。

 だが基礎の積み重ねや実戦経験でかなりの差がある。同じ戦闘力でも雲泥の差だ。


「ナッセって俺と中学校の同級生だったのに、なんで差が付いたんだろうな?」

「私はオーヴェがどんな人間かはまだ知らん。まぁナッセ殿も分からない部分多いから偉そうに言えぬが、目標があるかどうかで差が付いたとか?」

「目標……」

「そうだ。ナッセ殿は金色の破壊神の企みを阻止しようとしている。世界を守る為にな」

「立派な人間になったもんだ。そりゃ綺麗事吐けるよな。羨ましいぜ」


 拗ねたオーヴェはそう皮肉る。


「しかし……その奥に本当の目的があるようにも見える」

「なんだよそれ?」

「聞いてみてはどうだろう?」


 オーヴェは俯く。

 俺は楽して悪いヤツを無双して、女にモテモテになってチヤホヤされたかった。

 これが目標かといえば笑われるかもしれない。

 だが、これまで冴えない人生を歩んできたからこそ憧れるものなのだ。


「俺は……モテたい!!! かわいい女にチヤホヤされたい!! 恋愛してエッチして結婚して家族作って輝くような人生を歩みたいんだあああ!!!」

「その気持ち分かるよ」

「え……?」


 目を丸くするオーヴェに、ゲマルもそばに座り込む。


「若い頃は私もそんな目標を目指してたものだ。全く上手くいかなかったがな」

「ゲマルさん……」

「こんな年になって、魔王ヴィードに『部下になれ。おまえの望む世界を与えよう』と誘われたのだ。迂闊だったよ。実は利用されただけだったとな」


 遠い目をするゲマルに親近感が沸く。


「お……俺も女神マザヴァスにそそのかされたクチなんだよな……」

「だが、おまえは若い。私と違って諦めていい年ではない」


 ゲマルが励ましてくれて、心がジーンとしてくるのを覚える。

 こんな気持ちはいつからだったのだろう? 遠い昔に置いてしまった感情。

 クズな大人になってクソみてぇな生活に落ちぶれるしかなくなって、仕事ばかり追って生活を繋ぐだけしかできない無意味な人生を送り続けてきた。


「せめて私のようにならんでくれよ……」


 ゲマルがそう言いながら歩き去る時、既に夕日は沈んでおり夜空が覆いつつあった。

 浮かんでくる星々の煌きを見上げていく。




 晩飯でナッセたちが一つの長テーブルに集って「いただきます」をした。


「やぁやぁ、置いてけぼりされた斧女子リョーコでーす!!」

「おい!!」


 なんと金髪オカッパの明るい美女が新たに加わったのだ。胸も大きい。揺れる。

 しかもナッセとヤマミの知り合いらしい。

 ヤマミが「置いていったのは悪かったわよ」とバツが悪そうに視線を背けた。

 そんな黒髪姫カットの美女にもオーヴェは舌を巻いた。今まで立て込んでてちゃんと見てなかったが、凄い美女ではないか。ナッセと一緒にいるようにも見える。


「だ……誰だ!? その大和撫子みたいなのは……!!?」

「私? 言ってなかった? ……夕夏(ユウカ)ヤマミよ」

「まさかナッセ……!? いや目標とかあるのか? 破壊神の阻止以外に」

「ん?」


 ナッセがモグモグしてて、手を止めた。


「ああ。この世界から帰ったら異世界へ行って、新しい冒険するんだ」

「ここだって異世界じゃねぇか」

「オレの作った厨二くせぇ異世界じゃなくてな……、元の世界で異世界へ繋がるダンジョン通った事があるんだ。あそこ浮遊島が多い異世界なんだぞー」


 ゲマルもキョウラも思わず聞き入ってしまう。

 ナッセが語る、元の世界の事情。摩訶不思議な出来事に思わず夢中になる。

 オーヴェは感銘を受けた。


「だからか……」

「ああ。必ずその異世界を見て回るんだ。自分の足でな」


 純粋でひたむきなナッセの顔に、オーヴェはなんとなく分かってきた気がした。

 しかしナッセに大和撫子なヤマミがもたれかかって「私と一緒にね……」とドヤ顔。

 リョーコは「相変わらずねー」と二人の仲に呆れる。


「てんめえええッ!!! もげろおおおおおおおッ!!!!」


 オーヴェは羨ましくてたまらず嫉妬全開で叫んだのだった。

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