86話「元凶たる女神マザヴァスの目的とは!?」
《もろとも消えろ!!! かーっ!!! 無量尽崩壊!!!!》
女神マザヴァスは掌を向けて闇よりもなお深い闇の強烈光線を放つが、見えない壁に弾かれ続けていく。音もなく振動もない事から完全遮断されてるぽい。しばし数分も凄まじい破壊と衝撃波が流れ続けた。
世界三柱神が囲んでいて結界みたいなの張ってるみたいだ。
とはいえ、あの破壊力ヤバい!!! 銀河系ガチで吹き飛ぶんじゃないか!!!?
《威力の強弱関係なく無駄じゃよー。そういう制約じゃしー》
支配神ルーグに言われ、女神マザヴァスは怒りに満ちた顔で《おのれ……!!》と唸る。
それに対して闘神ブラッディーは薙刀のような魔剣を突き出す。
《忘れておらぬだろうな? 真に創造主はナッセ、そしてリョーコ。それを舞台外から殺傷する事は決して許されない!!》
「え? オレとリョーコが??」
ブワッと広大な両翼を広げて生命神ガーデスが近づいてくる。
《そうなのですよ。我々があなた方から生まれたキャラクターなのを自覚しています》
「マジかよ……!!?」
「どういう事!? 原住民は自覚できないはずよ……?」
《上位生命体なので、自分の出生の因果くらい認識できますよ》
ヤマミも空いた口が塞がらない。
《創造したのは、この私だぞ……!!!》
《めっ! よそのパクッて自作と言っちゃダメですよー》
《勝手に合作してオリジナルを装おうとする狡い手も分かっているぞ!!》
《そういうおイタはいけませんよ!》
世界三柱神がたしなめているけど、ナッセとしては胸が痛いぞ。
それはそうと……。
「女神マザヴァスさんが、オレたちを勝手に異世界転移したのか?」
《ぬ……!!! くそ……創造主ルールのせいで嘘偽りなく答えなければならない。確かにそうだ……。ナッセの創作を私が具現化させたのだ。そして送り込んだ》
「じゃあ、なんで私たちと会わなかったの?」
《お前には答える義務はない》
「今後ヤマミにも答えてくれ、これは創造主の命令だ」
《ぐぬ……!!! そ、それは私の仕業だと知られたくないのもあったし、チートを与えたくもなかったからな》
そういう事か……。
わざわざ「私が犯人です」って言うようなもんだからな。
それに尋問には正直に答えなければならなくなる制約もあるっぽいし。
ナッセとヤマミは目配せして頷いた。
「じゃあさ、オレたちを元の世界に帰してくれって言えばできるの?」
《もちろんこの場で帰す事も可能だ。ただし、ナッセを媒介にしているこの創造世界を自分で放棄した事になり、私に帰属されるのだ。そうなったら二度と戻せない》
「え?? そしたらどうなるん??」
《私のものになる。思い通りにできるのだ。奴隷として年中無休で働かせる事もな》
「「「「「なっ、なにいいいいいいいいいいいいッ!!!!!!!!」」」」」
魔王ヴィードを始め、邪神官ゲマルたちが口を揃えて絶叫したのだ。
「きっ、教祖さま……!!! あんなヤツの下で働きたくありません……!!!」
「あたしだって嫌だよー!!」
なんかシシカイとメミィが泣きついてきた。あんたら魔族だろ。
魔王ヴィードに至っては《いやだ……働きたくない……》とブルブル震えている。働け。
「やべぇ困ったな。そりゃ迂闊に帰れねぇぞ……」
ナッセは冷や汗を垂らして緊迫してしまう。
支配神ルーグは《ふむふむ》と感心していた。
なぜならナッセは『創造主のルール』を飲み込めているのだ。女神マザヴァスが勝手に他人の創作を具現化できる分だけ、それ相応の制約が課される。
パクリ元の作者の質問には絶対的に答えなければならない。
ただし、作者自分で放棄した場合は……。
「ちょい聞きたい。なんでオレの創作世界を具現化したんだ?」
《妖精王のような上位生命体を媒介にすれば完璧に世界を具現化できるからな。下等生物であるオーヴェのだと、かなり質が落ちる。細部までリアルに造形できない上に自由度が低く、ゲームクリアまでいくと全部消える。オーヴェ本人は元の世界に戻るがな》
「ええっ!!? そんなー!!!」
「……だから抱き合せにしたのか」
《そうだ》
憮然と女神マザヴァスは答えてくる。
「オレがここで死んだら、どうなるんだ??」
《元の世界に帰れるが、この世界は私に帰属される》
「おかしいでしょ。私たちが寿命迎えたら、どの道同じじゃない!?」
《……流石に鋭いな。創造主たるナッセが最終回と“同時刻”までたどり着く前に死んだらアウト、それが本当の条件だ》
「そうだったのか!!?」
やっべぇ!!! 確かに死んでも元の世界へ帰れるのはありがたいが、最終回前にゲームオーバーになったら自作をパクられるのだ!!
オレたちにチートを与えたくないって理由もそれか!!
「そのルールは変えれるのか!? あと世界を思ったように変えれるとか?? オレ創造主だし!!!」
《おまえの世界を具現化してるのは私だ。相互関係に当たる》
「じゃあ、なんでアロンガ魔法都市とかキャベツー港町とか知らねぇ国出てるんだぞ? おまえが創ったんだろ?」
《厳密に言えば違う。都合よく世界が勝手に生成したのだろう。こればかりは量子世界の都合だ……》
ナッセは唾を飲み込む。
もしコイツが思い通りに創れんのなら、もっと有利になるように後出しできてたはずだ。
オレより強い敵や罠をたくさん出すとか、死ぬ運命に組み替えるとか……。
「じゃあオレが無事最終回を迎えるか、その前に死ぬか……って事か?」
《そういうゲームが嫌なら降りてもいいんだぞ? きさまの負けになるがな》
「くっそ……!!!」
苦虫を噛み潰す顔をする。
「それで、今直々に現れて抹殺に踏み切ったのね……」
《そのつもりだったが創造主ルールは私も抗えんようだ。口惜しいが私は登場人物ではない……》
悔しそうな顔をしていたが、次第にニヤリと笑んでいく。
《これからチート転移者を送り出してやろう! きさまを抹殺するためにな!!》
「オーヴェみたいにか!?」
《ふっふっふ。オーヴェはあくまで尖兵でしかない。もっと強力なチート移転者をどんどん増やしてやろう。せいぜい楽しみにしておけ……》
「なん……だと……ぞ……!!!?」
切羽詰るナッセをよそに、ヤマミは笑む。
「つまりナッセが最終回まで生き残ってたら都合が悪いようね。何が起こるの?」
《グッ!! そ、そりゃあナッセに全て譲渡しなければいけなくなる! この私が千載一遇具現化した世界をなッ!!!》
「千載……オレが妖精王だから……!!?」
《そうだッ!! そうそうあるものではないッ!!! このチャンスは逃さんッ!!!!》
語気を強める様子に、女神の強い執着心が窺えた。
上位生命体を媒介に具現化するって、かなりのレアケースなので逃したくないみたいだ。
《必ず……きさまの創作世界を奪ってやるぞ……!!!!》
血眼で堂々とパクり宣言しながら、薄らと消えていった。




