81話「黒霧魔王を分からせてしまったぞ!!」
教祖ナッセと得体の知れない闇を抱えるヤマミの親しげな関係に、邪神官ゲマルは疑問を抱いていた。
以前より更に力をつけたのは喜ばしいが、こちらと女の扱いが明確に違いすぎる。
まるで女とは幼馴染の関係かのように思えてならない。
「ってかさ、シシカイ。強引に連れ戻しに来たには、よほどの理由があるのだろうな?」
「は……はい」
ビクッと竦むシシカイ。
あんな怯えた邪僧は初めて見た。いつも静かに佇む得体の知れない男で、常に監視しているような圧を感じていた。
しかし今回は逆だ。教祖さまが圧をかけていてシシカイは怯えている。
「教祖……いえ教祖さま。ついに勇者が現れたのです」
「ほう」
「話すより、見ていただく方が分かりやすいでしょう」
無口だったシシカイがペコペコ頭を下げているのだ。信じられん……。
「こちらをご覧に」
シシカイの腹辺りでローブが開かれると大きな丸い目がギョロリと覗かせてくるではないか。その目からライトアップされて映像が映し出された。
邪神官ゲマルとしても初めて見る魔眼能力だ。
「監視するに最適な能力だ。気に入った」
「そ……それは光栄でございます。では、こちらが勇者です」
映像には見た事のある町が映っていた。
ガロンナーゼ大陸の、ナセロンと一緒に初めて行った町だ。
「ただいま勇者はオブ町に着いてでございます。その緑っぽい金髪の男がそうです」
緑がかった金髪のイケメンで服装もオシャレだ。ツリ目で引き締まった顔立ち。通りすがりの女性が立ち止まるほどだ。
見覚えがない。移転者か?
「誰だ?」
「勇者は大我オーヴェのようです……」
「大我オーヴェ……そうか。そういう事か…………」
「ナッセ?」
神妙なナッセにヤマミが眉を潜めた。
「姿形は完全に別人だが、思い出したぞ。中学校の同級生だった男……」
「本来はどんな姿だったの?」
「黒髪ボサボサでブサイクのポッチャリ体型の男だよ。短気なやつだった。姿が違うという事は異世界転生したのか?」
それを聞いて邪神官ゲマルは困惑した。
あの勇者とも知り合いか、一体全体どうなっておるのだ?
「オーヴェ。彼も創作士なの?」
「いや、まだ扉を開いていない普通の人間だ。ただ中学校を卒業して疎遠になってたから、今ではもう創作士になってるかもしれない」
「中学校の同級生……。親しかったの?」
ヤマミが聞いてきたが、実は邪神官ゲマルとしても知りたい。
しかしナッセは首を振る。
「当時は友達だと思ってたさ。でも卒業後にバッタリ途絶えた。もう会う事もないと思っていたよ。他の同級生の話だと金の無心や女の紹介を欲求してたっぽい。オレは何も持ってなさそうだからスルーされたらしい」
「見せかけの友ってワケね……」
「ああ。あと彼はゲームを作ってて、やった事がある」
「自作ゲー……」
「ああ。こいつらに紹介させてから薄々勘づいていた。そしてオーヴェを見て確信した」
当時、パソコンで『RPGツクーラ』が出ていた。
オーヴェを含む中学生の友人がそれぞれ作っていたが、その大半は完成までいけなかった。
しかしオーヴェは完成させたのだ。
「間違いない『ハーレム100%クエスト』ってヤツ」
「いかがわしさが伝わって来るわ」
ヤマミがドン引きしている。
邪神官としては、何を言っているのか分からない。ジサクゲーとかアルピージーツクーラとかチュウガクセイとか意味不明な単語ばかりだ。
まるで彼らが別世界の人間ではないか……。
「もちろんオーヴェは激甘なハーレムで囲みながら魔王を倒す話が好きだった。オレもプレイした事があるんだが、各ヒロインがちょろいんだよな。すぐ惚れてくる」
「欲望に忠実な男ね……」
「ああ。いつも女にモテたくて文句言ってくらいだぞ」
邪神官にキョウラが近づいて「何を言っているのですか?」と耳打ちしてくる。
しかし分からないので首を振る。
「と……とにかく様子を見よう」
「は」
今度はジャキが「まさか勇者とグルで裏切ってくるのは?」とボヤく。
「そんな事ねぇぞ」
振り向きもせずナッセは答えてきて、ジャキはビクッと竦んだ。
教祖ナッセの視線がこちらへ向いてきて恐怖が募ってくる。
「黒霧魔王ヴィード直属のメミィとシシカイはともかく、邪神官ゲマルたちに対しては敵対しない。そこは安心しろ」
「は、はい!!」
「「「ハハッ!!」」」
畏まって邪神官と三人の黒衣包帯男は跪く。
逆に関係が看破されたと思ったメミィとシシカイは汗を垂らして絶句する。
いつかは黒霧魔王ヴィードが活動的になれば、邪神官たちは用済み。いずれは抹殺するつもりだ。
それさえ見抜かれたと恐怖するのは至極当然の反応だった。
「シシカイ、メミィ、あんたらも裏切らないよな? オレは信じているからさ」
ドクン、メミィとシシカイは動揺した。
脅迫じみた物言い。明確に黒霧魔王ヴィードと自分への忠誠心を探りに来ている。
下手に答えれば、首が飛びかねない……。
「は……。教祖さまへの忠誠に誓って、そんな事はございません」
「シシカイッ!!?」
跪くシシカイにメミィはつい声を上げる。ゾッとした。
「ん、メミィは?」
屈託のない笑みだが、目が笑っていない。
黒霧魔王ヴィードを取るか、教祖ナッセを取るか、究極の二択だ。
この場は逃げるか、とも思ったが足が動かない。きっと捕まる。本能が危険を告げている。
「教祖さま……、私めも忠誠を誓います。決して裏切らないと」
「ありがとう」
ヴオオオオオオオオオオオ……ンッ!!!!
唐突に重々しい邪悪な威圧が席巻した。
思わずシシカイとメミィはビクッと竦む。そう、この広場中心の柱の上にある水晶には黒霧魔王ヴィードさまが入られているのだ。
直属の部下が反逆の意思ありと見て、威圧で脅してきたのだろう。
「黙れ」
ナッセが柱の上の水晶を見上げて一言。
そしてボウッと高次元オーラを噴き上げて、足元に花畑を広げて純白の羽を背中に浮かせ、銀髪ロングが舞う。
周囲に凄まじい威圧が席巻して震え上がっていく。
「な……!!?」
「一体なにが!?」
「教祖さまが……天使だと……ッ!!?」
邪悪な威圧を押し返して、ナッセだけの一方的な威圧のみが残った。
明確な力の差。誰もが察した。
「次、なんかしてきたら引きずり出すぞ」
静かになった。
絶対的存在とも思えた、あの黒霧魔王ヴィードを黙らしたのだ。
そしてメミィとシシカイは明確に仕えるべき主をナッセに切り替えた。そうしなければ魔王ともども消される。
教祖ナッセさまの挙動からするに、魔王とかこの組織とか執着していないようにも見える。
どうでもいいんだ。
敢えて付き合ってやってる感じ。
その気になれば、主であるはずの黒霧魔王ヴィードを滅ぼした後フラッといなくなりそうだ。
「そういうわけだ。安心してくれ」
「「「「ははは────ッ!!!!!!」」」」
一斉に跪き、忠誠心を強固なものとした。
邪神官としては「真に使えるべき主が決まった」と歓喜に満ちていた。
三人の黒衣包帯男も同様に感激して震えていた。




