80話「またか!! 設定改変に巻き込まれてナッセ怒る!!」
巨大な水晶柱が頂点から建つピラミッドのような悪の根城……。
内部は野球ドームのように広くて天井が高い。中心の花を模した柱から水晶柱が伸びている。
まるで開かれた花から大きな実を出しているかのようだ。
ヴオオオオオオオ……ンッ!!!
豆粒のように柱の下で数人が集まっている。
「そろそろ黒霧魔王ヴィードさまの為に活動をせねばならぬ時に何ブラブラしておったのだ!!? せっかく邪僧シシカイ殿が連れ戻してくれたのだ!! もう少し教祖としての自覚を持って欲しい!!!」
邪神官らしきチビのジジイが厳かに叱ってくる。
その後ろで三人の包帯で顔とか腕とかに巻いた黒衣の男が控える。
そしてオレの後ろに佇む背の高い変な僧侶。なんかスコープみたいな丸メガネかけてて、口元まで隠した深紅のローブを着ている男。
某カードゲームの罠カードを封殺する効果を持つサイコなんとかと似ているぞ。
「あのさぁ……、なんでオレが魔王の教祖だよ……??」
「お気を確かに!! 教祖ナッセ殿!!!」
うるさい邪神官にウンザリしているのはナッセ。なんか変な黒衣、ドクロのシルバーネックレス、黒めの赤いマントを着せられているのだ。
こうしてみれば悪の教祖っぽい。
これも後ろのシシカイが魔法みてーなので着せ替えさせられたぞ。
「ナッセ!!!!」
フッと姿を現して、側に降り立つヤマミ。
思わず邪神官たちが「何者だ!!?」と身構えていく。
「おお!! ヤマミ、来てくれたか!!」
「そこの変なハゲに連れ去られて驚いたけど……!!? ってか、その格好!!」
「オレ教祖だってさ~~!!」
左右に腕を広げ、ゲンナリな顔を向けた。
やっぱヤマミなら『合引渡来』で追っかけてくれると思ったぞ。
「む!! 何奴ッ!!!」
「曲者か!!」
「……排除する!!」
「待て!!」
後ろの黒衣包帯男が三人とも飛び出そうとするところを、邪神官が腕を伸ばして制止する。
「紹介するぞ。彼女はオレの相棒ヤマミだ」
「いつの間に……。もしやスカウトをしておられたのですか?」
「教祖……、余計なヒトを連れて……!! うっ!!?」
無言を貫いていたサイコショッカーもといシシカイが殺意を向けるが、ギロッとヤマミに睨まれて萎縮して言葉を止めてしまう。
次第に震撼が包むほどに彼女の威圧が膨れ上がっていく。
邪神官も三人の黒衣包帯男も見開いてビビる。得体の知れぬシシカイさえも汗を垂らして仰け反っていく始末だ。
「オレと同等の相棒だ。機嫌を損なうなよ。それからお前ら紹介してやれ」
「「「ハハッ!!!」」」
すぐさま邪神官たちは跪く。
ナッセも僅かばかり脅迫めいた重々しい威圧がこもれ出てきたからだ。
逆らえば消し炭にされる。余計な事を言えないように黙らしてしまう。それほどの圧倒的すぎる威圧。
「……まずはこの私から自己紹介しよう。黒霧魔王ヴィードさまを崇める邪神官ゲマルと申す」
「おう。次後ろ」
「「「ハハッ!!!」」」
跪く邪神官ゲマルに続いて、三人の黒衣包帯男が命令に従う。
「私は邪闘僧キョウラ!!!」
長身の黒衣男で二本のツノが出ている。顔を包帯で覆い、額から呪印の札を貼ってある。
ただならぬ強さを秘めているのが分かる。
「僕は邪闘僧ジャキ!!!」
口に包帯。頭上から一本のツノ。隻眼で半裸男、ハチマキを巻いている。黒衣のズボン、左肩に肩当て。
見るからにスピード系。
「オデはキルアだ」
口に包帯。三本のツノを額から生やした大柄な男。両肩からトゲが生えている。
見るからにパワー系だ。
「ふふっ、面白そうな仲間が来てるようね……」
なんと闇の中から、色気のある悪の銀髪ロング美女が現れてきた。黒衣で胸元をさらけ出している。
「おまえも自己紹介してやれ」
「使いパシリの教祖ごときが、このヴィードさま直属の私が聞くと思って?」
「……イヤか?」
語気を強めたナッセに睨まれ、ゾクッと悪寒に襲われて震え上がっていく。
彼女はガクガクしたまま、びっしょり冷や汗を垂らしていく。
知っている教祖とは別人のように微温い雰囲気で弱そうに見えてしまった。だが思い違いだった。黒霧魔王ヴィードさま直属の幹部シシカイまでビビっているほどの、重々しい威圧。
「あ……ああ……ッ!!!」
「オレは教祖“さま”だろ? 逆らうのなら……今消えるか?」
「失礼しました!!!! 教祖さま、先ほどのご無礼をお許しくださいぃぃ!!!」
命乞いするように跪いて頭を垂れる。
「よい。頭を上げよ。名はなんと申す?」
「ハッ!! わ、私は邪聖女メミィでございます!!!」
「……それでいい。二度と舐めた口をきくな。次はないぞ」
「ハッ!! その寛大な御心に感謝致します!! いかなるご命令も聞きましょう!! 死ねと言われれば喜んで死にましょう!!」
「お、おう……!?」
ガタガタ震えながらメミィは目の前の教祖ナッセに畏怖するしかない。
いつから突然力を増したのか与りしれない。これではまるで魔王クラスではないか。邪悪な気は全く感じないのに、この場を制圧するほどの圧倒的威圧は教祖さまに相応しい。
気のせいでなければ、黒霧魔王ヴィードさまよりも…………。
「さすがですな。教祖ナッセさまは以前よりも遥かに力を増しておる」
邪神官ゲマルは恐れつつも感嘆を漏らしていた。
三人の黒衣包帯男も「ああ」と頷く。
「それからシシなんとか!!! 余は教祖であるぞ!! 大事な用があって外を回っておったのだ! よくも断りもなく連れて来おったな?」
「く……!!! むむ……ッ!!!」
オレが睨むように振り向くと、シシカイはガクガク震えている。
「お主もヤマミに紹介せよ!! これは絶対的命令である!!」
「……わ、我は邪僧シシカイでありますぞ……」
「さて、断りもなく連行した無礼……、どうしてくれようか?」
「す、すみません…………!!!! お……お許しを……!!!」
恐怖に耐え兼ねて、土下座に等しいほど跪いた。
「二度と余の機嫌を損なうような真似をするな。次はないぞ」
「肝にめい……じます!!! どうかお許しを……!!!」
「うむ」
黒霧魔王ヴィードさま以外には決して頭を下げぬつもりだった。
教祖を含めて邪神官たちの監視をして、どれだけ奉仕できたか目を光らせているつもりだった。
なのに……今回の教祖はおかしい……。
あのふてぶてしいメミィすら畏まって頭を下げているほどだ。
「ナッセなんなの? 魔王にでもなったつもり?」
「いやぁ……。一度はやってみたかったんだぞ。なんつーかすげースッキリするぞ」
「全く」
困惑してくるヤマミに、苦笑いを向けた。
威圧が収まって嘘のように静まる。が、解放された邪神官たちは未だ動けずにいた。
「ともかく、また合作してきた!! 何者かの移転者によって!」
「そのようね。こいつらも以前は存在しなかった」
「……ああ」
リョーコの時みたいに、唐突と立場が変わって舞台が切り替わってしまった。
ナッセは悪の教祖として据えられ、さっきまで存在しなかった黒霧魔王の勢力が現れた。そして前から存在していたかのように世界に組み込まれた。
「くっそ迷惑だろ!! いちいち設定改変されちゃな!!!!」
ナッセは苛立った。




