74話「敵の切り札!! それは『娑路院(サルイン)』!!!!」
七つの魔王に昇格される前のダクメーアとルルナナは、妖魔界で魔貴族として生まれ育ってきたが、四魔貴族の体たらくに軽蔑を覚え、離脱した。
ダクメーアの不死身は、夜の魔力が満ちていなければ発揮されない。
しかし、不老不死さえ発揮できれば絶対無敵になったかのように、いかなる攻撃も通用しなくなるチートだ。
そんな不死に魅了されたルルナナは、永遠の夜を築ける『深淵殿造』の使い手。
「貴方を永遠の夜で包んであげるわ」
彼女さえいれば、ダクメーアは永遠の不老不死を発揮できる。文字通り包んでくれたのだ。
二人は手を取り合い、二人三脚で己が道を行く事になった。
ガチ永遠に…………。
しかし同時に懸念するべき事があった。
「もしも、それさえ通用しない敵が現れたら……?」
「そんな事はありえないわ!!」
「永遠の時に甘んじた四魔貴族を見てきただろう? あれでは不測の事態で一気に壊滅するぞ。そのように、いつかは万が一の敵が来る。その時になったら永遠が途絶えかねん」
「ううっ!! それは嫌よ……!!」
見本として四魔貴族を見てきたからこそである。
もしも彼らが絶対的で万能であれば、軽蔑して離脱しようなどと考えなかっただろう。
ダクメーアとルルナナは現状に溺れて驕れることなく、万が一にも全力で取り組む。
「我はルルナナと永遠に一緒にいたい」
「私もよ……、お互い強く美しく永遠にありたい……」
それで出した答えがこれ。
「「『威伏盛装』!!!!」」
不死霊王ダクメーアと月夜の悪夢女王ルルナナの『深淵殿造』が合体して、攻撃に特化した形態。
本体である全裸状態のダクメーアとルルナナを擁する、高次元オーラで包む巨大な虚像が天高く聳えた。
ズズズズズ……!!!
巨大すぎる剣を携え、頭上中心に人面満月が付着し蝶のような変な髪型と長すぎる両モミアゲ、綺麗に整ったイケメン、赤い炎を模したようなローブ。
そして長年溜め込んだ魔法力をもって、短時間だけ一〇〇万オーバーの戦闘力を発揮できる。
これこそ二人が練り上げてきた最強形態。その名も……。
「「幻邪神・娑路院!!!!」」
なんか見た事のある風貌に、リョーコは背中に突き刺さるナッセとヤマミの視線が痛く感じた。
そう、設定集通りに二人の最強形態はとあるゲームのラスボスをパクっているからだ。
「見た事あるビジュアルはともかく、一緒に戦った方がいいかぞ?」
「そうね。今度、そのラスボスがいるゲームをやりたいから生き残らなくちゃ」
「あーもー!!! 当てつけのように言うなー!!! 気にしてんだからー!!!」
ナッセとヤマミとリョーコが漫才のように掛け合いするものの、現状では最悪である。
なにしろ戦闘力一〇〇万オーバークラスには三人が束になってかかっても勝てないからだ。
だから本来なら、そんな余裕などないはず……。
「太陽が如し魂を具象化せよ!! 天照大神斧!!!」
リョーコが翳した手に神々しい日章の紋様が走った大きな戦斧が具現化された。
それをダークメアとルルナナは察した。
対魔族特攻となるチート武具。そして魔貴族の『深淵殿造』や『威伏盛装』を破れるであろう効力を備えている。
そもそもリョーコ作の設定なので、敵となる魔貴族に通用する手段を考えてても不自然じゃない。
「笑止!!!」
「愚かの極み!! 例え、それが我らを破る手段なれど、あなたはせいぜい戦闘力一〇万そこそこの下等生物。むしろ妖精王になれるナッセとヤマミの方が三倍くらい強いわ」
見せつけるかのように、娑路院は巨大な長剣を横薙ぎに振るう。
ズガオオオオオオオオオオッ!!!!
なんと向こうの山脈が上下両断して、更に吹き荒れる烈風で粉々に吹き飛ぶ。
地響きが激しく、あちこち大地に亀裂が走っていくほどだ。オロナーン大陸が震え、遠くにいる大勢の人々が突然の烈風と地震に戸惑い、恐怖を帯びていく。
周囲の大海が騒ぎ、荒れ狂う津波がうねる。ズズズズズ……!!!
「……大丈夫かぞ?」
「それに加えて、恐らく不死身の設定もあるんじゃない?」
吹きすさぶ烈風の最中、ナッセとヤマミは前にいるリョーコに呼びかける。
しかし彼女は振り向かず「大丈夫!!」と一言。
リョーコはナッセたちとともに『万物の墓場』でアレを済ませた事を思い出す。
満月になる『永遠の楽園』までの猶予を使って、ホワイデー王太子ソロアからもらった『証』を使った。
これはナッセが考えたという対魔族専用のアイテム。
「あたしは斧女子として世界に知らしめてやるんだからー!!!」
一貫とした目的を叫ぶと、それは成功した。
証が砕けるとともに、パワーアップシステムが彼女にダウンロードされたのである。
絶対的威圧を漲らせて、周囲に震撼を与え続ける娑路院を前に、リョーコは自信満々と笑む。
スッと天照大神斧で構える。そして──!
「クラスー!!! チェンジッ!!!!」
リョーコは高らかに叫ぶ。ドン!!
この異世界特有の変身が発動し、凄まじい威圧がズアッと膨れ上がるとともに周囲に烈風が吹き荒れた。
地響きが大きくなり、ゴゴゴゴゴと唸りあげていった。
ナッセもヤマミも「!!!!」と腕で顔を庇う。
ダクメーアもルルナナもその威圧に見開く。
「な……なんだッ!!? すでにクラスチェンジしていたのではなく、してない状態で一〇万級だったとでも言うのかッ!!?」
「そんなの話が違うわッ!!!」
「信じられんッ!!!? あの強さでクラスチェンジしたら────!!?」
「ええ!! ヒトがクラスチェンジする場合の倍率は基本戦闘力の約一〇倍!! つまりッ……!!!」
大きくなった天照大神斧、“お引摺り”と言われる裾の長い着物、背中には後光を模した黄金の飾りを備えたリョーコが姿を現した。
まるで日本の女神かと思わせられる神々しい風貌である。
「天道戦刀姫リョーコ!!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……!!!!!
「「一〇〇万級ッ……!!?」」ド ン!!!




