72話「残酷な無限!!! 潰える希望!!」
何度でも蘇ってくる不死身の魔貴族を相手に、アーサーたちは徹底的に叩き潰そうと猛攻を続けていた。
アーサーは大聖剣ギガトンカリバーを正眼に構え、左右に残像でブレていく。
「北闘豪剣流奥義・無双夢幻閃ッ!!!」
クルッペルを残像で囲むように包囲した後、一斉に大聖剣を振るう。
ザザザザンッと八つ裂きするも、クルッペルは即座に再生。しかし再び八つ裂きにされる。
そう、この奥義の恐るべきは敵が息絶えるまで延々と一瞬連撃が繰り返される事にあるのだ。
「再生中でも戦えるんですよーっ!!!」
完全な再生を待たずクルッペルは反撃と蹴りと手刀を繰り出すも、残像でブレているアーサーに当たる事はない。
豪快な見た目とは裏腹に精神統一されたアーサーは水流のように全てを避けてしまう。
愕然するクルッペル。
「覚悟するんだな!!! ほああああああああああーッ!!!」
アーサーは大聖剣が分裂したかのような幾重の剣戟を繰り出し、クルッペルを何度も何度も何度も何度も切り裂き続けていった。
グランハルトは二刀流の聖剣を振るい、レジャードへ幾重の剣戟を炸裂させていく。
「うおおおおおおおおおおおおおッ!!!! 幾万塵斬ッ!!!!」
嵐のように絶えない剣戟を繰り出し続けて粉微塵に切り散らし、なおも続けていく。
再生する暇もなく最後まで剣戟を繰り出すつもりだろう。
グランハルトは死に物狂いで二刀流を振るい続けた。
アレフは騎馬でマッハの突進をして、薔薇の爆弾をものともせずプリンスを貫通刺殺。
「ふっ懲りない男ですねぇ」
「縦横無尽・絶槍殺ッ!!!」
なんと往復してきて再び牙で突進。再生してきたプリンスを木っ端微塵に粉砕する。
何度再生されようが、アレフは角度を変えながら行ったり来たりを繰り返して突進を延々と繰り出し続けた。
それを黒いマントを羽織る不死霊王ダクメーアと、金髪ロング白ドレスの月夜の悪夢女王ルルナナは優雅にダンスを続けながら見ていた。
「嗚呼……、見ていて憐れむ気持ちになるよ……」
「そうねぇ」
「無駄無駄の極み……。我が不死身はその程度で崩されはしない」
「そんな不死に私は惚れたのよね」
ピアノを弾くエルフ令嬢が延々と音楽を流す。
選別された美形の人間は、黄色い宝石柱で包んで永遠の眠りについているようだった。
まるで宝石の牢獄。
その中でなら、意識もなく永遠に眠り続け、老いる事もない。
「この不死霊王は、夜の魔力が充満している時のみ永遠の不死身を発揮するという制約を有する『深淵殿造』を披露できる魔貴族」
「そしてこの月夜の悪夢女王は、永遠の夜を展開できる『深淵殿造』を披露できる魔貴族」
二人は互いに手を組み合って、首を傾けて優美な笑みを見せる。
「「この二つを合わせてこそ『永遠の楽園』が完成されるのです!!!!」」
バッと左右対称の片手を差し出した。
一体、何度殺れば尽きるんだ……!!?
絶えず猛攻を繰り返し、三人の魔貴族を何度も致命傷に追いやっていた。
魔貴族は妖魔界の魔族。されど純粋な魔族と違い、完全な精神生命体ではない。
ヒトやエルフのように肉体を持つ変わった魔族だ。
もちろん老いたりするなど寿命が存在している。しかし魔法に特化しているエルフと違って、全てが秀でているオールラウンドスペックで純粋な魔族と遜色がない。
加えてリョーコ作なのでイケメン美女の比率がかなり高く、ブサはかなり少数だ。
「ほああああああッ!!!!」
アーサーは疲労困憊で息を切らしながらも無双夢幻閃を維持したまま、クルッペルを斬り刻み続けている。
それでも延々と塵が集まってきて何度でも蘇ろうとしている。
純粋な精神生命体なら、具現化した仮の肉体を破壊されても精神体さえ無事であれば何度でも再生ができる。
とはいえ精神ダメージを受ける分だけ、再生に時間がかかる。
さらに言えば純粋な精神生命体でも、超過した精神ダメージを受ければ精神体が破壊される『滅び』で死ぬ。
ナッセの浄化攻撃により、煉獄竜王フレアネスドが消滅したように……。
「うおおおおおおッ!!!」
グランハルトは体力限界ギリギリになりながらも二刀の剣を振るい続けて、レジャードを粉微塵に切り散らし続ける。
クラスチェンジによって昇華したヒトは、ほぼ十倍くらいパワーアップできる。そして全ての攻撃が精神ダメージを与えられるようになっている。
これこそ対魔族専用の魔法技術である。
安易に悪用されぬようペンタント型の『証』に細工して、真に相応しい者の心に応えてパワーアップシステムがダウンロードされるようになっている。
そういう制約があるものの、人類が容易に精神生命体に致命傷を与えられる力は絶大だ。
「こんなん不条理だぜッ!!!」
アレフは愛用の馬と共に縦横無尽と駆け抜けながらプリンスを連続刺殺している。
どれくらい精神ダメージを蓄積させたのか……。
いくら高位魔族でも、何度も攻撃を受け続ければ精神体にダメージが蓄積されて、致命傷に届くのは必至。
仮の肉体が破壊され何度でも再生できようが、精神体は無限ではないのだ。
とっくにクルッペルとレジャードとプリンスは何度も『滅んでいる』レベルのダメージを受け続けていた。
例え無限に再生するとしても精神ダメージを無効にしない限り、いつか来る滅びは避けられない。
加えて魔貴族は有限の肉体持ち。
純粋な精神生命体よりは死にやすいのだ。なのに……。
「クソッ……!!!」
「こ、こんな……ッ!! ヤツらは……精神ダメージさえも効かないのかッ!!?」
「ハハッ、不条理にも程があるぜッ!!!!」
極度の疲労でアーサーとグランハルトとアレフの猛攻が一瞬緩んでしまう。
それを察したクルッペルとレジャードとプリンスはカッと眼光を煌めかした。
「はいやーッ!!!!」
クルッペルの踊るような回し蹴りがアーサーのほおに直撃。ガッ!!!
「これまでですね!!」
レジャードの魔弓から放たれた二本の矢がグランハルトの両肩を射抜く。血飛沫が舞う。
「儚くも美しく爆ぜ散れ……」
プリンスが振りまいた薔薇の花がアレフをドガンドガガンと爆撃していく。
そんな結末にダークメアとルルナナは薄ら笑みを浮かべた。
「これにて終幕でございます…………」
真っ黒に閉ざすように永遠による絶望が三人の聖騎士を押し潰した。ズ……ン!




