70話「デンジャラス!! 永遠の楽園!!!」
上空の真っ赤な人面満月が笑んでいる。
ドラグストアル王国がス────……っと赤に覆われていき、カジノなどに入り浸っていた人々が虚ろな目でぞろぞろと建物などから出てくる。
不気味なほど整列して歩き続け、王国中心の広場で次々並んでいく。集合しているようだ。
貧乏人、観光者、冒険者、貴族、騎士団……身分を問わず多種多様の人が立ち並ぶ。
オオオオオオオオ……!!!
《世界中あらゆる所から、遠路はるばるご苦労……》
薄ら階段が浮かび上がり、徐々に浮遊島が現れてきた。
その浮遊島には花園に囲まれていて黄色い宝石柱が立っていて、更に立派な城が聳えていた。
上空の真っ黒だった夜空が、真紅のグラデーションへと色を変えた。
《深紅に染まる空は永遠の夜を表すもの……。さぁ見惚れるがいい》
整列している人々は虚ろな目で見上げていく。その目が赤く染まっていく。
城の真正面にある大扉が開くと、黒いマントを羽織ったイケメン貴族と、白いドレスの金髪令嬢の二人が優雅に現れて悠々と降りてくる。
《我が名は七つの魔王が一角、不死霊王ダクメーア》
《我が名は同じく七つの魔王が一角、月夜の悪夢女王ルルナナ》
まるでイケメンの吸血鬼と、美女のサキュバスかと思えるほどの異色コンビだ。
《これより『永遠の楽園』へ入場できるか否か、選別を行いましょう》
幽霊のようにフワッと現れた無表情の執事やメイドが、整列している人へゆっくり歩み寄る。
前方から並んでいる人々は苦しみ始め、ボンッと体が破裂していく。
次々と爆散していく中で、美しい男女だけが取り残されていくようだ。
ボンッ、ボボンッ、ボボボボンッ、ボンボンッ、ボボボッ!!!!
爆散して血飛沫が舞って肉片散らす中で、何事もないかのように突っ立つ美形の男女を、執事とメイドは返り血などを拭って裸体に剥いていく。
流れるような作業で滞ることがない。
「ふふふ……今宵も美味しそうな美形の方々が来られましたな」
「そうですわね。また美麗なコレクションが増えてしまうわ。ほほほ……」
舌なめずりするダークメアと、愉悦に笑うルルナナ。
殺戮が行われている最中、二人はダンスを始め、音楽が流れるとともに優雅に踊り舞っていく。
飛び散る血飛沫、美しい男女、そしてピアノを弾くエルフの令嬢。
「永遠の美しさを!!」「永久の時を!!!」
「「統べる『永遠の楽園』に祝福を!!!!」」
すると向こうから風を切り裂くような轟音が響いてきた。ゴオッ!!!
「その首、取ったり!!!!」
なんと王国の建物を一直線とぶち破りながら、馬を駆る聖騎士アレフが鋭い槍を構えて突進してきた。
ルルナナは目を細め「我は拒絶する。月光の水晶壁よ聳えろ」と手を掲げた。
邪魔はさせんとばかりに、広場を囲むような頑強な水晶壁が地響きとともに聳えた。
ズズン!!!
突如現れた分厚い水晶壁にも、アレフは「小癪な!!!」と激突した。ドッ!!!!
ビキビキッと放射状の亀裂を入れて窪ませ、逆に反動でアレフを弾いてしまう。
「クッ!!! 理不尽に硬ぇ……ッ!!!」
槍を構えていた手が痺れる。
後方からアーサーとグランハルトがアレフを飛び越えて「うおおおおおッ!!!」と裂帛の気合で剣を振るってX字に斬撃を食らわした。ザザンッ!!!
しかし、それでも新たに亀裂が刻まれただけで砕くに至れない。
「チッ……、これでもか!!」
「クソ!! こうしている間にも騎士団がッ……!!!」
「これが七つの魔王の力か!!? やはり不条理ッ!!!」
アーサーとグランハルトとアレフは並んで焦燥を帯びている。
全力疾走で渾身の一撃を食らわしたはずなのに、阻む水晶壁をブチ破れないのがショックだった。
「やはり来ましたわね……。国外で待機していた騎士団の隊長。貴方がたもイケメンなので歓迎いたしましょう」
「嗚呼、三人の聖騎士で夜のお遊びも楽しみだわ……。うふふ」
水晶壁の向こうから聞こえてくる元凶の声に、三人の聖騎士は激昂する。
「「「貴様らあぁぁぁぁぁああッ!!!!!」」」
大地を震わせ、三人の聖騎士は凄まじいオーラを噴き上げていく。
足元から地面の破片が急上昇していき、煙幕を巻き込んで烈風が吹き荒れていった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!
「あなた方とお戯れに馳せ参じます!!! とうっ!!!」
なんと麗しい飾りを身につけたビキニの踊り子が躍り出た。ぐるぐる回りながらトンと着地する。
「ダークメア様にお使えする踊り子クルッペルです!!!」
今度はフッと降り立つイケメンの黒執事が丁重にお辞儀する。片手にはバラを持っている。
「ルルナナ様にお使えする黒執事プリンスでございます。聖騎士アーサーとグランハルトとアレフ殿、多少お戯れに付き合ってあげよとの命を受けてます」
悠々と歩いてくる長身の男は長い紫ロングをなびかせた魔貴族だ。
「私はルルナナ様に仕える美しい狩猟者レジャード!! 元は妖魔界にいた魔貴族なんですがね……。ふっ」
「いいから参りますわよ!! プリンス!! レジャード!!!」
クルッペルは羽衣を揺らめかしながら、アクロバティックに三回跳躍してアーサーへ飛びかかる。
その鋭い飛び蹴りはアーサーのかざした大剣を砕いた。
周囲に衝撃波が爆ぜて、離れた森林がバサバサ揺れる。
「フウゥ~~!!! この聖騎士アーサーに挑むか!!! 豪腕で振るわれし爆闘神剣!!! 牙剥きし悪逆を断ぜよ!!! ギガトンカリバーッ!!!!」
今度は更に大きな大剣が具現化された。
「ふっ、狩りの時間ですが殺さないので安心してください」
レジャードはビキビキと緑と白入り混じる魔弓を具現化させて、禍々しい矢を連射する。
グランハルトは剣でギギギンと弾き、あちこちへ逸れた矢はドドドドンッと大爆発を起こし森林を吹き飛ばした。ビリビリと衝撃波が伝わる。
「気をつけろッ!! かなりの強敵だぞッ!! 対なす両翼で烈風のごとく切り裂け!!! ツインボルグ!!!」
グランハルトも二刀流の聖剣を具現化させた。
更にアレフも槍をプリンスへ投げつけて、それは突如爆発して砕かれてしまう。
「物騒なものを顔に向けて投げつけるとは無粋ですねぇ……」
「ハハッ!!! 不条理を覆すべき正義で貫かん!!! ガイハドラガ!!!」
新たに具現化した聖槍を構え、アレフは再び大地を蹴って飛沫を高々と吹き上げる。
三人の聖騎士が吠え猛り、クルッペルとレジャードとプリンスへ強襲。
ドオオオオオオオンッ!!!!!
天高く衝撃波が噴いて、土砂を巻き上げた。




