7話「女子高生ミッチー、なぜか液体化する!!」
どこかの町の食堂でニーナとナッセとヤマミが食事をしていた。
「その内、ナセロンも目を覚ますと思う」
「くふふっ。助けてくれてありがとね。やっぱりリフレアルト手強かったわねー」
上機嫌のニーナ。
それに反して、浮かない顔のナッセとヤマミ。
「獄炎魔王ルシアが生きていたって事実は仕方ないんでしょうけどね……」
本当はそこじゃないんだけどな。
序盤では死なないはずのリフレアルトが死んでしまったり、魔王ゴーレムに最強魔法をぶっぱしたり、ナセロンが敗北寸前の瀕死になってたりと、漫画の展開と違ってきたのが懸念だ。
「勇者ガルドが魔王を倒したのは一二〇年前。そこからはしばらく平和だったわ」
「……そうか」
「倒すまでは人類が震え上がるほどの戦慄が駆け巡ってて、滅亡の危機かと思うくらいだったわ。それだけ獄炎魔王ルシアは恐ろしい力を振るっていた」
こっちはそれどころじゃない気がするぞ……。
一体、どこまで漫画の展開と違ってくるのか皆目がつかない。
「今すぐに世界の危機に陥るわけじゃないんだから、少しは落ち着きなさいね」
「ニーナはどこへ?」
立ち上がるニーナにヤマミは問いかけた。
「ちょっと調べ物をね……。後はナセロンと一緒に冒険を続けていってね。あんたたちの居場所は分かるから待ち合わす必要はないわ。くふふっ」
そう言うと、ナッセたちの分の勘定まで払って食堂を出て行ってしまう。
それを見送るしかない。
しばし扉の奥の人々の行き交いをながめるばかり……。
「ニーナはこれからどうしてたの?」
「たぶん支配神ルーグがけしかけたドラゴンが向こうで暴れているのをやっつけに行く展開だと思う」
ふと違和感がした。
「ヤマミ……、いつからこの異世界がオレの漫画の世界だって気づいた……??」
「あなたのリアクションと言葉を聞いてたら、大体察するけどね」
「うっ……!」
モロバレだったんかぁ……。
ヤマミは賢いし洞察力も高いから、勝手に理解している事が多い。
とはいえ、あんな恥ずかしい黒歴史漫画だって暴露されれば、いつかは愛想つかされそう。
「ってか、一刻も早くこの異世界を出ないと……」
「どうやって?」
「うっ!」
これ以上恥ずかしいのがバレる前に帰りたいんだが、どうやってかは分からなさ過ぎる。
結局、宿で一晩を過ごした。
いろいろありすぎて、二人で営みする余裕などないので仕方ない。
「はれーっ!! おかげでボクは元気だーい!!!」
翌日、ナセロンは重傷がウソだったように万全の状態だ。
「うん……、よかったね……」
「いつもナッセ兄さんは落ち込んでるのねー」
「ま、まぁな」
すると甲高い笑い声が響いてきた。
宿を出ると、また盗賊数十人を引き連れた女子高生ミッチーが攻めてきたぞ。
「オーッホッホッホ!!! 盗賊の情報網を甘く見ないことねっ!! かかれー!!!」
「はれれーッ!!! また来たー!!?」
町中にも関わらず、盗賊どもがいきりたってなだれ込んでくる。
「そういう展開?」
「いや!! アニオリみたいな別展開!!!」
ナセロンは光の剣を引き抜くように具現化すると、人が変わった。
冷徹な眼光を煌めかして盗賊どもへ逆に突進して、光の軌跡を幾重に描いて、数十人を斬殺していった。
今はニーナがいないからか、取りこぼした盗賊がこちらにも襲いかかってくる。
「おおおッ!! 星光の剣ッ!!!」
ナッセは『刻印』を灯らして、青白い光の剣を生成して盗賊たちを斬り伏せていく。
ヤマミは火魔法の『衛星』を浮かせて、散弾をばら撒いて爆撃していく。
そんな意外な奮闘に、ミッチーは「あいつらも強かったわけ!!?」と憤慨。
「ならば!! 最初っからやってやるわ!!! 救済不能な咎人どもを阿鼻叫喚地獄に突き落とせ!!! 悍しき殺戮せし多弾連射式機関銃剣よ!!! 真の女子高生ガトリングソード!!!!」
大きな剣を具現化し、ガトリングガンのように切っ先をこちらへ向ける。
しかし三筋の黒い筋が屈折しながら地面を這って、ガトリングソードへ黒い小人が飛びかかった。すると黒炎となって貪り始めていく。
「なッ!!? ガトアアアアアアアッ!!?」
ガトリングソードが獰猛な黒炎に包まれて、思わず畏怖して飛び退くミッチー。
キッと発射元を睨む。
なんとヤマミを囲んだ五人の黒い小人が踊るように周回していた。
これこそがヤマミの『血脈の覚醒者』の生態能力。
魔法を黒い小人の分身に変えて、なおかつ自由自在に地形を伝播するという反則級の能力だ。これにより敵を追いかけて抱きついて魔法を炸裂させる事もできる。
「ちくしょー!!! あんたら覚えてなさーいっ!!!!」
「逃すか!!!」
逃げ出そうとすると、ナセロンが飛びかかっていた。
「ルミナスエンドーッ!!!」
振り下ろした光の剣が女子高生ミッチーを左右にかっさばいた。血飛沫が舞う。
それに絶句するしかない。
本来なら女子高生ミッチーはここでは死ぬ予定はない。渋く生き延びて終盤まで生きてたキャラなのだ。
またしても死んでしまった。
「くそ……!! まただ!!」
「ナッセ兄さん。悪党が殺されて、悔しがるのはなぜだ……?」
ナセロンはナッセのリアクションに不審を抱いた。
「いや、それどころじゃない!! 女子高生はまだ──!!!」
これ以上、漫画の展開と違ってくるとどうなるか……!!
すると左右真っ二つのミッチーがニョキッと立ち上がって、左右からピタンと合体して元通りになっちまった。
ナセロンは「そういう事か!!」と、ナッセのリアクションを勘違いして察した。
「オーッホホホホ!!! 実は盗品の不死身の秘薬を飲んでてねぇ、不老不死になってんのよーッ!!」
「ならば生き返れないよう細切れにしてやる!!!」
ナセロンが何度切り裂いても、ギャグキャラのようにくっついて元通りになってしまう。
そうしている内に、液体化してサササササッとジグザグ地面を這いながら下水道へ入り込んで逃げ切ってしまった。
「オーホッホッホッホッホ!!!! 誰もアタシを殺すは不可能よーッ!!!!」
「ち……」
ナセロンは舌打ちして、光の剣を消す。
すると「はれっ」と能天気な明るい人格に戻った。
「あはは。逃がしちゃったー。でも次は必ず始末するよー」
ナッセとヤマミはゲンナリした。