68話「ヤバすぎだろ!! 最強魔法を連発できるチート!!?」
地面に描いた魔法陣の中心でナッセは座禅を組んでいる。
「血みどろに歴史を構築せし罪深き生命に、我は断罪すべき審判を下す。世界を統べる魔の絶対王が絶えず殺意を吠え、精神と心を延々と瓦解させて貪る戦慄の闇。永遠に破壊をもたらし続け、偉大な滅びで世界を満たせ『最終崩壊』」
黙々と詠唱を終えると、成功したのか赤い光が魔法陣からバシュッと噴いてきた。
ヤマミとリョーコ、そしてニーナもそれを見届けていた。
最後に「開門!!」と唱えると、地面の魔法陣がナッセへ吸い込まれるようにズズズズと収縮して消えていく。
ニーナは興味深そうだ。
「へぇ。なにこれ?」
「毎朝にやる『一日一唱の儀式』。これをやっておけば一日中は詠唱なしで完全版の魔法が撃てる現代魔法」
「あんたら、毎日そうしてたわけー?」
「ああ。もともと、魔法は詠唱から始まって発動するものだからな。オレたちが今までポコポコ放ってたけど、これありきだからな?」
「ぜんぜん知らなかった……」
ナッセとヤマミが当たり前のようにしてたから、リョーコは驚いているようだ。
「おまえは魔法使えないんだから知らなくて当然か……」
「脳筋で悪かったわねー! ぷん!」
顔を逸らしてリョーコ拗ねた。
これらの言動を見ていたニーナは半信半疑だった。
「本当にできるのかしら?」
「よし! 見てな!! 最終崩壊ッ!!!」
ナッセが両手を突き出すと、凄まじい赤い光線が放たれて向こうで大爆発が広がった。
大気と地面を震わす震撼。吹き荒れる烈風。流れていく砂塵。ゴゴゴッ!!!!
完全詠唱した時と変わらぬ威力に、さしものニーナさえ驚く。
「最終崩壊!! 最終崩壊!!! 最終崩壊ッ!!!!」
続けて連発してドカンドカン壮絶な大爆発が連鎖していった。
山脈を吹き飛ばす規模の最強魔法が連発されるなど、絶対ありえない事象にニーナは震えた。
しかもナッセは涼しい顔をしている。
これ一発でも相当な魔法力を消耗するにもかかわらず……。
「すごいわね……」
「オレたちの世界じゃ、こんな最強魔法ないからなぁ。あくまで創作でしか存在しない魔法。そしてそれが再現されたこの世界で初めて可能になった」
「竜殺し魔法のラノベを参考にしてたもんね」
「パクりってのは胸が痛いけどぞ……」
ヤマミの優しい言い換えに感激するしかない。
「くふっ。ありがとさん。さっそく試してみるわね」
「ああ。いいぞ」
ニーナがいろいろ教えてくれた見返りに、とこれまでを見せてきたのだ。
恐らくこれが目的なのかもしれない。
さすが天才の彼女か、一発で覚えた魔法陣をスラスラ描いてしまう。
「これで間違いないわね?」
「あ、ああ。一日中に使いたい魔法の詠唱が正しければ、魔法陣から光が噴き上げられるはずだ」
ニーナはその上で座禅を組んで目を瞑る。精神統一は見事だ。
「血みどろに歴史を構築せし罪深き生命に、我は断罪すべき審判を下す。世界を統べる魔の絶対王が絶えず殺意を吠え、精神と心を延々と瓦解させて貪る戦慄の闇。永遠に破壊をもたらし続け、偉大な滅びで世界を満たせ『最終崩壊』」
しかし魔法陣からは光が噴き上げてこない。逆に魔法陣が消えた。
「え? 一言一句間違ってねぇぞ? 魔法陣だって正確に描いている」
「……ええ。確かに間違えてないわ」
「どういう事ー??」
「とりあえず最後に開門!!」
ニーナは実感できないが、詠唱も術式もは間違ってないと確信している。
立ち上がって片手で「最終崩壊」と発するが、何も起きない。
「あんたたちの世界の力を、私たちは使えないってワケね……。残念」
「オレたちはそっちの力をバンバン使えて、なんで逆はできねぇんだぞ??」
「もし、そっちが私たちの世界に来たらできるかもしれないわね」
「かもね」
実は少しホッとした。
仮にもラスボスのニーナが完全詠唱クラスの最強魔法を連発してきたら完全無欠だもん。
あと偶像化や刻印も使えてたら厄介だから、この件で安心できたぞ。
オレたちだけ両方の力が使えるっていうチートみたいな感じかな?
「どうやって、この世界へ来たか分かる?」
「え?」
「……私たちが寝た後、近くに置いてあった卓上ミラーが何らかの効力を発揮したせい」
「え? ヤマミの仕業だったのか??」
ナッセとしては卓上ミラーは覚えがない。なのでヤマミが元凶かと思った。
しかしそのヤマミは首を振ってくる。
「あなたの弟たちが半信半疑で自作漫画と一緒に卓上ミラーを置いたせい。オヤジが買ってきた魔鏡って言ってたわ。ちなみにこれボソボソしてたの聞いてたからね」
「なんで? 弟ズが??」
「あなたと私がイチャイチャしているのを妬んでたからだと思う」
「オケ。把握したぞ」
つまりヤマミが意図的でもなく、弟ズと共謀したのでもなく、半信半疑で魔鏡を試したって事か。
案の定、確かに異世界転移してしまったぞ。
そして事前に厨二漫画をヤマミが読破してしまった事も知ってしまい、内心恥ずい。
「ナッセー!! その漫画見して!!」
「そっちの小説もヨロ」
「えー!!!」
食いついてきたリョーコには、小説読ませてで撃退。
「それにしても、あの卓上ミラーがそうだったのー!?」
「リョーコも持ってたかぞ?」
「フリーマーケットで珍しいなーと思って買ったの。安かったし」
「おまえなー」「あんたね……」
呆れるナッセとヤマミ。そんな手頃な店で手に入るんかよ。
考え込むニーナ。
「魔鏡……卓上ミラー……」
「ニーナ?」
心当たりがあるみたいだ。まさか、この世界にも??
「大昔にも、そんな事を言っていた移転者がいたわ」
「ええっ!? そんな前から!!?」
「私が世界を破壊しようと決めた一因でもある……」
ニーナが感情的な顔つきを見せてくる。
彼女も冷静を保ちながら話してくれた。大昔からもナッセみたいな移転者が現れてて、その度に世界が作り替えられてきた。
そのせいで無用な争いが度々起きてカオスになったと言う。
「気持ちは分かるが、そんなもんなくても惨たらしい闘争は起きるぞ」
「ええ。私たちの世界でも普通に憎しみあったり争ったりしてたから、特別ここの世界だけってわけじゃないもの」
「聞かせてもらえるかしら? なぜ、あんたたちが強いかも含めて」
「いいぞ」
オレはじっくり語った。
事故死してから『運命の鍵』と出会って、魔法もスキルも何もない世界から数多ある並行世界を渡ってやってきた事。
しかし、その願いのせいで因子が溜まり続けて魔王化寸前になった事。
実際に魔王化した四首領ヤミザキを、オレたちが総力でもって倒せた事。
ヤマミも自分視点で起きた出来事も付け足した。
「……そっちでも大変な事が起きてたわけね」
「ああ。何度も絶望を味わってた」
しんみりとナッセとヤマミとリョーコは耽る。
「その代償で、今のあなたたちがいるってわけね……。本物の強さとして丹念に磨き上げられた賜物。リスクもなく女神とかからチートを与えられただけのニセモノとはまるっきり違う、か」
腑に落ちたと納得するニーナ。
そのせいか、こちらへの敵意みたいなのが薄まったような気がする。
こっちを見て満足そうに微笑んできた。
「おかげで有意義な話が聞けて良かったわ。くふっ」
「ニーナ……」




