66話「金輪際こと『万物の墓場』の秘密!!?」
ドラグストアル王国の秘密に気づいたナッセたちを、七つの魔王ルルナナによって『万物の墓場』という別次元へ送られてしまったぞ。
「五劫の擦り切れ……」
「夕夏家の書物で読んだ事があるわ」
ヤマミが言うに、無限とも思えるほど気に遠くなる年月だそうだ。
一〇〇年に一度天女が降りてきて、富士山の四〇倍くらい大きな岩を羽衣でサラッと撫でに来る。
そのひと撫でによって磨り減っていき、全部がなくなるまで延々と繰り返す。
全部なくなるまでの年月が約四〇億年ほどで、それが一劫。それを五回が五劫。約二〇〇億年。
「それがここ『万物の墓場』ってトコー!?」
リョーコは汗をかいて驚く。
「しかし、ここが金輪際。まさかガチでそんな場所が存在するなんて……」
「日常生活でも『絶対に』という意味で使われる事が多いけれど、元々は仏教用語。世界を構成する最下層の次元がそれに当たると言われているわ」
「じゃあ、ここは仏教から具現化された世界なんぞ??」
「どこの世界にもある基本的な次元じゃない? たぶん……?」
通常世界を包む数多ある次元の一つ。
仏教用語では筒を表現していて、風輪・水輪・金輪で大地を支えると考えられていた。
ちなみに『金輪際』は水輪と金輪の間にあるそう。
あくまでこれらはヒトが考えた世界観っぽいけど、元々は誰かから聞いて取り入れられたのだろうか?
実際はこんな不毛の次元……。
ここに積もってる砂は、いかなるものも何百億年も経って塵と化したものらしい。
あちこち散らばっている白骨もいずれは…………。
「ヤマミ! ここを出れるかぞ?」
「……やってみる!!」
ナッセはヤマミと手を繋いで『連動』する事で、強さを倍に高めていく。
黒い花吹雪が渦を巻いていく。ズズズズズ……!!
しかしヤマミは苦悶し目を細める。
「ダメ……!! 地球と異世界を隔てる次元空間よりも更に深く遠い…………!」
なんとか元の世界へ帰ろうと、次元に穴を掘るが全然届かない。
ナッセとヤマミは汗びっしょりでハァハァ息を切らしてへたばる。
「ダメなの……??」
リョーコは何にも見えないので、声が響く方へかけてみる。
「そ、そうみてぇだ……」
「最低でも四首領クラスでないとね」
「えー!? こんな何も見えないところで二日も──!?」
「はぁ、仕方ないわね。本当はナッセ以外入れたくないけど……」
ヤマミとしては腰が重いものの、背に腹はかえられぬと意を決した。
黒い花吹雪が渦を巻いて三人は吸い込まれた。そう、ヤマミが持つ独自の空間へ転移したのだ。
ここでは光源が用意できるのでリョーコも見渡せるぞ。
「へー!! いいじゃんー!!」
「全く……。あらかじめ食料や水を確保しているからいいけど……」
お菓子がたくさんカゴに入ってて、相当溜め込んでいる。
それからカレーや味噌汁など、余分に作ってあるものまで置かれていた。冷え冷えのドリンクも何本も並べてある。
「熱々だし、こっちは冷え冷えだなぞ」
「ここの空間に入れた物質は、触れなければ時が止まったままだから経年劣化はしないわ」
「便利な空間持ってんじゃんー! うらやましー!!」
漫画や小説などギッシリ並べた本棚。
ソファーやベッドなどくつろげやすい環境に揃えてあった。
そこに置かれた見慣れた海パンに目が行く。
「なんでオレの海パンが??」
「あ、あとで返そうと思っていたけど忘れてたから!!!」
なんかヤマミが赤面してバタバタ慌てている。
リョーコはニヤニヤして「へーそういう趣味が」と口に手を当てていた。
ヤマミは赤面しながらキッと睨む。
「オレたちはともかく、リョーコはヒトだからな。飲まず食わずでいられないか」
「二日間も、ここで一緒に暮らすのは初めてになるわ。ここプライベート空間だし……」
恥ずかしそうにヤマミは顔を背けてもじもじする。
「へぇ、運がなかったわね」
聴き慣れた声にナッセたちはハッと振り向く。
フッとニーナが姿を現し、トンと降り立つ。不敵に笑む彼女に戦慄する。
「だれー??」
怪訝なリョーコはともかく、妖精王状態で高次元オーラを噴き上げてナッセとヤマミはザッと腰を落として身構える。
緊迫感で心音が高鳴っていく。
「こ、金色の破壊神ニーナッ!!?」
「な、なぜここにっ!!?」
ニーナはヤマミを指さす。
「くふふっ。大会でヤマミと試合してた時に、マーキングつけてたわよ。あんたたちの動向を探るのに必要だったからね」
「あんた……!!!」
「あの!? ワケ分かんないけどー?? あの少女は一体何者?? つーか勝手に話進めないでよねー!!」
途中から合作して入ってきたリョーコは知らない。
「手短に話すぞ! コイツが金色の破壊神!! この世界を崩壊させて全てをなかった事にしようとしてるんだ!!」
「ラスボスって事ー!!? これナッセが考えた奴??」
「あ……ああ……!!」
息を呑み込んでナッセは身構えたまま、ニーナから目を離さない。
四首領クラスの強さを持っていると分かった以上、現時点では絶対勝てないからだ。
ニーナは余裕綽々でソファーに腰掛ける。
「そう構えないでくれないかな? 場合によっては味方になっていいわよ?」
「どういう事…………?」
ナッセとヤマミは身構えたまま疑心で窺うしかない。
「ここは金輪際。何の為にあると思う?」
「そこまでは知らねぇ……」
「世界は脱皮するの。終焉を迎えるたびに、より進化する為に古い世界を押しのけて新しく世界を産む。ここはかつて宇宙だった次元ってトコね」
ニーナが説明するに、宇宙は誕生と終焉を繰り返す。
宇宙が寿命を迎えるたびに、その古くなった次元を外周に押しのけている。つまり脱皮。あるいは皮膚細胞で言えば老廃物。
代わりに新しい宇宙が中から生まれる。
「インドん時で見た新しい世界もそうなのか……?」
「ソースは【小話編】227話『インドピース・如来王篇① 新世界ァ!?』ね 」メタァ!
今、あっちでオレたちの創作が具現化されている世界も寿命を迎えれば、いずれここと同じになるらしい。
そうやって世界は生まれ変わり続けているのだ。
「かつてここでも、誰かの創作が反映されて茶番劇が繰り広げられてたらしいわよ?」
「なん……だと……ぞ!?」
「それは確かなの??」
ナッセとヤマミが怪訝になっているのを、ニーナはフッと笑う。
「朽ち果てたその塵が、その全てよ。くふふっ」
砂漠になってる物質は、かつて太陽があって惑星が回ってて、生命体とかが繁栄と衰退を繰り返してきたものの成れの果て。
最後にはこうして、なーんにも無くなるらしい。




