64話「魅惑的なドラグストアル王国!!! しかし実は!!?」
ドラグストアル王国より数百メートル離れた森林と平原の境でアーサーとグランハルトとアレフが野宿していた。
テントを張り、火付けの魔導装置でスープを温めている。グッグッ。
「入国した騎士団は今のところなんともなさそうだな」
「しかし、見張りの警備兵もなく入国が自由とは胡散臭い……。治安は大丈夫なのかこれ?」
「ハハッ」
アーサーはコップをクイッと口に傾けた。
気が気でないグランハルトはドラグストアル王国を時々見やる。
馬に乗ったままのアレフはヤリでスープの皿を器用にすくい上げて、それを手で受け止めてすする。
「行儀悪いぞ」
「敵さんがお人好しにも丸腰のヤツを襲わないでくれたなら、降りてやるよ。ハハッ」
グランハルトの突き刺す言葉にもアレフは気に止めない。
アーサーはアレフの事情を知っている。どんな時であれども戦闘可能な状態を維持しているのは、かつて不条理に見舞われた過去があるからだ。
決してふざけてて馬に乗る縛りをしているわけではない。
グランハルトも知っているのだが、やはり人の目にもつくし、自分たちを信頼して欲しいと思う故だ。
「……明日になれば残り三日」
「ああ」
「当日は満月だな。ハハッ」
ちょうど満月になる事を三人は察していた。
きっと『永遠の楽園』に関係しているのだと……。
「ここにいても決して油断はしないでくれ」
真剣なアーサーの言葉に二人は頷く。
就寝の時間になるとアーサーとグランハルトはテントの中で横になり、アレフは馬を寝かせて乗ったまま添い寝する。
深夜になってもドラグストアル王国は華やかにネオンを照らし続けて賑やかだ。
酔っ払う人も、カジノにも入り浸りになっている人も多い。
しかもカジノはバンバン当たりやすくて射幸心を煽りやすく、やみつきになっていく人も後を絶たない。
この一夜で大富豪レベルに儲かる人が続出。
ガッハッハと浮かれまくって永住を決め込む人々の多い事か……。
「カジノんとこのスロットやべぇ!!!」
「ああ!! ポーカーだって、いい役が回ってくるぜ!!」
「パチンコだってバンバン当たってきて勝ちまくりやべえええええええええええ!!!!」
「一生分の運を使い果たしたわ!!!」
「それな!!!」
しかもこんな状態なのでスリや窃盗や詐欺をするよりも、カジノやった方が儲かるっていう仕組み。
スロット回せばバンバン当たるわ当たるわ脳汁プシャーッと出るもんな。
まるで当たりとハズレが逆転しているかのようだ。
その理由で逆に治安が悪くならないのが奇妙だぞ。
「あっちで飲んでいこうぜ!!!」
「どうせ『永遠の楽園』へ行けば、もっと極楽になるんだからよォ!!!」
「ちげぇねぇ!!!」
「アッハッハッハ!!!」
なんと数人の騎士たちも虜になっているようだった。
さっきまでキリッとしていたのに、ふにゃふにゃだらしがなくなっている。
「おい!!! アーサー隊長が知ったら怒鳴られるぞ!!!」
「待てよ!! 待機中ってんだろ!!」
まだ真面目な騎士が引きとめようと必死になっている。
しかし、弛んでしまった騎士たちはもうフニャフニャだ。完全に酔ってる。
「ええじゃ~ん!! ちっとぐらい楽しもうぜ~!!」
「今まで窮屈だったろ?」
「こっち来いよ!! 風俗もあるぜ!!」
「おい!! ま、待て!! 今は就寝の時間……ッ!!!」
少しずつ騎士団が甘い娯楽に溶け込むのも時間の問題だった……。
朝日が地平線から覗いてきて、ドラグストアル王国を照らしていく。
「起きろ!!」
タンクトップでグースカ寝ているリョーコにナッセは苛立つ。
ヤマミはチョップを振り下ろして「いったぁ!!!!」と強引に起こした。
「何すんのよー!!!」
「起きなさい!! それとも黒炎で温まりたい?」
「ぶー」
ナッセは苦笑いして「子どもか」と口走る。
朝飯は自由に選べるバイキング形式だった。
スイーツ盛りに盛ったリョーコにヤマミはジト目で「太るわよ」と突っ込む。
ナッセもウィンナー並べて目玉焼きを頬張る。
「こうしてみれば美味しいんだがなぁ……」
「変なのは盛ってないんだけど、どこの国より美味しいのが気にかかるわね」
ヤマミは遠慮しているのか、少なめの量を頂いていた。
逆にリョーコは思いっきり好きなもんを追加させまくって堪能してる。
「リョーコに限らず、周りの人もそうだぞ」
周りの人は楽しそうに料理を楽しんでいる。
傍目で見れば、なんてことのない明るい風景だとも思う。しかしどこか中毒的な雰囲気が窺える。
二度とこの国から出たくないって思わせられるような感じだ……。
「あなたも気をつけて」
「気を抜いたら、うっかり虜になっちまうからな。ヤマミがいてくれて助かるよ。気が引き締まる」
「ふふ、それは嬉しいわね……」
ヤマミは流し目で微笑む。
散策に繰り出すと、やはり「あそこへ行きたい!!!」って思わせられる誘惑があちこち醸し出ている。
色んな食堂やカジノや風俗やゲーセンなどが魅惑的だ。
クレープを売っている店を見かけると、つい注文してしまう。
「ここにいたらどうにかなっちまうな」
「ええ」
ナッセとヤマミはキリッとしつつもクレープを堪能していた。
リョーコは三つもクレープを手にルンルンだ。
「……外出よう。リョーコが特にヤバい」
「ええ」
自分も虜になりそうな気配になってて、緊迫してきたぞ。
リョーコを引っ張ってドラグストアル王国の出入り口から出国しようと歩き出す。
誰も引き止める人もいないし、警備兵が阻む事もない。難なく出国できるだろうと思っていた。
しかし、気づいたら入国していた。ドォ────ン!!!
「……え!?」
「ナッセ!!?」
「いやいや!? 確かに出たぞ!!?」
確かに国を出て、平原へ足を踏み入れたはずなのに入国していた。
まるでこの国へ入りましたって言わんばかりに。
「もう一度出るぞ!!」
今度は走って出国だー!!!
しかし気づけば入国してて、目の前に華やかな都市が目に入る。
ドォ────────ンッ!!!!
「「な……ッ!!?」」
冷や汗たっぷりに背筋が凍って、ドラグストアル王国から出られない事に絶句した。
オレは今ドラグストアル王国をほんのちょっぴりだが体験した。
い……いや……体験したというよりは、全く理解を超えていたのだが……。
あ………ありのまま、今起こった事を話すぜ。
『オレはこの国を出たと思ったら、いつのまにか入国していた』
な……何を言ってるのか分からねーと思うが、オレも何をされたのか分からなかった……。
頭がどうにかなりそうだった……。
催眠術だとか幻術だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえぞ……。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。グググ……!




