62話「ナッセとリョーコの混合創作による新キャラ!!?」
赤い月の下で、ルルナナは丁重にお辞儀する。そして艶かしい笑顔でニマリ。
「七つの魔王が一角、月夜の悪夢女王ルルナナでございます……。今後お見知りおきを…………」
「なっ、七つの魔王ッ!!?」
「ほら!! 見なさいー!!!」
まさかの名乗りにナッセは衝撃を受け、リョーコもここぞとばかりにルルナナを指差す。
ヤマミは否定するように首を振る。
「いえ、七つの魔王は混沌王アリエル、天空王ティアーメ、狂乱火星ゴルンレーヌ、薔薇卿ナース、月の神秘ウー、暗黒魔竜クセアムス、煉獄竜王フレアネスドって言ってたでしょ?」
「よく覚えてたわね。ってか、実は八体もいたって事ー!?」
ナッセは後しざりして「そんなのありえないぞ……」と動揺する。
こんなキャラ作った覚えがない。
「あんたら、何を驚いているか分からないけど誰から聞いたの? 元々不死霊王ダクメーアと、この月夜の悪夢女王ルルナナは七つの魔王として幾千年も続いてたわよ? むしろナースとウーは聞き覚えないわね……」
ナッセは絶句する。
ヤマミは訝しげに見据え、リョーコは「どういうことー!?」と疑問に持っている。
彼女が言うに、元々から七つの魔王として存在しているという。
「ナッセ!! 記憶違いとかない?」
「そんなはずは!! ……ってか薔薇卿ナース、月の神秘ウーの二体がこいつとダクメーアと入れ替わってる!!?」
ルルナナはじっと、こちらの様子を見守っているようだ。
「ってかー、ナースとウーはどういうキャラなの!?」
「ナースもウーも、最終決戦で急に出てきてラスボスに瞬殺されただけだしな……」
「七つの魔王なのにポッと出キャラぁー!?」
「仕方ないだろ。ラスボス戦までに活躍できる機会なかったし」
ナッセはバツの悪そうな顔をする。
自作漫画では頭数合わせに作った適当なキャラだぞ。
「姿は?」
「……そういやビジュアルは言ってねぇな」
「言って!」
「それ大事な設定でしょー!? 聞きたいー!」
「薔薇卿ナースは週刊雑誌版の封神演義に出てくる七匹のレインボードラゴンを操る敵キャラに酷似したデザイン。月の神秘ウーは月のような黄色い宝珠に乗ってる長ヒゲのジジイだぞ。あんな美女じゃねぇ……!!」
「って事はナースってヤツも違うのかも……!?」
「可能性は大きいなぞ……」
ナッセのほおを汗が伝う。
そして可能性を考えた結果、ナッセとヤマミはチラッとリョーコへ見やる。
「え? ええっ?? なんでこっち見るのー!!?」
「イケメンドラキュラ風の不死邪爵ナイトメア。悪女サキュバス風の月夜令嬢ルナティ、このビジュアル描いてたんでしょ?」
「え!!! ま、まさか……!!?」
リョーコは竦む。
確かに目の前の七つの魔王は、どう見ても悪女サキュバス風の月夜令嬢ルナティとそっくり過ぎる。
「そ、そ、そういえば!!! ってかなんでルナティそっくりになってんのよー!?」
「……不死邪爵ナイトメアはイケメンだろ? 確か?」
「うう……、もしかしてダークメアも……? あああ!!! 考えたくなああいっ!!!」
リョーコは頭を抱えてブンブン振っている。
ナッセはヤマミと見合わせて「ひょっとしたらオレのと混ざったんじゃ……?」と察した。
「何ワケ分からない事で揉めてるの知らないけど、誤情報に踊らされて滑稽だわね。くすくす」
「誤情報じゃないんだけどな……」
勘違いしているルルナナに、ナッセはジト目で呟く。
ともかく、なぜかナッセの七つの魔王とリョーコの魔貴族が混ざって新キャラ化しているようだ。
なぜこうなっているのかは分からない。
ポッと出魔王とエタ小説の魔貴族だから融合したって事か?
「ドラグストアル王国で『永遠の楽園』へ行けるってのも、あんたの仕業なんだろ?」
「ふふ……、その通りよ。馬鹿なヒトが我らに誘われて選別されるとも知らずにね」
「選別ってどういう事?」
「まさか食べちゃうのー??」
冷静にヤマミ、驚き気味にリョーコ、でそれぞれ異なるリアクションを見せる。
ルルナナは艶かしく笑みながら、真上の赤い月へ緩やかに指さす。
「ここのエルフと同じく、美しいものを選別してコレクションにするのよ。直にあなた方も仲間入りするけどね」
するとナッセはニヤと不敵に笑む。そんな態度にルルナナは不審に思う。
「一番肝心な事に気付いてないらしいな……! おめぇの負けだ!!」
「なんですって?」
「致命的じゃない。世界大会の事も妖精王の事も知らないようじゃね」
「妖精王がなによ?? この期に及んで脅しになると思うわけ?」
本当に何も知らないらしく、ルルナナは訝しげな目を見せる。
「おおおおおおッ!!!」
ナッセの銀髪がブワッとロングに舞い上がり、背中から四枚の羽根が浮き出し、足元に花畑がポコポコと湧き上がっていく。
膨れ上がった威圧によって周囲に烈風が吹き荒れた。ブオワッ!!!
「く、クラスチェンジしたの……!? そんなもの今まで返り討ちに……ッ!!」
「行くぞッ!!!」
早々にやっつけてやる、と太陽の剣を生成し飛びかかる。
サッと身構えたルルナナは片手を差し出す。
「ここは我が領域!!! 愚かなる者どもを月光篭る水晶錐で無残に貫け!!! 月晶群槍!!!」
地響きを立てて、地面から数百もの黄色に輝く水晶群晶による鋭い錐を無数に隆起させてきた。
しかしナッセは地面へ突き刺して炸裂剣を放ち、破裂するように水晶群晶を一斉に砕く。破片が飛び散る最中、ルルナナは冷や汗をかいて見開く。
太陽の剣を振りかざして襲いかかる妖精王ナッセが恐ろしく感じた。
「一体何者なのッ!!? くっ!!! 我は拒絶する!!! 月光の水晶壁よ聳えろ!!! 月晶絶壁ッ!!!」
地響きとともにルルナナの前方で水晶壁が生え出す。
頑強な城壁のように厚さ数メートル、高さ数十メートルで聳えた。ズズン!!
「そんなものブチ破るッ!!! 流星進撃!! 二〇連星────ッ!!!!」
バッゴオオオォォォンッッ!!!!
ナッセは流星群のような鋭く強烈な一瞬連撃を繰り出し、頑強な水晶壁を木っ端微塵に飛び散らす。
あれだけ分厚くて巨大な水晶壁が粉々になって、信じられないとルルナナは動揺する。
「な……にッ!!?」
「よし、詰みだぞ!」
すかさず地面を這う黒筋がナッセの足元を通り過ぎて、見事ルルナナを黒炎で包む。
「ぐああああ!!!!」
貪ってくる黒炎にルルナナは仰け反り、苦痛で悶えていく。
キッと見据えると、ヤマミの周囲に黒い小人が数体踊りながら周回していた。
「よ、よくも!!! この私をッ……!!! 次は覚えてなさいッ!!!」
「次はないわ」
冷徹なヤマミによって追加の黒筋を走らせ、ルルナナを包む黒炎を増強した。ゴゴゥ!!!
「ぐあッ!!! わ、私は永遠に生きる者ッ!!! こ、こんなの無駄よッ……ぐああああああああ!!!!」
なすすべもなくルルナナは燃え盛る黒炎に苦しみもがいた後に、横たわり動かなくなってしまう。
死骸を残さず喰らい尽くすと黒炎は虚空へ散り散りと消えていった。
少し違和感を覚え、ヤマミへ振り返る。
「やけに変な断末魔だったな……?」
「そうね」
「もうやっつけたじゃんー!! これで七つの魔王は残り五体ね!!」
リョーコは気楽にイエーイと喜ぶ。




