61話「エルフの国エーテリンへ行こう!!!」
オロナーン大陸の中心にあるドラグストアル王国へ向かう為に、オレたちは馬車に乗ってガタンゴトン揺られている。
ヤマミは目を瞑っている。
「ヤマミ……。例の騎士団は?」
「早朝に出発して、かなり遠くへ進んでるわ」
「黒い小人で潜入させてるんだっけー?」
実は昨日の食堂の時からヤマミは黒い小人を忍ばせて、動向を探っていたのだ。
騎士団がガロンナーゼ大陸のギルガイス帝国から来たのも、七つの魔王や金色の破壊神討伐が目的なのも、とっくに把握していた。
楽園が目的の他の人はともかく、騎士団だけは明確に戦意満々だ。
「それにしても殺風景ねー」
流れる景色は、疎林と低木を交えた長草の草原地帯でずっとだ。
「仕方ないでしょ」
「走れば、もっと早く着けるだろうけどヒマになるぞ」
オレたちは走って行けなくもないけど、どうせ一週間で『永遠の楽園』への道が繋がるらしいので、ゆっくりする事にした。
世界大会で優勝したので賞金もたんまりもらってる。
旅行気分でこの異世界を楽しむのも悪くないぞ。まぁ、オレたちが作った作品の世界だけどさ……。
「そういえば『永遠の楽園』で忘れてたけど、エーテリン王国はどこだっけ?」
「オロナーン大陸自体、勝手に生成されてるようなもんだし知るわけないでしょー」
「それもそうか……」
「エタ作品だものね」
「一言多いわー」
細めで呟くヤマミに、リョーコはプンスコする。
エーテリン王国はエルフの国だっけ。この大陸に存在するなら、どこかにあるんだよな。
「キャベツー港町で地図買ってきたでしょ? エーテリン王国へ行くなら、馬車のルートに入らないからね。まず二つ先のムヒム村で降りてから徒歩で」
創作の大陸を確認するための地図だったが、これにも国や村などだいたい載ってる。
地図を見れば近いように見えるけど遠いぞ。
この大陸だけでも日本列島より大きい。
「じゃあ『永遠の楽園』は後!! エーテリン王国へレッツゴー!!!」
リョーコがノリノリと拳を突き上げる。
というのも、イケメンショタのアルベルト王子に会いたいがためである。
ナッセとヤマミはジト目で呆れる。
翌日でムヒム村へ着いた。馬車ルートが寄るくらい、そこそこ施設は充実していた。
荒野の地面を砂煙が吹き抜けていく。
「どこか西部劇みたいな木造の家が並んでるなぞ」
「ガンマンとかいそうね」
「腹ごしらえー!!」
肉料理とか多めだった。あとはビールやワインなどが多い。
干し肉も売ってたので今後の旅の為に買っておいた。
「じゃあ行くかぞ?」
「そうね。まだ六日残ってるし」
「かけっこだー!!」
ムヒム村を後にして、ナッセたちは時速五〇〇キロでバッビューンと走り出した。砂煙が舞い上がっている。
見かけた村人は唖然としてたそうな。
しばし殺風景な荒野が続いていたが、ようやく森林の密度が増えていく。
「地図に間違いがなければ、エーテリン王国はここよ……」
「なにこれー!!?」
深い森林の中で開けた平原で、巨木をくり抜いた家がいくつも並んでいる。
しかし恐ろしいほど静寂で人の気配がない。
逆に草がぼうぼうと伸びてて、つる性のツタが無造作に生い茂っていた。
「エルフは静かに暮らすんだろ?? どっかに潜んでんじゃね?」
「一人もいないよー!!」
「オロナーン大陸からはエタったけど、アルベルト王子とはどういう出会いする予定だったの?」
「エタは余計だよー!!」
ヤマミの冷静な質問に、リョーコはほおを膨らます。
気を取り直して「う~ん」と考え込む。
「魔貴族の二人がイケメンで美しいアルベルト王子をさらっていくから、それをあたしはテンショウ、ソロア王子と一緒に助けに行く感じ?」
「ざっくりしてるわね」
「まだ具体的にストーリーは決まってねぇか……」
「うっさいわねー!!」
プンスコ拗ねるリョーコ。
ナッセは広範囲に『察知』を広げて感知を試みる。虫とか動物とかいるくらいでエルフはおろかヒトは一人もいない。
「数年前に何かあって、エルフたちがいなくなったんでは?」
「えー……。ショタイケメンがぁ…………」
ガックリ項垂れるリョーコ。
「ムヒム村へ戻りましょう」
「待て!」
ナッセはヤマミに制止の腕を伸ばす。すると茂みから艶かしい女性が歩み寄ってきていた。
白いドレスの金髪美女。悪役令嬢みたいに冷笑を浮かべてる。
こんな場所に似つかわしい。不自然だ。それに……。
「気をつけろ。……急に現れた。オレの『察知』内で一瞬に……だ」
ヤマミとリョーコはザワッとして腰を落として身構える。
いつの間にか夜空になっていて、欠けた赤い月が大きく浮かんでいるのだ。
「くすくす……。警戒しなくてもよろしくてよ……。敵意はないから」
「魔貴族……??」
「一応、ルルナナと申しますわ」
丁重な物腰で名乗ってきたぞ。
でも、確かにただならぬ気配が感じられる。察知を広げてる最中で、突然現れたという事は時空間転移で来たのだろう。
「……月夜令嬢ルナティか?」
「何言ってますの? 人違いではないのですか?」
とぼけてるというわけではなく、怪訝な表情をしてきた。本当に知らないようだ。
「違うのか?? 魔貴族とかではないのか??」
「確かに私は魔貴族のルルナナですが、月夜令嬢ルナティとかいう方は存じませんね」
手首で口を隠し、睨めつけるように目を細めてくるルルナナ。
「……嘘は言ってないようね?」
「リョーコ?」
「じゃあ誰よー!!?」
リョーコを見やると憤慨しているようだ。たぶん彼女も知らないキャラ。
「それより、あなた方はとても美しい方ね。うふふ」
「ここのエルフをどうした?」
「知りたいのですか? では……!」
本性を現すようにクワッと見開いてきたぞ。
地響きとともに周囲から水晶がナッセとヤマミとリョーコを覆い尽くさんとしてくる。速い!
ズズン、と一件の家ぐらいの水晶が聳えた。
「ほう」
ルルナナが視線を横に移すと、黒い花吹雪がズズズズと螺旋を巻いて中からナッセたちがザッと降り立った。
ヤマミは漆黒の妖精王に変身してナッセとリョーコを連れて時空間転移で逃れていたのだ。
ナッセは一息をつく。ふう……。
「時空間転移か。永遠の魔法石ムーンストーンで捕らえて、コレクションにしたかったがのう……。すばしっこいわ」
「あんた……!!」
「お前は一体誰だ……?」
ビュウウウ、と無数の草の葉が舞って流れていく。
赤い月の下で、ルルナナは丁重にお辞儀する。そして艶かしい笑顔でニマリ。
「七つの魔王が一角、月夜の悪夢女王ルルナナでございます……。今後お見知りおきを…………」




