60話「夜空の宿屋!! それぞれの思惑!!」
キャベツー港町の食堂で情報を得たナッセたちは、その晩に宿で泊まった。
そこでは広い海が見渡せて、灯台が照らし続けているのが見える。夜空はキラキラ星々が煌めいているぞ。
「ねーねー!! 七つの魔王ってどんなのー?」
「ノリノリだなぞ……」
「だって、ナッセが作ったんでしょー? 聞きたいなー」
一部屋に三つベッドがあるところで、ナッセとヤマミは腰掛けてて、リョーコは両手で頬杖うつ伏せして足を振るっている。
咳払いして、恥ずかしいながらも説明した。
七つの魔王は当然ながら七体いて、最強の混沌王を筆頭にして暗躍している。
混沌王アリエル。
天空王ティアーメ。
狂乱火星ゴルンレーヌ。
薔薇卿ナース。
月の神秘ウー。
暗黒魔竜クセアムス。
煉獄竜王フレアネスド。大会でナッセに倒されて死亡。
「……だ。もし噂が本当なら、この中の誰かという事になる」
「へー! 七つの魔王かぁ! 面白そうなの考えたものねー!!」
ニヤニヤ茶化すリョーコに、ナッセは赤くなって「うっさい!!」としかめっ面する。
ヤマミは片目を瞑ってため息。
「漫画にもそんな展開ないでしょ?」
「ああ。……あるとしても、ガロンナーゼ北西半島で暗黒魔竜クセアムスが支配していて禁止区域『忘れられた半島』になっている。こいつは除外だな」
「今度、漫画見せてー!!!」
目をキラキラさせて歓喜するリョーコ。ナッセは「うう……」と気が滅入っている。
「じゃあ、そっちの小説も読ませろよ」
「えー!!! ヤダヤダー!!」
「ならダメだ!!」
リョーコはぷーと頬を膨らます。
「私は全巻通して読んだけど、このオロナーン大陸自体ないもの……」
「ああ。たぶんリョーコが考えた魔貴族の誰かが支配してて、そいつを七つの魔王と誤認したと思う」
「なにそれ!? ヤマミ読んだの!? ずるい!!!」
「彼氏の漫画だからね。ふふん」
なぜかヤマミはドヤ顔。なんで誇らしげなんだろう?
ナッセは知る由しないが、ヤマミは結構独占欲があるのだ。
「じゃあさ、リョーコの小説に『永遠の楽園』イベントあるのかぞ?」
「えっ!!?」
飛び火させてみると、案の定リョーコが仰け反った。
「お、オロナーン大陸編は書いてないからー!!」
「キャラ設定集にも、そういう予定の敵キャラいるんじゃない?」
ヤマミが鋭く切り込むと、リョーコはギクッと竦んで汗タラタラになっていく。
「白状せー!! うりうり」
「もー分かったわよ!!! まだ話に書いてないけど、魔貴族の二人がダッグを組んでオロナーン大陸で『永遠の楽園』を作って支配してる設定。永遠の夜が特徴の亜空間『深淵殿造』がその正体だよー」
「その魔貴族二人の名前は?」
「イケメンドラキュラ風の不死邪爵ナイトメア。悪女サキュバス風の月夜令嬢ルナティ。四魔貴族直属の部下だよ。戦闘力としては格下だけど厄介な能力でハメてくるの」
「やはり……!!」
「決まりね」
ナッセとヤマミは頷き合う。
それに七つの魔王じゃなくて良かったと、安堵もした。
「まだ設定だけなのに、こうして具現化されてるのなんでよー!?」
「よかったな。エタ作品の続きを何かのチカラで始めてくれてさ……」
「なにそれー!! よくなくなーいっ!! 嬉しくなーいっ!!!」
ブンブン腕を振るってリョーコは涙目で悶えている。
彼女にとっても黒歴史で、赤裸々なのだろう。しかし一体誰が続編を作り出しているのだろう?
この世界に創造主がいるなら、とんでもない悪趣味だなぞ。
ナッセたちとは別の宿屋で、アーサーたち騎士団が宿泊していた。
外観周囲に騎兵用の馬が複数停められている。
三人の聖騎士を前に、騎士団が背筋を伸ばして整列していた。
「早朝で出発する!! それまでに休息を取れ!!」
「「「ハハッ!!!」」」
解散して、ぞれぞれ宿屋の部屋へ戻っていった。
アーサー、グランハルト、アレフは一息を付いて、一緒に部屋でくつろぐ。
「……精鋭の騎士団には悪いが、囮で七つの魔王が支配する王国へ踏み込ませてもらう」
「ああ。あの『永遠の楽園』に行った人々は二度と帰ってこないらしいからな」
「ハハッ。心が痛むぜ」
部屋でも馬に乗ったままのアレフが笑っていて。二人は「……」と沈黙。
「ともかく、真相を暴くには多少の犠牲もやむを得ない」
「俺が先陣を切って踏み込むのは……?」
「グランハルトは優しいからな。気持ちは分からんでもない。だが、できれば三人で叩きたい。いかにクラスチェンジした最強騎士といえども、相手はあの七つの魔王だからな」
「先行して殺された騎士団の仇を討つ口実にもなるぜ。遺族もそれで納得するだろ。ハハッ」
「アレフ!! 言い過ぎだぞ!!」
「おまえは黙っててくれ」
任務を忠実に遂行せんとするアーサー。人情があるグランハルト。そして一見人でなしっぽいアレフ。
聖騎士も三者三様のようである。
「大昔より長く続いているギルガイス帝国の為にも、七つの魔王と金色の破壊神の討伐を成し遂げねばならん……!! 皇帝陛下の長年にわたる悲願なのだからな!!」
「ああ。至極真っ当な悲願だ。ヤツらのせいで世界が崩壊して、大勢の人々が死に絶えるなど我慢ならん!!」
「不条理なのは世の常だぜ。例え犠牲者が多かろうとも、国が滅ぼうとも、大元を断たなきゃ悲劇はいくらでも繰り返されるからな。ハハッ!!」
「「ああ……!!」」
三人の聖騎士はとうに覚悟を決めている、そんな真剣な目を見せていた。
そして夜は明ける……。




